第4章10話『神父さんの謎に迫……ってなぁい!!』



「あんなんどうしろって言うんじゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!」



 神父さんから逃げ出した僕たちは村からだいぶはなれた荒野で一息ついていた。まぁこの大陸って村と魔王城と荒野しか無さそうなんだけどね! 少なくとも僕はそれ以外の光景を見たことが無い。


 まぁそれは置いておいて、



「確かに止めたんだよ!? 神父さんの肩をがっしり掴んだはずなんだよ!? なのになんで次の瞬間にはすり抜けてるの!?」



「ユーシャ! 私分かったよ! でもその前にユーシャには今のセリフを言い直してほしいの!」



 やたらと目を輝かせて神父さんの謎を明かしたと胸を張るエルジット。



「え!? ホントに!? ……って僕に言い直してほしい事?」


 一体何を言い直せと言うんだろう?



「うん! ユーシャ。さっきのセリフをこう言い直して。

『あ……ありのまま今起こった事を話すぜ! 俺は奴の肩に手を触れたと思ったらいつのまにか奴の肩から手を離していた。な……何を言っているのかわからねーと思うが俺も何をされたのかわからなかった……頭がどうにかなりそうだった……催眠術だとか超スピードだとか』」



「長いよ! 結論は簡潔に話しましょうって国語の先生に習わなかったの!?」



 何より、そんな長いセリフを台本も無しに僕は覚えられないんだ! っていうかなんでエルジットはそんなセリフをわざわざ僕に言わせようとするんだろう? 時々……いや、頻繁にエルジットが何を言っているのか分からなくなることがある。



「あ……そうだね。ユーシャの頭じゃ暗記しきれないよね。ごめんなさい」



「ホントに謝る気あるの!?」



 いや、まぁ暗記しきれないのはその通りなんだけどさあ。



「でも大丈夫! そんな事もあろうかと紙とペンは持ってるから!」


 そう言ってエルジットはスカートのズボンからメモ帳とペンを取り出した。いつも思うんだけれど女子のスカートってどんな風に出来ているんだろう? 女子がスカートに手を入れる度にそんな事を考えるのは僕だけだろうか?



「はい、ユーシャ! ここにさっきのセリフ書いておいたから言ってみて! そしたら私が時計を破壊するから!」



「なんで!? 時計に何か恨みでもあるの!?」


 エルジットから渡されたメモを破り捨てる。こんなセリフを言う意味も分からないし、言っても時計が無駄に壊れるだけなのだとしたら本格的に言う意味が無いじゃないか。



「あ、そもそも時計は持ってきてないや。どうしようユーシャ?」


「知らないよ! 気づいたことがあるんだったらさっさと答えなさい!!」


 そもそもなんでこんな茶番を続けなくちゃいけないのかって僕の方が聞きたいよ!!


「むーーー、まぁ時計が無いし仕方ないね。私が思うにあの神父さんの力は……ザ・ワー〇ド。時間を止める能力だと思うの!」


「ザ・ワー〇ドってなに? 時間を止める能力と思ったのはなんで?」


「!? ユーシャ!? ジョジョの奇妙〇冒険を読んだ事ないの!? 人生の十割を損してるじゃあないかしら!?」


「十割ってつまり僕の人生損しかないって言ってるのかなぁ!? そして何の話かと思ったら漫画の話!?」


 タイトル名だけ聞いたことがあるけど確か漫画だったはずだ。おそらくさっきエルジットが僕に言わせようとしていたセリフも漫画の中に登場したセリフか何かだったのだろう。つまり僕が何を言いたいかと言うと、


「そんなもん参考になるかぁ!!」


 エルジットの考えを一蹴する。そもそも、時間が止められるのならあちらはカヤをさっさと連れ去っているはずだ。そうしないという事はつまり、エルジットの考えが間違っているという事だろう。仮にエルジットの考えが当たっていて、カヤを連れ去らなかったのがあちらの慢心だったのだとしても、時間が止められる相手に対策なんて立てようがないのでひとまず考えなくてもいい。



「エルジットさん。少々よろしいですか?」


 ウェンディスがエルジットへと話しかける。


「なぁに? えっと……確かウェンディスちゃんだっけ?」


「ええ、そうです。兄さまの妹のウェンディスと申します。おそらく聞きたいこともたくさんあるでしょうが、まずは私のお願いを聞いていただけませんか?」


「えと……いいけど……どうしたのウェンディスちゃん?」


 エルジットは戸惑いをあらわにしてウェンディスとの話を続ける。ちなみに戸惑っているのは僕も同じだ。あの話をややこしくする変態ウェンディスからは考えられないくらい殊勝な態度だ。もしかしたら誰かに操られているのかもしれない。もしくはどこかでドッペルゲンガー的な偽物と入れ替わったのかもしれない。



