最終章9話『広河 子音-5』


 前書き

 今回の話は広河子音の回想であり、広河さん視点です。

 その為、出てくるのは基本的に広河さんのみであり、その他は基本登場しません。


★ ★ ★


 一周目。

 僕の世界は何の問題もなく終了した。

 最後は勇者が正攻法で魔王に挑み、勝利した。



「……つまらないな」



 勇者が無事に魔王を倒して思ったことはそれだった。

 いや、勇者が魔王を倒すために旅をする道中もそう思ったのだ。ボクの設定した通りに仲間を集め、協力して魔王を倒す。創作なんかで未来予知の力を持つ人がとても退屈そうにしていたけど、その気持ちが少しだけ理解できた。


 退屈は僕にとっての猛毒だ。

 退屈だと今更考えても仕方ない事ばかり思い出してしまう。

 お母さんの事、お父さんの事、そしてボクを虐めていた彼女たちの事。


 何か一つでも違えばボクはこんな事をしていなかったんじゃないかな? なんて事を考えだしたらキリが無かった。苛立ちばかりがこみ上げる。



「次からはつまらないと思ったらすぐにリセットしようかな。いや、それは無理か。せいぜい無理やり介入して魔王を直接僕が殺してリセットできる程度……。まぁ、今はそんなのどうでもいいか。さて、次はどうしよう?」



 魔王が倒されたので世界はリスタートされる。しかし、同じ物が何度も繰り返されるのは面白くないから、リスタート時には色々と設定を弄れるようにはしておいたのだ。



「ボクの想定外の事が起きないと面白くないな。なら一番動く勇者の設定を変える? いや、いくら設定を変えてもボクの予想は超えられないか。それじゃあどうしようかな?」


 考えた。設定をいくら考えても意味が無いのであればどうするか。

 ……そうだ。勇者っていうのはRPGだとどこからか召喚される場合もあったっけ? 俗に言う異世界召喚というやつだ。あれみたいに他の世界から誰かを連れてきて勇者をやってもらうというのはどうだろう? 僕の設定が及ばない位置に居る者ならボクの思い通りに動くという事は絶対にない。



「えっと……神様ーーー。ボクに色々教えてくれた神様ーーー」



 虚空に向かってあの神様を呼んでみた。来てくれるかどうかは分からない。ただ、「用があったら呼んで」とあの神様は言っていた。だから呼ぶ。



「ったく。どうしたのよ。私だって暇……うん、暇だったわね。特に問題なかったわ」



 良かった。来てくれるかどうか分からなかったけどきちんと来てくれた。やっぱりなんだかんだ言っても面倒見の良い神様だ。

 ボクは退屈な自分の世界の事。そして他の世界から誰かを借りたいという話をした。



「どうかな?」


「随分雑な世界の創造をしてるのねぇあなた。で? 誰かを借りるって私の世界からって事でいいの?」


「うん」


「と言ってもねぇ。無理やりあなたの世界に送り出すっていうのはさすがの私も心が痛むんだけれど……。無理やり送り出された場所で私の世界の住人が死ぬのはさすがに嫌ね」



 この神様は随分優しいようだ。



「……大丈夫。勇者は死んでも教会で生き返れる事にするよ。そうして魔王に挑み続けていればいつかは帰れるんじゃないかな? それと可哀そうだっていうなら異世界召喚とかに憧れている子を選んでくれないかな? そういう子は少なからずいるはずだし。それならその子もそう悲観的にはならないでしょ?」



 非現実に憧れる人なんていくらでもいるだろう。その非現実の舞台に行きたいという人は少ないかもしれないが、まったく居ないなんて事は無いはずだ。



「うーーーん」



 そこまで言っても神様は悩んでいた。

 どれくらい時間が経っただろうか。神様は「よし」と言って顔を上げ、



「色々と言いたいことはあるけど……まぁそれくらいなら協力してあげるわ。ただ、あなたの世界に送り込む時にそのまま送るのだと可哀そうだからある程度私からその子に説明させてもらうわね? 後、いくつかその子が望む力を与えてもいいかしら? そのままあなたの世界に送ってもそこらの魔物とかにすぐに殺されちゃいそうだもの。それで鬱になってあなたの世界で生き殺しになる……なんていうのは見たくないわ」



「説明はボクとしてもありがたいな。ただ、力を与える……か。あまり強すぎる力だと困るんだけどな。ゲームバランスが崩れて面白くなくなりそうだよ」



「そこの所は私の方でも調整しとくわよ。どうせ何回もリセットするつもりなんでしょう? だったら何回か試してる内にお互いどれくらいがいい感じか分かるようになるわよ」


「まぁ、それもそうだね」



 そうして他の世界から勇者を呼ぶ準備は完了した。

 後は受け入れ準備だ。


「勇者に対してどう接するか。設定を練り直さなきゃ」



 ボクは大急ぎで世界の住む人たちの設定を変えた。


・勇者に接触した場合は決まったセリフ・行動を行う事


 簡潔に言えばこれだけをみんなに追加した。RPGでも例外を除いて勇者は村人などに干渉できなかった。話しかけたり、勝手に家に入ったりは出来るけど、村人を強引に連れ出すといった事は出来ないようにしたのだ。


「予想外な出来事は大歓迎だけど大本おおもとが壊れたら元も子も無いからね」


 僕の予想を超える出来事は退屈しないためにも大歓迎だ。でも、召喚される勇者に好き勝手されてボクの世界のコンセプトが根底から覆るのは嫌だ。この『単純に正義と悪が定まっている世界』というのは割と気に入っていたりする。それに、RPGゲームは元々好きだしね。見ているだけでもそこそこは楽しめる。

 そうして設定を変えるのには時間がかかったけれど、退屈はしなかった。どうしたら世界の中で矛盾が生じないか。どうしたら面白くなるかを考えながら作った。


 元の生活の常識に縛られているのか。自分が神様と呼ばれる存在になっても睡魔は襲ってきた。まだ創造中の世界の中で僕は幾度もの夜を過ごした。どうせ最後は召喚者待ちになるんだ。こだわるところはとことん拘ろう。


 そうしてボク好みの設定をたくさん盛り込んで――世界の設定は完成した。



「よし。こんな物かな。後は神様の準備を待つだけかな」




 そうして僕はリスタート待ちの世界の中で待った。

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