第四話 〜昼休み〜

昼休みが始まると太陽そらにとって一番憂鬱な時間が同時にやってくる

学校生活の中での一番長い休み時間があるからだ


「お前また先生の前で俺らの事バラすようなこと言いやがって〜」


と悪ふざけの口調で最初に一発頭を殴られる

太陽そらはそれに対して〝さすがに気を抜きすぎだった〟と反省しながら〝次からは気を抜かないようにしないとな〟と改めて覚悟を決める

その横で、クラスの奴らは遊ぶ道具を着々と準備し始めていた




「よし、準備できたぞー」


と準備を終えた一人が周りを呼ぶ


「おーできたか、じゃあ早速始めようぜ」


と笑いながらぞろぞろとクラスメイトが集まる

今日は〝罰あり鬼ごっこゲーム〟をするらしい

このゲームとは一人〝主に太陽そら〟が逃げてそのほかの全員が鬼をすると言う鬼畜ものである

捕まったら捕まえた人の考えた罰ゲームをさせられる

いわゆる拷問ゲームだ

太陽そらの中では一番きつくて嫌なゲームだろう

なぜなら一人でクラス全員を相手に逃げないといけないし、どんな罰ゲームかは捕まえた人しか知らないのだから〝勘弁してほしい〟と思っても不思議おかしくはない


「じゃー始めるぞー

よーいスタート」


とそんな事を考えている間に一人のリーダー格が、ゲームの始まりを告げたようだ

始まると太陽そらの行動は、取り敢えずは逃げるに限る!

慌てて走るが流石にこの人数を撒くのは厳しい

それに中には運動部をしてる者もいるときた

校庭を走り回りながら校舎裏に逃げ込むも

結局…あっさりと捕まってしまった




今日太陽そらを捕まえたのは山道さんどう 紅葉くれはと言う、あまり目立たないクラスメイトの一人だった

太陽そらも〝あまりこの人のことは知らない〟が〝他の人に捕まるよりは断然ましだろう〟と感じたように見える

太陽そらがそう思うのも無理はないだろう

この紅葉くれはという人物は〝やる気のないことで有名〟だったし〝そんなに酷いことをしてくる人〟のように感じないからだ

そんな横から


「おぉ紅葉くれは

珍しいなお前がこんなゲームに参加してるなんて」


とクラスメイトの男子一人が横から話しかけてきた

それに紅葉くれは


「別に、ただ目の前を通ったから捕まえただけだし」


と淡々とした言葉で返した

周りの女子はそんな紅葉くれはに少し惹かれている様子を見せる

そんな女子を見て少しイラついた男子は


「ほら、捕まえたんだからなんか罰ゲーム決めろよな」


と急かすように言った

それに対して


「なんだ今日はそんなくだらないゲームをしてたの?

罰ゲームね…」


というと少し黙り込んでしまう

そんな紅葉くれはは何かを閃いたのか、不敵な笑みを浮かべて


「ならあれはどうかな

〝彼が先生の前で僕を殴る〟て言う簡単なゲームなんだけ…」


と言った言葉に割り込むように、周りにいた一人が


「はぁ〜

お前それのどこが罰ゲームなんだよ

お前さぁー、もっと空気読めよな」


と声をあげた

その意見に周りにいる全員も賛成らしい

その行動で目をつけられたのか、紅葉くれは太陽そらがいつも受けていたあの〝嫌な視線〟が全て集まっていた




〝もしかして紅葉くれはは僕をかばってくれたのか?〟と太陽そらは思ったが、次の瞬間その考えを持った太陽そら紅葉くれはの言葉に〝どうあろうと自分が標的に変わらない〟ということを思い知らされた


「あははははははは」


紅葉くれはは腹を抱えるようにしながら笑い始める


「お前らバカなのか

まさかこの僕が出した提案が、罰ゲームにならないと思ってるの」


と笑い泣きの涙目を手でこすりながら言うと紅葉くれはは、その罰ゲームを提案した理由を嬉々として話し始めた


「いいかい君達

最初に言っておきたいことがあるんだけど

いつも君達の〝いじり〟の様子を見てきたが、生ぬるいと思ってたんだよ」


その言葉に周りの人は少し不機嫌になりながらも、紅葉くれはは気に止めることなく話を進めた


「まず暴行・無視・恐喝・気晴らしと君達の行為はそんな所だよ基本的に…

どうせこいつの保護者が警察関係の人で、前に捕まった奴らがいたからビビってるんだろ?」


といつのまにか頰に手をついて座りながら話している

そんな紅葉くれはの言葉に全員少し目を背けた

どうやら紅葉くれはの言ってる事は図星らしい

そんな様子を少し面白がるように、一瞬笑顔を見せたがすぐに


「これはそんな君達がやりやすくするための手助けだよ」


と話を進めた




紅葉くれはのその言葉に太陽そらも含め、誰もが訳もわからなかったが、すぐにその答えを話し始めた


「いいかい。そこの彼が僕を先生の前で殴る

すると先生は〝彼が僕をいじめている〟と誤解するだろ

そうすれば彼をいじった時に先生が

〝耐えきれなくなった周りのみんなが、それを講義するときにやり過ぎた〟と勝手に誤解してくれるだろ」


その不敵な笑みを浮かべ話している内容を聞いた太陽そらは、紅葉くれはが今言った意味を察した

つまりその〝罰ゲーム〟とは〝救うため〟ではなく〝太陽そらの言葉に力を無くすため〟のものだと言うことだ


それは〝いじり〟の事実を伝えたりしても、軽く受け流されることを意味する

つまりあの一件以降マシになった〝いじり〟が昔のようにあの酷いものへ戻ると言うことを示していた

その時太陽そらの目の前は真っ暗になっていた




しかしその不安はすぐに消える


「お、お前…それ本気で言ってるのか

流石に引くぞ」


そう呟くリーダー格を中心にして、全員がその意見を聞いて本気で引いてしまったからだ

いつもなら喜んで太陽そらをいじる彼らでも、流石にそこまでは考えられなかったみたいだ

そんな彼らを他所よそ


「だってこれなら周りにバレても

〝ふざけすぎてました、ごめんなさい〟とか

〝もう耐えきれなかったんです、でもやりすぎたと、今は反省してます〟て感じに、どうとでも言い逃れはできるだろ」


と満面の笑みで答えた

周りはその姿を見て恐怖を感じたのか


「もういいよ、今日は罰ゲームなし

紅葉くれは、これからは俺らの遊びに参加するな」


と強く言い放ち解散した

いつもなら〝必ずどんな形でも〟罰ゲームがあるのだが、どうやらみんなそんな気分ではないらしい

〝助かったのか?〟とホッと太陽そらは胸を撫で下ろした

そんな太陽そらの横で、さっきまでの表情を疑うような〝何にも興味がない〟ような表情を浮かべてゲームする紅葉くれはの姿があった


太陽そらは〝本当に紅葉くれはだけは分からないな…〟と思いながら

やっぱり何処どこと無く恐怖を感じるのは、さっきの〝罰ゲーム〟の内容を聞いたからだろう

だから太陽そらもその場にいるのが耐えきれず教室へと逃げるように走って戻るのだった

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