最終章2話『神様?』


「カミミミミナンデェ!? ワタシィ! クルシ! イタイ! ヤダァ!」


 神父は自らの崩れる体を抑えようとして、その抑えようとする手も崩れ、その顔も恐怖のまま崩れていく。そして――


「もう……五月蠅うるさいな……。仕方ないでしょ? 真名崩壊……真の名前を暴かれちゃった君は文字通り崩壊する。その技能によって圧縮されていたボクが解凍され、キミという容量に収まりきらなくなっちゃったんだ。なら当然、収まりきらなくなった器は弾き飛ぶよね? これはつまりそういう事なんだよ」



「アガッ、アガガガガガガガガガガガガガ」



「それにキミにはそんな痛いとか、苦しいとか感じる設定なんて付けてないんだよ? やっぱりキミもイレギュラーの影響を受けてたのかな? なら……彼を恨むんだね。そもそもボクを解凍したのも彼らなんだから。ボクだって外に出たくはなかったさ。少なくとも今回はね」



「――――――――――」



 そして……神父の体がはじけ飛んだ。


 肉片が大地を汚し、赤い液体が一体にまき散らされる。


 そして、神父が居た場所には少女が一人――佇んでいた。


「――でもこうなった以上は仕方ない。向かい合いたくも無かったけど……ボクはボクの世界を守るため、勇者君を乗り越え、魔王さんを……この手で殺す」



 突然現れた少女は黒のセーラー服をその身に纏っていた。

 顔は良く見えない。何故なら、その長い黒髪で覆い隠されているからだ。



「君は――だれ? 神父は?」



 そんな凄惨な登場の仕方をした彼女に質問をする僕は馬鹿なのだろうか? だけど、彼女がなじみ深い服を着ているせいか、すぐに争おうという気にはどうしてもなれなかった。



「………………キミとは話したくない………………」



「?」



 キミって……僕の事だよね? だとしたらおかしな話だ。僕は彼女を知らない。そりゃあ顔も見えないけれど、あんなに髪を長く伸ばして顔を隠している人が近くにいればさすがに記憶に残っていると思う。だから、彼女と僕は初対面のはずなのだが……なぜ僕は彼女に嫌われているんだろう?



「それでは童が聞かせてもらおう! 貴様、先ほどの神父はどうした? そして貴様は何者なのだ!?」


 少女が僕の問いに答えないと分かった途端、カヤがずいっと前に出る。


「神父がどうなったかはキミたちも見てたでしょ? あれは容量をオーバーして破損したよ。そしてボクは……そうだな。ゲームマスター……かな? いや、魔王さんには神様って言った方が伝わりやすいかな?」



「ようりょう? げーむますたー? ……ええい! 訳の分からんことを! 貴様が神というのならば童を死の円環に閉じ込めたのは貴様だというのか!?」



「うん。そうだよ」



「なぜそんな事を!?」



「なんでって……この世界をそう作ったから、かな」



 淡々と、ただ聞かれたことに神様とやらは答えていった。正直、彼女が神様だと言われても信じられない。見た目はただの女子高生なんだ。神様だと言われて『はい、そうですか』と信じられる訳が無い。



「この世界をそう作ったから……だと……ふざけるな! 童が今日こんにちまでどれだけ苦しんだか貴様に分かるのか! 貴様のせいで童は何度も殺され、何度も同じ時を生き、生きることに意味など無いと絶望の淵に追いやられた。主様が居なければ童は今も何も考えないように心を凍らせ、ジッと時が過ぎるのを待つだけの無為な人生を送っていたであろう」





「そうは言われてもね。そこまでは知らないよ。魔王が倒されればハッピーエンドなのは当然でしょ?」


「何が当然だ! 貴様は――」


「ストップだよ、カヤ」


「主様!?」



 このまま話し合っていても平行線だ。カヤも納得しないし、神様もこちらの言い分に耳を貸さないだろう。



「神様。あなたがなんで僕を嫌っているなのかは分からない。だけど一つだけ答えて欲しい。……もしかしてここは……ゲームの中?」



 だいぶ前から――いや、もしくは最初から気づいていたのかもしれない。

 この世界は僕がやっていたゲームととても似ている。武器を装備しなければ使えなかったり、ベッドに入ると気力体力が回復して朝になっていたり――まるでゲームだ。


 少なくとも神様はこの世界をゲームとしてしか定義していないのだろう。だからこそ、設定やら魔王が倒されればハッピーエンドだのという言葉が出てくるんだ。



 神様が口を開く。



「いいや、ここはゲームの中の世界ってわけじゃないよ……ただ、全くの外れって訳でもないかな。この世界はね――ボクがゲームで得た知識を元に作り出してるんだよ」

 

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