第4章15話『避けられない決闘←ただの虐めじゃないか!!』


「ぐっ……こうなったら」


 なんとかして迫りくる脅威(セバスさん)を排除しなければならない。しかし、解析不能のステータスを持つセバスさんに僕が勝てるとは到底思えない。それに、セバスさんが今まで無茶苦茶してきたのを僕は見てきたんだ。それらを考えても僕に勝ち目があるとは思えない。よって、戦う=僕が肉塊になるという公式が成り立つ。


 つまり、それ以外の方法でセバスさんを止めなければならない。セバスさんを制御するのに最も手っ取り早いのはエルジットに命令をしてもらう事だ。セバスさんは執事という事もあってかエルジットの命令に逆らわない。そしてエルジットの為だけに行動する。僕を今排除しようとしているのだってエルジットにまとわりつく悪い虫を排除しようという考えなのだろう。娘の為に暴走するお父さんみたいなものだ。


 しかし、それならば僕を始末するタイミングなどいくらでもあったはずだ。それをしなかったのは本人も言っていたがエルジットが悲しむからだ。僕が言うのもなんだがエルジットは……その……僕を憎からず思っているらしい。そんな僕を排除すればエルジットが悲しむ。さらに僕を排除したセバスさんがエルジットに恨まれるというリスクがあった。だからこそ今までセバスさんは忠告・脅しだけで僕を牽制していたのだ。


 そして今、エルジットの命令で僕と戦う事に許可が下りたからこそ、この機に僕を肉片に変えようとしている――つまりは全てエルジットの為。エルジットの命令によるものなのだ。


(やっぱり、エルジットにセバスさんを止めてもらうのが良さそうだね。でも)



「初めてはやっぱり結婚してからの方がいいのかな。でもでも、私からそういう事言うのははしたないよね……。ユーシャから誘ってきてくれたら私はいつでもどこでもOKなんだけどユーシャってば変なところでヘタレだからなぁ。でも、そんなところも可愛かったりして……えへへ」


 その当のエルジットは別の世界へとトリップしていてもう命令とか出来る状態じゃない。どうにかしてエルジットをこっちの世界へと引き戻してセバスさんに命令してもらう。これが僕が生き残る唯一の方法だろう。


 実を言うと、エルジットを正気に戻し、セバスさんを止めさせる方法は思いついている。しかし、それは諸刃の剣だ。この方法を取りたくないからこそ、ほかの方法がないかをこうして考えていたのだが……やはり思いつかない。後の事を考えるとやりたくないけれど仕方ない。



「エルジット! 聞いてくれ!」


「きゃっ、なに? どうしたのユーシャ? セバスとの決闘は?」



 まず第一段階はクリアー。エルジットの両肩を真正面からガッシリ掴み、エルジットの意識を現実へと帰還させることに成功。後はセバスさんを止めるように説得するだけだ。


「頼む、エルジット! 僕はセバスさんと戦いたくないんだ! 今すぐセバスさんに僕と戦うのをやめるように言ってくれ!」


「え!? そんなの駄目だよユーシャ! ユーシャはセバスをボロボロになりながら倒して私と結ばれて子供を二十三人くらい授かって幸せに過ごすんだよ!」


「子供多すぎだからねそれ!? 一年に一回生むとしても二十三年かかるからね!? それに二十三人も養えると思ってるのかぁ!!!」



 どうやら僕の予想以上にとんでもな未来をエルジットは夢想していたようだ。それにしても二十三人の子供って……エルジットは子供がそんなに好きなのだろうか?

 ま……まぁそう簡単にエルジットが僕のいう事を聞くとは思っていなかったさ。エルジットの未来設計図には驚いたが特に作戦に問題はない。問題ないよね?


「よく聞いてエルジット。僕はエルジットのナイトで収まりたくはないんだよ。……もっと特別な――隣に並びたてる男になりたいんだよ」


「ユーシャ……」


 瞳を潤ませて感動している感じのエルジットだったが、早くセバスさんに命令してほしい。なぜなら僕はこう思っていた。



(臭っ!? 誰だこの臭いセリフを堂々と言ってる痛い男は!? あ、ごめん僕だったよ! あーーー痒い痒い痒い! 背中がむずがゆくて今すぐ死んでしまいたい! もう穴があったら入りたいよもぉぉぉ!!)



 そしてエルジットが口を開く。




「ユーシャ、大丈夫だよ! 私はお姫様とナイトが結ばれる物語のほうが好きだから! だから安心してセバスを打倒して私をさらって!」



「謝れぇぇぇぇぇぇぇ!! 恥ずかしい思いまでして言いたくもないセリフを言った僕に謝れぇぇぇぇぇぇ!」



 どうやら恥ずかしい思いまでした僕の行動は全て無駄だったらしい。それどころか、



「そうですか、なるほどなるほど。洒水さんはお嬢様とそのような関係になりたかったなですなぁ。なるほどなるほど」


「ひぃっ」


 セバスさんは朗らかな笑顔を僕に向けているのだがどうしてだろう。その後ろに怒り狂う阿修羅の姿が見える。


 ――――あ、死んだなこれ。


「あ、忘れてた。セバス、言われなくても分かると思うけど手加減はしてあげてね? わざと負けてとは言わないけどユーシャを再起不能になんてしたらメッなんだからね!」



「……承知しました」



 すごく不服そうなセバスさん。しかし、どうやら最悪の事態は免れたようだ。



「……つまり再起さえできればどう料理しても良いということか」



 なんか小声で恐ろしく物騒なことを言っているセバスさん。待って! 僕たちはきっと話し合えば分かり合えるはずなんだ!


「まっ」


 僕が『待って』と言う前に、セバスさんの手刀が僕の喉へと突き刺さる。



 ――そこからは一方的な試合……というより虐めが行われた。どちらがどちらを虐めたのかは察してくれるとありが……がくっ。


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