最終章15話『男の子だから』


「にい……さま? なぜ? なぜですか!? そいつは私たちを弄び続けた悪い神様なんです! 何度もカヤさんや兄さまを苦しめた悪い神様なんですよ? なんでそんなやつを庇うのですか!? 兄さまはそいつが憎くないのですか!? 答えてください! 兄さま!」


「確かにこの広河さんには色々と思うところがあるよ。泣くまで殴ろうと思った事もある。だから、ウェンディスが広河さんを殴りたいって言うのなら僕はそれを止めない。でもね……そこまでだよ。殺してしまうのは悪だ。僕はそれを許さない。意志ある人間を殺すことはどんな理由があるにせよ悪なんだよ、ウェンディス。それを勇者である僕が許すと思うかい?」



「悪、悪、悪って……馬鹿にしてるんですか兄さま! そんな単純な物差しで測らないでください! そもそもどちらが悪いかなんて一目瞭然じゃありませんか!? 私たちの心を弄び、一生を過ごさせるその邪神の方が悪に決まってるじゃありませんか!? 私だけじゃありません! この世界の人すべてがそこの邪神に操られているような物なのですよ!? ただ殺すよりも邪悪で悍ましい行為だとは思わないのですか!?」


「そうかもしれないね」


「ならなぜ!?」



 なぜ? と問われる。色々な答えが浮かぶ。


 それでも殺すのは悪だ。

 勇者として意志ある者を殺すのは許さない。

 あの神様も色々抱えていたんだから仕方ない、これから改心させよう。


 他にも様々な答えが浮かぶ。でも、そのどれもがこの場にふさわしくない。いや、僕にふさわしくないような気がする。


「たすけてよって言われたんだ」


 口から思わず漏れた言葉。


「え?」


 ウェンディスは何を言われたのか分からない。そんな表情を見せる。

 実際、そう思っているのだろう。

 逆に僕は――


「ああ、そうか。はは。僕っていう奴はなんていうか……単純だなぁ」


「な、なにを笑っているんですか? 兄さま」



 スッキリとした気分だ。僕がなんでこんなに怒っているのか。なんで広河さんを助けたいと思っているのか。


 

「ああ、ごめんごめん。なんで僕が広河さんを助けるのかって話だったよね。別に難しい理由なんてないよ。――助けてよって言われたから……女の子から助けてよって言われたら助けたくなるのが男の子ってもんなんだよっ! 勇者ならなおさらだよねぇ!!」



 そう、たったそれだけの理由。そして、それだけでいいんだ。僕が頑張る理由なんて。難しい理由なんていらない。ただ、そうしたいからそう行動する。それだけでいい。



「ふ、ふざけないでください! なんなんですかその子供みたいな理由は!?」



「子供みたいな理由で結構! っていうか勇者を目指すなんて子供じゃないと言えないんだよ! だから僕は子供でいい」



「……ビックリ。ユーシャって自分が子供だっていう自覚あったんだね」


「はぁ。まったくこんな展開になるとは……。慣れない事はするものじゃありませんね。お嬢様の中であなたの株が更に上がってしまったじゃありませんか」



「エルジット!? それにセバスさんまで!?」


 神父さんが持ってきていた不思議アイテムによって閉じ込められていた二人がなんかすっごく狙ったかのようなタイミングで出てきたよ!?



「頑張ってねユーシャ! 私はここで応援してるから!」


「では私はお嬢様をお守りしましょう。それとそこの貧乳の彼女……えーー、名前はなんと言いましたか……外での状況はきちんと見ていたのですがどうも貧しい乳の女性の名前は記憶に残りづらいですなぁ。まぁ良いでしょう。そちらの貧乳、放っておくと死に至るので私が回復させるとしましょう」



 そちらの貧乳って……ああ、広河さんの事かな? っていうか胸で人を判断しすぎでしょこの執事……クズだなぁ。いや、申し出自体はありがたいんだけどね。


「それじゃあ頼みますセバスさん。エルジットは……まぁ、うん。邪魔しないようにね?」


「なんで私だけそんな扱いなの!? もっと感謝するとかしてもいいんだよ?」


「ウワー、オウエンシテクレルナンテスゴクウレシイナー。アリガトー、エルジット」


「なんで棒読みなの!?」



 いや、しょうがないじゃないか。セバスさんはちゃんと役立つことをしてくれようとしてるのにエルジットは応援って……。正直してくれなくてもいいっていうかセバスさんと一緒に広河さんの傍に行ってくれるとありがたいかなぁ……なんて。



「エルジットちゃん。洒水に応援なんて必要ねぇんだよ。俺たちは洒水の足りないところを補うだけでいいんだよ。後の事は洒水がみーんなどうにかしてくれるさ。そうだろ? 洒水?」


「レンディアよ……。前々から思っておったのだがお主はなぜそこまで主様を信じられるのだ? それも設定とやらの一つなのか? いや、まぁお主には感謝しているのだがなんというかその……少々気持ち悪いぞ?」


「レンディア! それにカヤまで……ってあれ!? もう大丈夫なのカヤ?」


 そういえばカヤが気絶した後はそのまま放置して戦っていたような……よく無事だったなぁ。



「大丈夫……だと? 死ぬところだったぞ主様ぁぁぁ!! 動けない体で意識だけはあったのだが……あれなら意識も刈り取られていた方が良かったわぁ!」


「まぁしょうがねぇよカヤちゃん。洒水は前だけを見て進むおとこだからな。俺に出来る事はそんな洒水の足りないところを補う事くれぇだよ」


「レンディアよ……本当に……ほんっっっっとうに感謝するぞ!!! お主が居なければ童は串刺しとなって死んでおっただろうからなぁ」


「なぁに、気にするなよ。それにあんなの俺がやらなくてもきっと洒水がなんとかしてくれたさ。あいつは俺が居るからこそ……俺を信頼して前だけ見ていてくれたのさ。そうだろ? 洒水?」



 …………………………え?

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