最終章3話『名前』
「ゲームで得た知識?」
それはここがゲームの中という意味では無いのだろうか?
「残念だけどこれ以上は話さないよ。別に知られて困ることがあるわけじゃ無いから言ってもいいんだけど、ボクはキミが嫌いだしね。正直、視界にも入れたくない」
さっきから異常なほどに僕を嫌う神様。
えぇっと……僕たちってほぼほぼ初対面だよね?
なのになぜこんなに嫌われているんだろう?
「話は終わりか!? おぬしらの言っていることはよくわからぬ。しかし、貴様が神だというのならばメッタメタのギッタギッタにしてこの世界を作り直させてやる! 童も主様も理不尽に振り回されないように世界にのう!」
言って、カヤが跳躍する。少女に向かってその翼を広げ一直線だ。
瞬間、神様は行動を起こした――
「マテリアル変更。荒野フィールドを一部水の壁へと変更。フィールドを非破壊オブジェクトとして再定義」
神様が何かぶつぶつと言った次の瞬間、変化は起きた。
僕たちが今まで立っていた荒野の一部が沈み、代わりにどこから湧いたのか、水の壁が僕たちと神様の間に出来上がったのだ。
「こんな水ごときで童が止まるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
構わずその爪を伸ばし、神様を切り刻もうとするカヤ。
しかし、
「あぐぅっ……な、なんなのだこの水は!? ただの水ではないのか!?」
鋼鉄すらも切り裂くと言っていたカヤの爪は水すらも切り裂けないという結果に終わった。
「残念ながらボクは神様とは言っても身体能力に秀でている訳でも、魔法を自在に操れるという訳でもないからね。ある程度は強化してあるけどキミたちなんかより全然弱いよ。
――マテリアル再変更。水の壁を罠として再定義。接触者に五十%の被ダメージ及びステータス昏倒を付与。非破壊オブジェクトから使い捨てオブジェクトへと変更」
「ぐぬっ……ああああああああ!」
「カヤ!?」
水に触れていただけのカヤが悲鳴を上げる。あれはただ事じゃない。
「――う」
飛行していたカヤは受け身も取れないまま落下。ボクはその落下地点へと飛び込み……キャッチ!
「よ……っと。大丈夫!? カヤ!?」
「すま……ぬ。主様、結構なダメージを受けてしまったようだ。すまぬ……勝手に突っ走った挙句、何をされたのかすら分からなんだ。これでは童は……ただの足手まといではないか……」
「……いいや、カヤは足手まといなんかじゃないよ。でもカヤは休んでいて。カヤは僕らの王様みたいなものなんだ。王様がやられたら僕たちは負けなんだからゆっくりとその傷を治して」
「主様……すま……いや、ありがとう」
言って、目を閉じるカヤ。どうやら気を失ったようだ。
「良かった。キミの影響を受けている彼女に対してどの程度のダメージを与えられるか不安だったんだけれど問題ないようだね。これで後の不安はイレギュラーのキミだけだ」
「今のは……この世界の物体の操作」
目の前で起きたことをそう分析する。すべてが聞き取れたわけではないけれど神様がぶつぶつ言った内容がそのまま現実へと影響を及ぼした。さすが神様というべきか。
「正解とだけ言っておくよ。さて、ボクの目的は魔王を殺す。ただそれだけなんだ。邪魔さえしなければボクはそれ以上何もしないよ?」
「そんなもの……邪魔するに決まってるじゃないか!!」
「だよね。聞いたボクが馬鹿だったよ。
――マテリアル再変更。荒野フィールドを一部ドラキュルの丘に変更。接触者に二十五%の被ダメージ及びステータス牛歩を付与。オブジェクトは破壊可能オブジェクトと定義」
「おっと!? 本当に何でもありだね!?」
今まで立っていた荒野が針山のような荒野へと一瞬で変貌する。しかし、事前に跳躍していたボクは針山の荒野を越える。
ドラキュルの丘。その言葉から連想されるのはドラキュラ、串刺し公だ。彼は敵対する存在を串刺しにしてきたという伝説を持っている。その事からドラキュルの丘とは串刺しの丘ではないかと考えたのだが――どうやら当たりだったようだ。
「まぁ、これくらいなら避けられてしまうよね。でもいいのかい? そんな事をすると魔王が――ってえぇ!?」
神様が何やら驚いている。しかし、人の事は言えない。何故なら――
「ちょっまっ!? なんだこれぇぇぇ!?」
針山の荒野を飛び越え、神様との距離を縮める――つもりだった。
しかし、予想よりも遥かに勢いが付いてしまった。僕の体は距離を縮めるなんて生易しいスピードではなく、全力の突進というのが相応しいようなスピードで神様へと接近していった。そして――
「きゃあっ」「うおわぁぁぁぁ!?」
衝突する神様と僕。
★ ★ ★
クラス:ゲームマスター
筋力:9
すばやさ:9
体力;9
かしこさ:9
運の良さ:9
魔力:9
防御:9
魔防:9
技能:全権限保持
★ ★ ★
ってあれ? 今……知らない誰かのステータスが見えたような……
「ふぅ、ビックリした。さすがイレギュラーだね。あんな規格外な速さ、ボクじゃ対応できないよ。でも残念。ボクはダメージを受けていない。ボクはこの世界における全ての権限を有しているからね。何があっても大丈夫なように、この世界で生み出された物質すべてに『ボクの身を傷つけることができない』という設定を付与しているんだ。イレギュラーであるキミにも効いてくれているみたいで良かった。それまで対処されていたらボクは今ので倒されていただろうね。唯一、この世界で生み出されていない勇者とその従者は閉じ込めている以上、ボクに傷を負わせる手段は――ない」
言葉の通り、ダメージは無さそうな神様。驚いてかどうかは知らないけれど尻もちをついていた神様は立ち上がってセーラー服に着いた砂埃を手ではたいていた。
そして神様の近くにはボードが浮かんでいた。そう、僕の脳裏に先ほど浮かび上がったステータスボードだ。神様の所にあのボードがあるってことは……あれは神様のステータス?
「ええっと……
「――――――ッ!?」
今までにない反応。神様こと広河子音さんはその瞳をこちらに向け、
「なんで……ボクの名前を……まさか隠蔽していたボクのステータスまで鑑定で見抜いた? ……はは。さすがはイレギュラーってところかな。ステータスはバグだらけでもうまともに読めないし……。クソ、クソ……ああ、あぁぁ、ああああぁぁぁぁぁ!! キミにだけは! キミにだけは名前を呼ばれたくないんだよ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます