最終章12話『広河 子音-8』
前書き
今回の話は広河子音の回想であり、広河さん視点です。
その為、出てくるのは基本的に広河さんのみであり、その他は基本登場しません。
★ ★ ★
そうして魔王も面白い感じに色々動いてくれた。満足したボクはゲーム感覚で何周も世界をリセットした。そのたびにイベントの設定などを面白くしてみた。
唯一残念だったのが、何周かしたころ、魔王が何のアクションも起こさなくなったことだ。
どうやら魔王は各周回の記憶を保持してしまっているらしい。
魔王カヤの技能:吸血・記憶力強化EX・全体攻撃強化LV3・自動回復LV1。
この記憶力強化EXがあるから魔王カヤは各周回の記憶を保持することができる……のだと思う。
一旦この技能を消そうかな? とも思ったのだが、この魔王カヤは最初の勇者の血液を元にして作ったオリジナルの存在だ。つまり、何かあれば取り返しがつかない。新しく作ろうと思っても作れない存在だ。
なので、技能はそのままにしておいた。まぁ、各周回を覚えているからこそ面白い展開っていうのもあるしね。これはこれで面白いだろう。
そうしてボクはいつものように魔王が倒されたら世界をリセットして勇者の召喚されるのを待つ。
ザザッ――
「ん?」
奇妙なノイズ音。それがボクの世界から発せられたような気がした。
「何だったんだろう?」
今しがた召喚された勇者の方を注視してみるが、特に変わったところはない。今回の勇者は女性のようだ。
「気のせい?」
そのまましばらく勇者の事を見ていたら騎士の一人が勇者に切りかかろうとしていた。どうやら勇者がお姫様を侮辱したみたいだ。しかし、切りかかられても勇者は頭を抱えて迫る白刃に対して恐怖するだけだ。まぁこの世界では魔王以外は死んでも教会で蘇生ができるのだけれど。
「ん?」
しかし、その騎士の一人の白刃が第三者の手によって止められた。
それは白いひげを生やした老人だった。老人とは言っても、外見からは弱弱しい感じなど微塵もなく、筋肉が程よく付いていて鍛えられているのがよく分かる。
老人は勇者である少女を守る位置に居る。親し気に二人は話しているけれど知り合いだろうか?
「ステータス閲覧」
どんな能力を持っているか。そもそもこの人物が誰なのか知るためにボクは彼らの情報へとアクセスする。既にゲームは始まっているので細かい設定などはもう変えられないが、見るだけならいくらでも出来るのだ。
★ ★ ★
エルジット・デスデヴィア 16歳 女 レベル:1
クラス:勇者
筋力:4
すばやさ:6
体力;5
かしこさ:8
運の良さ:10
魔力:0
防御:5
魔防:0
技能:従者召喚・言語理解
★ ★ ★
名前 戦神アレス 年齢 140億歳 性別 男 レベル:∞
クラス:従者・闘神・勇者・執事・巨乳マスター
筋力:∞
すばやさ:∞
体力;∞
かしこさ:18
運の良さ:8
魔力:0
防御:∞
魔防:∞
技能:破壊・狂乱・自制・守護・忠誠
★ ★ ★
「……なんだい? このお爺さんは?」
完全にモノホンの神様じゃないか。確かギリシャ神話とかで登場してた神様だよね?
しかもよりにもよって戦いの神ときた。まさか初期段階で魔王を軽く倒せるくらい強いとは……。
「ま、まぁきちんとクラスに勇者が付いているし問題ない……のかな。この世界に住む魔王以外の全ての人間には勇者からの影響を受けないっていう裏設定を組み込んであるし。たまには俺TUEEE展開も面白いかもしれないし?」
もしかしたら先ほどのノイズ音の原因はこの戦神アレスだったのかもしれないね。まぁ、楽しんで見ることにするかな。
唯一気になる事があるとすれば――あの勇者、エルジットちゃんってどこかで見た事があるような――
ザザッ、ザーーー、ザザツ
「ん?」
まただ。またノイズ音が僕の創造した世界から聞こえてくる。
「特に変わったところは見当たらないけど……」
今は勇者のエルジットちゃんとその執事がお姫様とお茶しているところだ。特に変わった様子はない。
しかし、念のために隅々まで見てみる。おかしいところが何かないかを見てみると――
「……あれ?」
目に留まったのは魔王城があるニヴルヘイムにただ一つだけあるラストの村。そこの村人たちの様子がおかしい。
「決められた行動から外れている?」
この世界でボクが創造した豊友洒水やその友人であるレンディアなどの行動パターンはいつも決まって村の外での魔物退治。それが終わったら雑貨屋にその魔物たちを売って飲食物を購入し帰宅するというものだ。しかし、魔物と戦っているのはレンディアと村人であるレデック・ポレスター。豊友洒水はそれをただ見守っているだけだ。
「ステータス閲覧」
★ ★ ★
クラス:村人 勇者(微)
筋力:397
すばやさ:681
体力;578
かしこさ:387
運の良さ:1
魔力:27
防御:478
魔防:388
技能:鑑定・耕作・言語理解
★ ★ ★
「ゆう……しゃ?」
ボクが創造した豊友洒水にそんな設定は付けていない。彼はボクが元の世界で見てきた豊友洒水の姿形だけを真似た偽物。それをボクが意のままに操れるというのが面白そうだという理由で創り出した存在。なのに……勇者? それに付けた覚えのない技能まで付与されている。そもそも勇者というクラスはあの神様が用意した人物……ボクが元居た世界からの来訪者にしか与えられないクラスだ。という事は――
「しゃすいくん? ほんものの?」
ジッと彼を見つめる。姿だけじゃない。その仕草や行動までも本物の洒水君のように思える。そして何よりも彼と、彼の周りに居る人物がボクの設定とは別の行動を取り始める。
「なんで!? こんな所に彼が!!」
もうボクの頭からエルジットなんて勇者の事は吹き飛んでいた。頭の中にあるのは洒水洒水洒水! あの豊友洒水君の事だけ!
いや、それだけじゃない。彼を見ていたら思い出す。思い出してしまう。あの後悔を。どこに向ければいいか分からなかったあの憎悪を。
「もう! もう! もう! 忘れかけてたのに! もう思い出したくなんてないのに! ああ、あああ、アアアアアアァァァ!!」
髪を掻きむしり、忘れろ忘れろと自分に言い聞かせる。しかし、そうすればするほど鮮明にあの時のどうしようもない気持ちが湧き上がってきてしまう。お母さんを助けられなかった自分に対する怒り。そうした原因を作った人たちを憎みたいのに憎めないジレンマ。その中で明るく正義だ悪だと日々を無邪気に楽しんでいた洒水君。ボクがあんなに心の中で助けを求めていたのに助けてくれなかった洒水君。否、豊友洒水。
「そっか……。念願の勇者になれたんだね。洒水君」
世界の外側から彼を見る。彼の姿だけを見る。
「でもね、この世界ではボクがルールなんだ。ボクが創ったルールだけが正義なんだ。そのルールに翻弄され、困惑し、最後には諦める君の姿を見せて? そうすれば少しだけ……ほんの少しだけボクは救われる気がするから……」
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