第4章14話『託される武具』


 ギルクさんに通されたのは荘厳な玉座だけがある部屋だった。カヤに聞いてみたらそこはカヤが初めて目を覚ました場所であり、長い人生を寝て過ごしていた場所らしい。つまりは魔王の間といったところだろうか。



「そんな……あの神父さんがカヤさんに手を出そうとしただなんて……」



 エルジットやセバスさんの自己紹介を終え、今までのいきさつをギルクさんに話したのだが、神父さんの行いに驚きを隠せないでいるようだ。……しかし神父さんがカヤに手を出そうとしたって聞くと変な意味にしか聞こえないのは僕だけだろうか? いや、心の清い僕でも考えてしまうんだ。百人が聞いて百人がヤらしい意味に聞こえるに違いない。



「僕の契約相手のカヤさんを……これだけ大きな店を持たせてくれた僕の恩人を狙うだなんて……」



 え? 恩人? 感謝してるの? 確かにこの魔王城、大きいのは認めるけれど店としては欠陥だらけだと思うよ? 魔物が定期的に現れる店とか誰も来ないんじゃないかな? たとえるならば大型デパートに定期的にテロリストが現れるようなものだろうか? ……うん、絶対行かないなそんなデパート。



「神父さんが……そんな……ゆ、許せない……許さんぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」



「ええっ!?」



 まさかと思ってギルクさんのステータスを確認――思った通りだ。ギルクさん(裏)になってしまっている。今まではお店の商品を取られるときにあのモードになっていたけど、どうやらギルクさん(表)に怒りの感情が芽生えた時、ギルクさん(裏)が出てくるらしい。

 しかし、ここに怒りの原因である神父さんは当然のごとくいない。ならばギルクさん(裏)はどうやって怒りを鎮めるのだろうか? 八つ当たりだけは勘弁してくださいお願いします。


「あれ!? この人さっきまですっごく普通そうな人だったのにいきなり別人のように怒り出して髪の色も変わって……分かった! あなたはディア〇ロ的な人ね!?」


 一体何の話!?


「さすがお嬢様。見事な推理です。このセバス、感服いたしました」



 あんたはエルジットを甘やかしすぎなんだよぉ! どんだけ過保護なんだぁ!?



「神父めぇ! 奴の恩人であるカヤに対して何をしてくれているのだぁ!? 貴様のその行い、貴様の信じる神が許そうともこの我が許さん! ここに居る勇者たちに滅ぼされるがいいわぁ!!」



 えぇぇ!? 他人任せなの!? そこはもう裏モードのギルクさんが行く感じじゃないの!?

 まさかの他人任せ。そこまで怒ってるんだったら自分でケリをつけるのが普通じゃないだろうか? その実力をギルクさんは持っていると思うんだ。




「……と、いうわけで準備しておいたぞ!!」


「準備早くない!?」


 一体いつの間に!?



「準備とはそちらに設置されている妙な扉の事ですか?」



 今まで会話に加わっていなかったウェンディスが指さす先には確かに扉があった。洋風の建物に合う感じのごく普通の扉だ。その扉が魔王の間の何も無い空間に存在しているという点を除けばだが。

 その数は五つ。それぞれ剣、鎖、盾、ハンマー、首飾りの絵が描かれている。共通点は……無いね。全部武器かと思ったけど首飾りはどう考えても武器じゃない。


「さすがだなぁ! よくぞ気づいたウェンディスよ。ここに描かれているのは我が所有する最高級の武具だぁ! 本来我以外が持つことなど許されんのだが今回は特別に貴様らに貸してやろうではないかぁ!!」


「え!? 全部武器なの!? あのネックレスっぽい感じのも武器なの!?」


「無論だぁ! あれはブリーシンガメンと言ってなぁ! 装備している者を守護している誰かが居る限りその身は決して傷つかんという優れものだぁ! 更に自らを守護する騎士の力を上昇させるのだぁ! まぁ代わりに自身は攻撃に参加できなくなるがなぁ!!」


 ただ首飾りしてるだけで無敵状態になるの!? ……まぁその代わり自分を守る誰かが居なくなったら無敵じゃなくなるし攻撃も出来ないのならいい……のかなぁ。


「はいはーーーい!! 私それ欲しい! ねぇねぇユーシャッ! 私を守ってくれるナイトになれば強くなれるみたいだよ! 私、ユーシャに守って欲しいな!」


 ただ一人、ネックレスを欲しがるエルジット。しかし、エルジットのナイトか……そうかぁ……

 うん、ないな。


 なぜなら、



「お嬢様! 私ではダメなのですか!? 私はいつでもお嬢様を守護するナイトであるつもりなのですが!?」


 セバスさんが僕を一睨みしてからエルジットへと詰め寄る。……頼むエルジット……ナイトの座はセバスさんにしてくれ……じゃないと本当に危ないんだ。主に僕の命が。

 エルジットへとジェスチャーでセバスさんをナイトにするようにと伝える。丁度僕に背を向けているセバスさんには見えないはずだ。僕ダメ! セバスさんにして! それがベストだよ!!


「……?」


 僕のジェスチャーに気づいたエルジットが軽く首をかしげてこめかみに手を当てて考え込む。そして伝わったのか――手をポンと叩いて僕に向けてサムズアップしてきた。よし! どうやらうまく伝わってくれたようだ。良かった良かった。



「それならセバス! あなたにチャンスをあげるわ! 今から洒水と勝負して勝ったほうが私のナイトになるのよ! これなら文句はないでしょ?」



「無論文句などございません。むしろ願ったりかなったりです」

「大ありじゃあああああああああああああああああ!!」


 なんでそうなるの!? 何? エルジットは僕に死ねって言ってるの? それとも土壇場で僕が不思議パワーでセバスさんを倒せるとでも思ってるの!?


「え? だってさっきユーシャが言ったんじゃない。『僕がノーザンクロスでセバスさんをKOしてエルジットとハネムーンへと旅立つよ』って。楽しみだなぁ。ユーシャとハネムーン……イギリスの友達にユーシャを自慢しに行くのもいいなぁ。これが私の旦那様ですって……きゃっどうしよう。すっごく楽しみすぎてニヤニヤが止まんないよぉ」


「誰もそんな事言ってないんだけど!? ちくしょう! 僕の意図が全く伝わっていないっ!」


 このままでは僕の魂がハネムーンよろしく天国へと召されてしまうっ!


「さて洒水殿。今すぐ始めてもよろしいですな? あなたが……失敬。どちらかが肉塊になるまで戦うということでよろしいですな?」


 どうやらセバスさんの頭の中では僕が肉塊になる事は決定事項らしい。


「よくないよ! これっぽっちもよくないよ! エルジットォ! お願いだからさっきの取り消してぇ! ナイトの座はセバスさんが一番ふさわしいんだってばぁ!」


「お父さん、お母さん。この人が私の運命の人です……なんて――キャーーーッ。どうしよう。恥ずかしすぎて顔から火が出ちゃいそうだよぉ」


「そのまま爆発してしまえーーーーー! 僕の話を聞けーーーーー!!」


 ダメだ。トリップしていて僕の言葉が何も届いていない。


「さて、覚悟はよろしいですかな?」


 ごめんなさい、全然よろしくありません。

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