最終章14話『兄弟喧嘩』
「広河さん! 広河さん!」
やはり魔法が使えればいいのに……そう思わずにはいられない。
回復魔法なんかが使えればその傷を癒してあげられるのに……。
カヤは昏倒していて傷を癒すどころじゃない。
レンディアも魔法が使えない。
ウェンディスは……様子がおかしい。
「くふふふふ、やっぱり居ました。私たちを操る存在が。私たちの一生を管理するクソ野郎が居たんです! あぁ、この方さえ居なくなればきっと私たちは本物を手に入れられます」
未だ不気味な笑みを浮かべているウェンディス。
「一体どうしたって言うんだよウェンディス!? 一体なんでこんな真似を!?」
「…………」
なぜこんな事をするのか。それを問うとウェンディスはその笑みを消し、瞳を閉じる。そしてゆっくりと瞳を開け、視界に僕の姿を映すと
「愛しています、兄さま」
と、愛を囁いた。
「兄さま、愛しています。例え他に何人の女性と関係を持とうとも、いつも周りに振り回されてばかりでも……私は兄さまを愛しているんです。兄さまとひとつになった時、ウェンディスは本当に幸せでした」
だが、その告白は「しかし」と続き、
「私は兄さまを誰よりも愛しています。
「それは……やっぱり元の世界のお兄さんの方が好きって事? それと広河さんを刺した事に何の関係が?」
「ハッ……私があの兄を好き? 愛している?」
そうウェンディスは吐き捨てるように言う。そのきれいな顔をゆがませて。
違う……のだろうか?
ウェンディスの想いは一体どこへ向いているのだろうか?
「ええ、愛していますよ。この世界に縛られて毎日毎日同じことばかりしていた兄さまの事をね!! 決まった時間に狩りに出て、決まった時間に帰ってきて、決まったセリフだけ喋る兄……なんで私はあんな兄を愛しているんでしょうね? 兄さま、分かりますか?」
何も言えない。
ウェンディスがお兄さんを好きな理由。恋とはそういうものだから。そう説明出来たらいいけれど、きっとそうじゃない。
ウェンディスがお兄さんや僕を愛している理由。それは――
「そこの神様も言っていたでしょう? 設定、設定、設定と。私のこの想いもどうせ設定なのでしょう!? 愛情なんか関係ない! ただ、そこの神様がそう設定したから! 私も、私の兄さまもレンディアさんもみんなそう創られていたからそう動くしか出来なかったんです! 滑稽ですね。まるで不出来な操り人形です。全部、偽物なんです。でも――」
怒りに身を任せ、語気を強めるウェンディス。その瞳は僕が抱えている広河さんへと注がれる。
「そこの神様を殺してしまったら? きっと――私たちは本物になれます。設定なんかじゃない。偽物なんかじゃない。本物が手に入るんです。そこの神様を殺して……それでもまだ私が兄さまの事を愛せるのか? もしそれでも私の愛が続くのならば、この想いを私は信じましょう。この想いが私の本物だと信じることにしましょう。だから、そこの神様を殺してしまいましょう? 兄さま? 兄さまだってそこの神様に今までいいようにされてきたじゃありませんか?」
確かに僕をこの世界で振り回し続けていた神様の設定。それを作ったのはこの広河さんなのだろう。恨みはある。今まで何度出会ったらぶっ倒してやろうと思ったことか。だけど――
「殺すのはダメだよ」
きっかりと否定の言葉を出す。
悪い神様だから殺す? そんなセリフ……よくも僕の前で言えたものだね、ウェンディス。
今回は冗談じゃ済まされない。神父さんだってもう居ないんだ。蘇生の手段はもう無いとみていい。第一、神様である広河さんが死んだ場合、蘇生できるかどうかはかなり疑問だ。つまり、ここでの死は今までの取り返せる死ではなく、取り返せない死であるという事になる。
僕は懐から”フロッティ”を取り出し、ウェンディスへと向ける。
「にい……さま?」
「広河さんは殺させない。いや、ウェンディスに取り返しのつかない人殺しはさせない。来なよ、ウェンディス。本物の兄弟じゃない僕らの、初めての兄弟喧嘩だ」
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