後日談

 あれから僕は高校を卒業し大学へと進学、無事卒業した。そしてそれなりの会社に勤める社会人となった訳だが、ずっとクラシック音楽は耳元にいた。あの日以降、色々な作品を聴くようになってピアノ以外にもヴァイオリンとかオーケストラとかにも興味を持ち始めた。

 そして夏樹さんともたまに連絡は取ったし実際何回か会ったこともある(初めて旦那さんに会った時は少し複雑と言うか変に緊張したというか。でも良い人で良かった。本当に良かった)。とりあえず夏樹さんは幸せな家庭を築けているらしい。それは僕にとっても喜ばしい事。それと僕が社会人となった今では夏樹さんも2児の母親だ。

 一方、僕はと言うと。社会人になる今まで何人かの女性とお付き合いさせてもらったけど最後は別れてしまった。理由は色々。でも社会人になって2~3年目ぐらいにある運命的な出会いをした。僕らは共通の話題があったこともあってすぐに距離を縮め付き合い始めた。そして2年後に晴れて結婚。

 僕はヴァイオリニストの妻と一緒に幸せな日々を送り始めた。

 そして今でも時々、ピアノを弾くしあの曲を弾けば良い想い出としてあの頃が蘇る。けど同時にあの時の気持ちも思い出してしまう。多分これはこの曲と紐づけされたモノなんだろう。


「パパぁー。何でそんなお顔してるの?」

「ん?さぁ。何でだろうね」

「私パパの弾くこの曲大好きだよ!」

「ありがとう」

「でもパパは少し悲しそう。この曲嫌い?」

「いや。大好きだよ」

「じゃあなんで?」

「んー。もしかしたら奏音かなでにもいつか分かる日が来るかもね。―――いや、やっぱり来なくていいかな。奏音は分からないままでいいよ。むしろ分かって欲しくないかも」

「えぇー。なんでー。私も知りたいー」

「まぁどちらにしろそれは奏音がもう少し大きくなってからだね。それよりほら、最後のところ一緒に弾こうか。おいで」

「やったー!弾く弾く!」


 もしあの時、現実が僕の思い描いた通りになっていたらどうなっていたんだろうか? 今の僕はどんな人生を歩んでいた? 今より幸せ? それともそうでもない? 弾き始めから終わりまでどんな音を奏でればいいかを教えてくれる楽譜と違ってそれは全く分からない。だけど1つだけ言えることがある。

 ――今の僕は最高に幸せだ。

 そんなことを思いながら僕は窓の外を眺め青空に溶けゆく旋律を眺めていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

青空に溶けゆく旋律 佐武ろく @satake_roku

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説