最終章10話『広河 子音-6』


 前書き

 今回の話は広河子音の回想であり、広河さん視点です。

 その為、出てくるのは基本的に広河さんのみであり、その他は基本登場しません。


★ ★ ★


 静寂漂う静止した世界の中でボクは待った。



 ……………………………………

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「………………遅いな」



 僕が世界の設定をしていた時間も合わせればもう一か月は経っているんじゃないかな? あの神様は一体何をしているんだろう?



「少し様子を見に行ってみよう」



 ボクだってもう神様のようなものだ。今なら世界を超えて前に案内された世界の狭間とやらに行こうと思えば行けそうな気がする。



「よいしょっと」



 マンホールの穴から抜け出すような感覚――なんて分からないけど、とにかくそういうのをイメージしてみる。するとどうだろう。何かから抜け出すような感覚。



「出来ちゃった」



 ボクは前に案内された白の世界の中に居た。ここはあの神様が言う世界の狭間。世界というのは一つではなく、無数に存在しているらしい。ここはその世界と世界を繋ぐ空間のようなものだと言っていた。

 などと考えていると、



「あら? もうそっちの準備は出来たの? ……ってそんなわけないわね。こっちは簡単に希望者が見つかっちゃったわ。どれくらい待ってもらえばいいかしら?」



 現れたのは神様だった。簡単に見つかったって……一か月以上かかってるのに簡単?




「もう準備は出来てるよ。正確な時間は分からないけど一か月くらいだったかな……もうちょっと時間をかけたほうが良かったかな?」


「へ? 一か月?」


「ん? どうしたのかな?」


「いや、だって数分前くらいに私たち別れたばかりじゃない。一か月って…・…どういう事?」


「え? 別れたばかり?」


「?」「??」


 あれ? おかしいな。話がかみ合わない。神様と前に会ったのは正確には分からないけれど、少なくとも昨日今日じゃない。もっと前、体感で言うならやっぱり一か月くらい前の事だ。でも。神様はさっき別れたばかりだと言う。これは一体?



「うーん、ちょっとあなたの世界を少し詳しく見せてもらってもいいかしら?」


「うん、いいよ。どうすればいいの?」


「あなたが想像した世界の事を思い浮かべて。ただ、それだけでいいから」


 そんな事でいいの? それなら簡単だね。なにせここしばらくはずっとその事しか考えていなかったし。


「ふーん。へぇ。なるほどねぇ」


「どうしたの?」


「分かったわよ。あなたと私の感じた時間の長さが違う理由が。それはお互いの勘違いでも何でもないわ。あなたは正常だし、私も正常よ。結論から言うわ。あなたが創造した世界、軽すぎるのよ」



「軽い? 何が?」



「何がって……強いて言えば情報量かしら。あぁ、先に言っておくけど別に批判している訳ではないわよ? やり方なんて人それぞれ。他の人のやり方に手を出すほど私も偉くないつもりだし」



「別にそんなこと気にしていないよ。それより情報量の話だよ。どういう事? それと時間とどう関係があるのかな?」



「ああ、そうだったわね。簡単な話よ。不純物のない水なら抵抗が少ないでしょう? プールの水なんかがそうね。スイスイ泳げるでしょう? 例えるならばあなたの世界はそれね。対して私の世界は泥沼よ。不純物だらけの世界。だからこそ、抵抗力も強く進むのが遅い」



「つまり……情報量の大小で時間の進み方は違うって事?」



「察しが良くて助かるわ。そういう事よ。あなたの世界では動植物や魔物に至るすべてがあなたの創った設定に準じているでしょう? 終わりも過程は多少違っても勇者が魔王を倒すという道筋そのものは変わらない。つまり、変化が少ないのよ。そういう世界は情報量が少なくて時間が進むのが早いの。理解できるかしら?」


「まぁ、なんとなくわかったよ」



 つまりはボクの創造した世界では時間が進むのが早いという事だ。対して神様の創造した世界(ボクが生きていた世界)は情報量が多くて時間が進むのが遅い。



「だからボクと神様で時間の感じ方が全然違った……ってことかな」


「大正解。そういう事よ。さて、それじゃあ謎も解けたところで本題に入りましょうか。用意が出来たのならさっさとやっちゃいましょう。私が送る子がちゃんとした場所に出れるように座標は指定しておいてよね? 道は私が作るから。それでいい?」



「うん。問題ないよ」



 すでにその辺りの調整も済ませてある。

 さて、今度は退屈せずに済むかな?

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