第4章16話『試練?』



「貴様ぁぁぁぁ! 我が説明しているのに無視とはどういう了見だぁぁぁぁ!! 神父の前に貴様をこの世から抹消してやっても良いのだぞぉ!」


「気絶することも許されないの!?」


 セバスさんとの死闘(ただのいじめ)が行われて僕は意識を失ったようなのだが、すぐにギルクさん(裏)にたたき起こされた。もう少しこの世界は僕に優しくなりませんかねぇ?


「もう! ユーシャったらだらしないんだから! ユーシャならセバスの一人や二人、真の力に目覚めたりして倒してくれると信じてたのに!」


「無茶言わないでくれる!?」


 物語の勇者が強敵にぶち当たった時にご都合パワーで強化され敵を倒すというのはある意味お約束だが、それを現実にまで持ち出さないでほしい。


「ぬしら――少しは静かにしていられぬのか? あぁすまん。無理であったな」


 勝手に諦められた!? なんだよなんだよ! なんでそんな厄介なペットを見るような目で僕らを見つめているんだよ! カヤだって似たようなものじゃないか!


「ギルクさん! 話の続きをお願いします! 他の扉に描かれている武器はどんな武器なんですか?」


 もう強引にでも話を進めてしまおう。僕だって人の話を最後まで静かに聞くことができるという事を証明してやる!!



「よかろう。この扉に描かれている鎖はグレイプニルと言ってなぁ! 頭でイメージした標的に向かって投げればどこまでも標的を追い、捉える鎖だぁ! 少しでもイメージが現実と違えば効果を発揮せんがなぁ!」


「……それは私がもらいましょう」


 一歩前に進むウェンディス。なんだか少し前から様子がおかしいような……もしかしてあの日とかだろうか? 女の子の様子がおかしい時は大体がそれだと父さんが言っていたし。


「順調に持ち主が決まってゆくなぁ! さて、次はこれだ! この扉に描かれている盾はスヴェルト・アールヴ。攻撃型の盾だぁ! ここには盾の絵を描いているが実際にこのような盾という訳ではない。この盾は持ち主と同化し、持ち主が望んだときに周囲の味方を除いた全てを消滅させる盾だぁ! まぁ一日に一回しか使えんという欠点があるがな!」


 聞いてればさっきから欠点ばかりじゃないか! クセが強すぎるんだよぉ!


「カヤさんが適任では? 私たちが守るべきはカヤさんです。一回限りだとしても盾だというのであればカヤさんが持つのがよろしいかと思います」


「わ、童か!? し、しかしなぁウェンディス。同化するってつまりは異物が童の体内に入るのであろう? 気持ち悪いのだが」


「……カヤさんはこれからも永遠に殺され続ける未来と少し我慢するだけでみんなと笑って過ごせる未来のどちらがいいですか?」


「な、なにもそこまで冷めた目で見んでも……ええい、分かった! 童も女だ! その盾は童がもらってやるわぁ!」


 結局盾はカヤが持つことになった。この時、カヤの目の端が濡れていたことは胸の中にしまっておこう。


「さて、残りは二つだぁ! この扉に描かれている剣はレーヴァテイン。炎を纏った聖剣だぁ! 振るわれる聖なる炎はいかなる邪悪も打ち払うという魔に対しては優れものだぁ! 欠点は長時間使用していると聖なる力が失われてただの炎になるという点だなぁ!! 持ち主も例外ではないので聖なる力が消えれば通常の炎によるダメージを受けてしまう。そして次第に熱くて持てぬようになるのだぁっ!」


 剣としては致命的じゃない!? 長く使ってたら持てなくなる剣ってそれは剣として終わってない!?


 とはいえ、聖剣か。よし。



「それは僕がもらうよ! 聖剣と言えば勇者。勇者と言えば僕だからね! あ、でも貰える武器って残り二つなんだよね。どうしようか」


 武器が決まっていないのは僕とセバスさんとレンディアの三人だ。しかし扉の数は残り二つ。つまり一人は新たな最高級の武器とやらを手に入れることができないという事だ。


「私は武器など無くても構いませんよ。そもそも私は武器などあっても使わないと思いますしね」


 まぁ、確かにセバスさんはそうだろうね。素手でも既に意味不明なくらい強いんだし。


「レンディアには既に最高級を渡しているわぁ! その名をパラシュラーマと言ってなぁ! 普通の斧のように振り回すことも出来るし敵に向かって投げることも出来るのだぁ! しかも投げられた斧はどのように投げようとも必ず持ち主の元へと帰ってくるというまるで忠犬のような斧でなぁ! 欠点は必ず持ち主の元へと帰ってくるという性質上、受け損なうと持ち主がダメージを受ける事。後は投げている間は徒手空拳でどうにかするしかないという事だなぁ!」



 あー、そういえばそんな名前の斧を使ってたなぁレンディア。あれって最高級の武器の一つだったのか。



「なら僕が聖剣レーヴァテインを貰うとして最後の一つはなんなんですか?」



 最後の扉にはハンマーの絵が描かれていた。さてさて、お次はどんなデメリットがあるのやらだ。



「最後の扉に描かれたハンマーはかの有名なミョルニルだぁ! 効果は何物をも破壊するという単純なものだぁ! 欠点は凄く重い。以上だぁ!」



「適当!?」



 最後の武器が効果もデメリットもすごい雑なんだけどどういうことなの!? いや、シンプルイズベストって事なのかもしれないけどさぁ!



「さぁ、各々自らが手にしたいと願う扉の前に立つがいい! そうすれば試練が始まる! それを乗り越えた時、貴様らは最高級の武具を使用する権利を得るのだぁ! 修行にもなって一石二鳥と言うやつであろうが感謝するがいいわぁ!!」


「頑張れよみんな! 俺ぁここで応援してっからな!」


 ――ああ、やっとわかったよ。これはあれだね? 物語でよくある修行パートってやつだね? 強敵を前にしたときにいかにもな修行方法が主人公たちに提示されて敵を圧倒できるくらいの力を得るっていうあれだね? そうと決まれば話は簡単だ。ちゃっちゃと修行を終わらせてついでに武器も貰ってとっとと神父さんをぶっとばしてその後ろにいる黒幕もぶっとばしてハッピーエンドと行こうじゃないか!


 僕たちは自分が欲しいと願う武具が描かれている扉の前に立った。セバスさんだけは乗り気じゃ無かったが、エルジットの『せっかくだからセバスも貰っておこうよ』の一言で折れてハンマーの絵が描かれている扉の前に立っている。



「それでは行くぞぉ! 試練開始ぃ!!」



 パカッ



「「「「「え?」」」」」



 響く困惑の声×五。

 僕たちの前にある扉は開かずにそのまま。しかしなぜか僕たちが立っている扉の前の地面が円形の形にポッカリと穴をあけた。

 当然、そのまま落下する五人。落下する前にこれだけは言わせてほしい。



「扉の意味ねえええええええええええええええええええええええええええ!」


 そうして僕は暗い暗い暗闇へと落ちていった。

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