第4章13話『それはそれ。これはこれ』


「「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」」


 何やら横で驚きに満ちた感じの声が聞こえてきたが無視無視。


「レンディアさぁ! そんなので相手に伝わると思ってるの!? 大人なんだからさぁ。報連相くらいきちんとするべきだと思うんだ。あ、報連相っていうのは報告・連絡・相談っていう意味だからね? まずは何があったのかを報告、そしてちゃんと簡潔にまとめて連絡、それらをやった上で相談するって意味だからね」


 それなのにかくかくしかじかで済ませようとするなんて……人間として恥ずかしいと思わないのか!?


「いやいやいやいや! ユーシャがそれを言うのおかしくない!?」

「いやいやいやいや! 主様がそれを言うのはおかしくないか!?」


 なにやら僕を指さして喚くガールズ。何を言っているのかよくわからないがあえて言わせてもらおう。



「それはそれ。これはこれ」


「「なんて暴論!?」」



 ふむ、息ピッタリだねぇ。エルジットとカヤも僕の作戦通り仲良くなってくれたようだ。

 そんな事をやってる間にレンディアはゆらゆらと立ち上がって、


「で……でもよぉ洒水。オレァ馬鹿だからうまく説明できる自信ねぇよ……。そもそも俺たちの間に説明なんざ要らねえだろ? 俺と洒水の間なんだから大抵の事は目をみりゃ分かるだろ? な?」



「え? …………う、うん。も、もちろん分かるよ。でも僕はレンディアの為を思って言ってるんだ。僕以外の人に説明しなきゃいけない時にそんなのじゃ困るでしょ?」


 流れ落ちる汗を拭いながら一レンディアを納得させられるような理由をでっちあげていく。おかしいなぁ。暑くもないのに汗が止まらないぞ?


「洒水……おまえ……そこまで俺の事を考えてくれてたのか……ぐすっ、おれぁ……おれぁ……なんて幸せ者なんだっ! ここまで俺の事を考えてくれる親友を持てるだなんてよぉ! ぐすっ、ちくしょう! 涙が止まらねえじゃねえか!」


 ……どうしよう。背中から流れる汗が止まらない……。そして胸が痛い。っていうか罪悪感で押しつぶされそうだ。今更全部その場で適当に考えた理由だなんて言えるわけもない。


「ユーシャ、大丈夫? さっきから顔色が悪いよ? それになんでそんなに大量の汗をかいてるの?」


 黙っててくださいエルジットさん。それにこれは……あれです。暑いんです。だから汗をかいてるんです。そういうことにしておいてください。



「ま、まぁレンディアの為だからね。しん……ゆうなんだから協力は惜しまないさ。それでレンディア。繰り返しになるけどなんでここに居るのか説明してくれない? いや、むしろお願いします」


 一刻も早くこの気まずい空気をなんとかしたいんだ! 空気を読むのが苦手の僕でも分かるくらいに重いんだ!



「ひっく……ぐすっ。おう。任せとけ。俺がここに居る理由はだなぁ。ギルクに雇われたからだ。なんかこの城。何度魔物を倒しても次の日にはまた同じ数だけ現れやがるんだよ。そんなんだとギルクも商売しにくいだろ? 来店するお客さんの為にも魔物は駆除しなきゃならねえしな。そこで現れたのが俺さ。俺もそろそろ金がやばかったからな。魔物の駆除を定期的にやりゃあ給料もくれるし、新しい武器も貸してくれるって言うからオレァこうして働いてるって訳だ」



「本当にここで商売する気なのあの人!?」



 やはり、ギルクさんは魔王城に居るらしい。しかも、魔物が定期的に現れるような場所で商売を営もうとしているらしい。え? 無理でしょ? 客なんか来るわけ無いじゃないか。


「レンディアさーーーん。魔物の片づけは終わりましたかーーー?」



 噂をすればなんとやらだ。階段の上からギルクさんが現れた。あちらもすぐにこちらに気づき、


「あ! 洒水さんじゃないですかぁ! ご来店ありがとうございます! 本日はどのようなご用件でしょうか?」


 

「ああ、えっと……」



 どうしよう? ギルクさんなら今の状況をなんとかしてくれるかなぁと思ってなんとなく来ただけなんだよね……。さて、積もる話もあるのだがどこから話したものか。



「あぁ! ごめんなさい! お客さんをこんな汚いところに置いておけないですね。レンディアさん、悪いんですけれどここにあるゴミを外に捨てて来てもらえませんか?」


 ……ゴミ? おかしいな、僕の目は節穴かな? ここにある物と言えばおびただしい数の魔物の死骸だけに見えるのだけど……。


「おう、任せとけ! ったく、この作業が一番面倒臭ぇなぁ。売りに行くにしても村まで持ってくの一苦労だしよぉ」



 レンディアがぶつくさ言いながらそこらの魔物の死骸を適当にひっつかみ、持てるだけ持って魔王城の外へと出ていく。……うん、わかってたよ。ゴミってこの魔物の死骸達の事なんだろうなって。



「洒水さんたちはこちらにどうぞ! 久しぶりのお客さんですしご馳走しますよ? そちらのお二人もご一緒にどうぞ。お二人の事を教えてくれると嬉しいです!」



 ギルクさんがエルジットとセバスに向け軽く会釈。やはりまともだ。この世界では天然記念物レベルで希少な人だ……。世界遺産に新しく登録するべきじゃないだろうか?


 そんな事を考えながら僕たちはギルクさんの誘いに乗り、一緒にご飯を食べることにした。こちらの事情はその時に伝えるということでいいだろう。


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