最終章 それはまるでゲームのような
最終章1話『崩壊』
当然のように神父の要求を却下した僕らは今、魔王城から出て荒野に居る。
というのも――
「貴様らぁ! 我が店の中で暴れる事は許さぬぞぉ!! やるなら外でやれぇい!!」
というギルクさんの怒りに触れたからだ。
そのせいで少しだけやる気が削がれてしまったが、カヤを神父に渡すわけにはいかない。
「さて、やはり素直に渡しては頂けないようですね。では仕方ありません。力づくで奪わせてもらうしかないですね。ああ、そうそう。私も神に新たな力を授かったのです。以前のように大人しく逃がしはしません。それともう一つ」
そう言って神父は懐から小さな球体を取り出した。水晶玉に似たそれは七色の光を放っている。神父はそれを掲げ、
「あなた達に居てもらっては困るのですよ。だから少しだけ大人しくしていてもらいます」
「ぬっ」「きゃあっ」
神父の持つ水晶玉っがまばゆい光を放つ。強烈な光に一瞬視界を奪われるがそれは一秒にも満たない出来事。何が変わったのかと周辺を警戒する――すると、足りない。
「兄さま! セバスさんとエルジットさんが消えました!」
そう――セバスさんとエルジットの姿が無いのだ。
「セバスさん! エルジット!」
あの一瞬でどこへ行ったというのか。見渡せど二人の姿はどこにも見えない。
「――ご安心を。お二人ならこの中にいらっしゃいます。なに、危害などは加えておりません。というよりもこの中はどんな場所よりも安全な空間なのですよ。たとえ神と言えども壊せないほど頑丈に守られております」
そう言って神父は自らの持つ水晶玉を示す。あの中に二人が?
「それをこっちに渡せ!」
「構いませんよ? はい」
「え? うわっとっと」
予想外だ。絶対に容易く渡すことは無いと思っていたのに神父は容易くその水晶玉を手放したのだ。ポーンっと気軽に投げるものだから、慌ててしまった。
「危ないじゃないか!! 落としたらどうするんだよ!」
「別にどうもしませんよ? というよりも先ほども言ったではありませんか? その中はどこよりも安全な空間です。たとえ全力で殴ろうが、幾万もの魔法を受けようがビクともしません」
だからって投げないでよ。心臓に悪いじゃないか。
「セバスさーーーーん! エルジットーーーーーーー! 無事だったら返事をしてーーーー!」
僕は手にした水晶玉に向かって呼びかける。しかし、反応はない。本当に中に二人が居るのかも外からでは分からない。
「あぁ、無駄ですよ。その中は一種の別世界です。こちらからの声はその中に届きませんし、あちらからの声も聞こえる事はありません」
「何その好都合なアイテム!? っていうかなんで二人を!? カヤを捕まえるのが目的ならカヤを閉じ込めたほうがいいじゃないか!?」
「おーい主様!? それは童ならばどうなっても平気と言う意味か!? そういう意味か!?」
もちろんそういう訳じゃない。ただ、なんで神父がそうしないのか不思議だっただけだ。
「まぁそれには色々と理由がありますが……まぁ律義に答えるつもりはありません。では、参ります」
そう言って神父はゆっくりとカヤに向かって歩みを進める。いつの日かの再現のようだ。
「なぜ童ばかり狙われるのだ!? 貴様なんぞに付いて行くわけがあるかぁ! 〈紫電の閃光よ、眼前の敵を蹴散らせ〉」
カヤは迫る神父に向けて雷の魔法を発動。その指から放たれた雷はまっすぐ神父へと突き刺さり――
「効かないのはもう分かっているのではないのですか? 無駄ですよ」
次の瞬間にはその光景が嘘だったかのように神父は平然としていた。後に残るのは雷によって震える空気のみ。それが先ほどの光景が夢幻では無いことを証明していた。
「まったく……悪魔は真の名を暴かれれば暴いたものに服従する、もしくは浄化されるなど言われるのですがねぇ。魔王はそうはいかないのでしょうか。そういう設定があればこちらとしてはありがたいのですが……今後の事も考えて神には進言した方が良いのでしょうか?」
ため息交じりに、しかし決して歩みを止めずこちらに向かってくる神父。しかし、これだけは言わせてほしい。
「偽名を使ってる神父がそれを言う!?」
神父のステータスを再び見る。そこには以前のように――
★ ★ ★
クリストファー・ヘレンケラー・アヌビスコレデラック・ケデラントポリス・フランソーセージ・シャルリッティング・グレートマグナススラッシャー
37歳 男 レベル:なし
クラス:神父
筋力:1
すばやさ:1
体力;1
かしこさ:1
運の良さ:1
魔力:1
防御:1
魔防:1
技能:蘇生術・全攻撃無効化・不老不死・回復魔法EX・地形権限
裏技能:認識阻害・依り代・神の代行者・真名崩壊
★ ★ ★
…………なんか色々増えてない?
いや、もしかしたら僕の鑑定レベルが以前より上がったからこそ見えるのかもしれない。裏技能って書いてあるし、低レベルの鑑定では見えないものなのかも。
ま、まぁそれを考えるのは後でいいか。僕が確認したかったのは神父の名前だ。やはり前に見た時と同じように意味不明な名前だ。まるで小学生が適当に付けた名前。
「……はて? なんの事でしょうか? 私の名前が偽物? これは異な事を。私の名、田中太郎は神から直接与えられし名。それを偽物とあなたは言うのですか?」
「へ? いやだってそうステータス画面に書いてあるよ? えっと……クリストファー・ヘレンケラー・アヌビスコレデラック・ケデラントポリス・フランソーセージ・シャルリッティング・グレートマグナススラッシャー……さん?」
・のあるところで区切りながらゆっくりと神父の名前を呼ぶ。そうしないと噛みそうだったから。この名前を付けたのは神父の言う神なのだろうか? ならなんで神とやらはこんな名前を神父につけたんだろう? いやがらせ?
「くはっは、なんですかその変な名前は。そんな名前の方が居るわけが――」
ボロッ
「は?」
「え?」
「なんなのだ、あれは?」
「あれは……」
「おいおい」
神父も、僕も、会話に参加していなかったカヤやウェンディス達ですら驚愕の声をあげた。何故か――
「わた、しの、カカカ、カラカラカラカラ――カラダァァァァァァッ! クハッハ、クバババババババババ……クズレテテテテテテテテエテテェッ! ナンデェ!?」
カヤの攻撃を物ともしなかった神父の体が一人でに崩れていっているのだ。当然、僕は何もしていないし、カヤたちも何かした様子はない。神父にとっても予想外の出来事のようで救いを求めるかのように崩れていく手を空へと伸ばしている。
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