第四話 〜これまでの人生〜

太陽そらは本当ならいつも夕食後の自由な時間では、居間など一階でゆっくりするのだが、今日は何となく自分の部屋へと戻った

部屋に着くと真ん中に置いたテーブルの近くに座る

それから少しして今日行った乱狂山らんきょうざんの事を思い返していた


「そういえば本当に実在していたんだよな…」


そう口に出しながら、乱狂山らんきょうざんに〝あの〟六番目の都市伝説うわさ〝必ず死ねる山上の崖〟のオリジナルがあった事を思い出す


太陽そらは噂通りそこにあった事に対して、どちらかと言うと〝困惑〟や〝戸惑い〟に似た感情を抱いていた

それもそのはず、まさか本当にあるとは思わないからだ


ただ六番目の都市伝説うわさ通り、そこにあの〝必ず死ねる自殺の名所〟があった事に対しては、どこか〝よかった〟〝ホッとした〟そんな感情もあった


そんな事を思いながら徐に机に向かう

机の椅子に腰掛けると


「そういえば僕って十五になるんだよなぁ」


そう呟き、何となく昔の事を思い返していた




太陽そらの生まれは田舎の町で、両親は作家の父と専業主婦の母だった

今思えば田舎でも結構恵まれた環境だった


ただその恵まれた平凡で幸せだった人生は、ある日一気に転げ落ちていった

始まりは確か太陽そらが八歳の時だ

両親が過労で死んだんだ、、、


「もうあれから約七年経つのか・・・」


そう溢した太陽そらは、それから少し両親との思い出に浸っていたが


「そういえば、その後は確か・・・はぁ」


そう呟きながらその後の事を思い出すと、自然とため息が溢れていた

きっと余りにも苦しい日々だったからだろう


八歳の時に両親が過労で死んだ後に、家から離れたくなかった太陽そらに合わせて引っ越してきたのは、母方の二従兄はとこに当たるお兄さんだった…

すごく優しかったのを覚えている


けど、借金を抱えていて太陽そらの父が残した遺産に手を出した・・・

挙句、警察が目をつけていた指定暴力団の、麻薬組織の一人としてこき使われ逮捕された

最後の夜、お兄さんは太陽そらと別れる際に


「すまなかった」


と謝っていたよな

今でもその言葉は太陽そらの耳に残っている

あれほどまでに申し訳なさそうな、お兄さんの姿を見た事が無かったたからだろうか

それとも優しく接して気を許していたからだろうか


あの時の太陽そらは、お兄さんが裏切ったと知って、とてもショックが大きかったようだ

それがあってか、今でも人を心からは信用できないでいる…




その後に来た父方の叔父さん夫婦はもっと酷かった…

何が気に入らないのかいつも暴行、脅迫、虐待の日々だった

あの頃は心身共に苦しめられたものだ・・・


その中で桜野刑事が様子を見に来た時もあったけど、結局叔父さん夫婦に騙される形で気づいてくれなかった

あの後に『助けを求めようとしたよな!』と言われて、死ぬほどの恐怖を味わった太陽そらは、今でも思い出すだけで震えが止まらなくなるぐらいだ




そんな家での地獄を耐えながら中学になった時には、そんな太陽そらにも友達が二人できた

名前の漢字が二人とも〝雪〟で仲良しだったから有名だった


ふう〟と〝ゆき〟って読みだけが違うから、名前を書いたプリントとかは先生もよく間違えたりしてた

そんな二人の友達ができたから太陽そらも、どうにか叔父さん夫婦の虐待に耐えられた




そのあと結局は叔父さん夫婦は捕まったけど、あの時の太陽そらは心の中ですごくホッとしていた事を今でも覚えてる

そういえばその後に来たのが、桜咲さんだった


桜咲さんは桜野刑事の同期で刑事をしていて

そして驚く事に、母方の従兄いとこで葬式の時も来て手伝ってくれた人だった

偶然って…本当に怖い




それから確か一年ぐらい過ぎた頃に、太陽そらは子猫のクロを拾って育てていた

本当に可愛いやつだった…

太陽そらはまるで心の拠り所が出来たみたいに楽しそうだった


そのあとクロを飼いはじめてから二年経って太陽そらは高校に入学した

すごく幸せな日々を過ごしていたけど、一ヶ月過ぎたくらいに学校で、今の時代では当たり前になった、どこにでもよくある〝いじり〟の標的になった…


そのせいでクロは殺された…

太陽そらもあの時ばかりは、とても苦しくて悲しかった・・・

大切な家族の一員で二年も一緒に暮らしていたから、、、


そんな太陽そらにはその悲しみに浸る余裕も無いくらい〝いじり〟が続いた

クロが死んでしばらくは無かったけど…

結局〝いじられる日常〟にはすぐ戻っていった

今でもそれは続いているけど…




それは置いといて、始めの頃は心身ともに虐待された事があって人と関われなくて

そんな時の桜咲さんのあまり干渉しない対応には、太陽そらもすごく救われたようだった


ただ…三年も一緒に過ごしているのに、相変わらずその関係にある。今ではその関係が


〝ここは君の居場所じゃない〟


と言われているみたいで少し悲しくなっているようだ


久しぶりにそんな今までの事を振り返っていた太陽そらは、本当に不運な運命じんせいを歩んで来たことを改めて感じていた


「・・・僕は

僕はこんな酷い人生を

なんで今も生きてるんだろうなぁ

思い返してみたけど、本当に散々な人生だったのに、、、」


そう溢しながら今までの人生を振り返り、本当に〝なぜ自分が今も生きているのか〟疑問が頭の中に浮かんで離れなかった

そんな太陽そらの頭に次に浮かんできたのは、あの都市伝説うわさの〝必ず死ねる山上の崖〟だった


それはまるで、これまで頑張って生きてきた不運な運命じんせいを〝もうここで終わったらいいよ〟と後押しするようなそんな感じにも思えた

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