第三話 〜クラス〜

先生が教室に来ると、仲の良いクラスを装うための裏工作が実ってきたのか


「おはようございます」


と挨拶する先生にみんなで揃って


「先生おはようございます」


と元気よく挨拶を返せるようになっていた

今では〝どのクラスよりも大きな声で挨拶するクラス〟で、高校になって〝こんなにも元気に挨拶できるクラスは初めて見た〟と校長先生が全校集会で太陽そら達のAクラスに特別表彰を作るほどだった


そんな周りから見たとても元気の良い仲良しクラスは、朝のホームルームが終わり先生がいなくなると一瞬でスイッチが入れ替わる


「さぁ一限の先生が来るまで僕らと遊ぼうね!」


とさっきまでとは違う不気味な笑顔を浮かべたクラスメイトが太陽そらに告げる

周りも一瞬で元気な様子が無くなって〝いじりやすい雰囲気〟に変わっていく

この切り替えの早さも今となっては自然な流れと変わらず、誰にも違和感を感じさせないほどに精錬されてきていた




「じゃあ今日はこれで遊ぼうよ」


と一人の女子がピストルを取り出す

もちろん本物じゃなくてBB弾を打ち出すおもちゃだが、人が普通に考えている以上に当たる箇所でとても痛いそれは〝もはや凶器に近い代物〟である

そんなピストルを持つ彼らは、太陽そらの反応を見て〝BB弾があたると痛い箇所に当たったら勝ち〟など点数をつけて遊び出す


〝パン、パパン〟


と何発かBB弾を打ち出す


「いた…」


つい太陽そらが声を出してしまう

こうなると周りはものすごく盛り上がる

いつもの展開だ・・・

こうなると誰が一番当てられるかの打ち合いになる

打たれる太陽そらにしたらたまった者じゃ無い

そんな遊びで当たるたびに


「よっしゃ、あたった〜」


と当てた奴が叫ぶ

それにつられる形で


「よーし次は俺も当てるぞ!」


と言ってさっきよりも撃ってくる弾の数が増えていく

そんな盛り上がって楽しんでいるが授業の始まる時間の四分前になると


「もうそろそろ先生くるぞ」


と時間を確認していた数名が終わりを告げる

それを聞いたみんなはまた、気持ちを切り替えて授業を受ける準備を済ませる

一限が始まると流石に十分休憩では遊べないのか、この仲が良い雰囲気を崩してまで太陽そらを〝いじり〟には来ない

もう一つ付け足すならば太陽そらに用事があるときなどは、怪しまれないようにいじっては来ない

今日はそんな用事がないから昼休みになったら、またあの〝いじり〟が始まる




〝はぁ、やっぱり流石に憂鬱だ〟


太陽そらは誰にも聞こえない心の中で溢しながら、窓の外から見える空に目を向ける


「あんな青い空に逃げられたらいいのにな」


と思いながら外を見ていた太陽そらの前に数学の先生が


「ほー、そんなに俺の授業は嫌なのかな太陽そらくん」


と引きつった笑顔で目の前に立っていた

〝やばい、声に出てた〟

太陽そらはそう思うと同時にとっさに口から〝笑えるほどスラスラ〟と


「いやーそろそろテストが近いから

授業自体が嫌いなわけじゃないですよ

むしろハシヤン先生の数学の時間なんて、お菓子とか使うからめっちゃ楽しいですし」


と言い訳をした

結構慌てた様子に見えるだろうが、今日はラッキーだった

こんなとっさの見えすぎた言い訳をしても、目の前にいる数学の橋本はしもと康重やすしげことハシヤン先生は信じるタイプの人間だ

正確に言うと学生の太陽そら達と年が近いこともあって、相当仲よくやっているから

多分この言い訳をすれば…


「もーそんなお世辞ばっかり言って

テストはみんな嫌いなんだし逃げられないものでしょ

今しているところが一番テスト範囲にでるから、しっかり聞いて覚えてね

ほら頑張る頑張る」


と言うだろう・・・と予想した通りの答えを返しながらハシヤン先生は授業を再開させる

それに太陽そらは〝やっぱりハシヤン先生だよな〜〟と思いつつも〝さっきこぼした事は多分ほかのクラスメイトにも聞かれているだろうなぁ〟と昼休みが余計に憂鬱になっていくのだった

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る