「ありがとうございます。私のお願いと言うのはエルジットさんのお持ちの……ぺんと言うのでしたか? そちらを私に譲っては頂けないでしょうか?」


「ペンを? なんで?」



 エルジットは先ほど取り出したペンをウェンディスの前へと掲げて見せる、ウェンディスはそのペンを見ると頷き、



「ここでは見かけない物だったので。おそらくそちらの品は兄さま達の世界の物ですよね?」


「え? あぁ、そっか。この世界にはペンなんてないんだね。うーん、でもさすがに私もペンはこの一本しか持ってないし……」



「譲っていただけるのであれば今後、兄さまとエルジットさんが恋仲になれるように私も協力します!」



「はい、どうぞ! あ、ペンだけでいいの? メモ帳もいる? もうなんでもあげちゃうよ?」


 な……さっきまで渋っていたエルジットが嘘のようだっ! もはや取り出したペンをウェンディスへと押し付けるかのような勢いだ。

 そんなエルジットの剣幕を横から見ていた僕。すると不意に、



「……てめぇ、お嬢様に手ぇ出したら分かってんだろうなぁ?」



 いつの間にやらセバスさんが僕の背後を取っていた。振り返らずともわかる。声が聞こえると同時に凍えるくらい寒い殺気を背後からビンビン感じるんだ。


「も、もちろんであります!」



 僕は姿勢を正して小さく声を上げる。そうしなければと僕の本能が反射的にその行動を取らせたのだ。



「……ならば安心ですな。私も極力洒水さんに手を出したくはないのです。洒水さんが居なくなるとお嬢様が悲しくなりますからな。……忌々しい」



 それってつまりエルジットが悲しまなければ何の躊躇ためらいもなく僕を始末するのにっていう事ですかね? それとセバスさん。言葉遣いは丁寧な物になってますけど黒いのが隠れてないですよ~。



「む……ぬぅ。ここは……」



 そうしてようやく目覚めたカヤ。



「ここは……村の外か。しかしなぜ童はこんな所に?」



 しかし現状を把握できないでいるようだ。まぁ気絶してたんだから仕方ないけど。



「さて、それじゃあ聞かせてもらうわよウェンディスちゃん! ユーシャの妹って言ってたけどどういうことなの!? 一から十まできちんと説明して!」



 そしてエルジットにも説明が必要なようだ。そういえばきちんとエルジットと話していなかったなぁ。

 という事で、



「とにかく! 現状を把握するためにもカヤとエルジットには今までの事を説明するから大人しく聞いてくれるかな?」


 そうして二人の認識の足りない部分を補足しようとしたのだがエルジットが手を上げる。


「あ、その前にこんな場所じゃなんだし落ち着いた場所に行かない?」


「落ち着いた場所って……エルジット。この大陸にはさっきの村と荒野と魔王城くらいしか無いんだよ?」


「それじゃあ魔王城に行けばいいじゃない。魔王の城っていう事はカヤさんのお家でしょ?」


 魔王城という名前から、カヤの家だと思ったようだ。本来ならばその認識で合っているのだが……、



「いや、今は武器屋さんの物になってるかな」



「なんで!?」



 なんでと言われましても……カヤがギルクさんに家を売り飛ばしたからかな。



「ですが兄さま。カヤさんの居城でなくなったとはいえ、魔王城へ行くのはありかもしれません。あそこにはギルクさんも居るでしょうし何か手助けをしてくれるかもしれません。話は道すがら話せばよいかと」



 冷静に魔王城へ行くことのメリットを告げるウェンディス。本当に先ほどからウェンディスはどうしたのだろう? これじゃあまともな女の子みたいじゃないか。

 念のためにウェンディスのステータスをのぞいてみるが以前見た時と何も変わっていない。兄への劣情という技能もそのままだ。



「まぁ……ウェンディスの言う事も分かるよ? 元とはいえ魔王城はカヤのお家みたいなものだし、あのギルクさんが力になってくれるなら百人力どころか兆人力ちょうにんりきさ。だけど問題がある」


「と言うと?」



「そもそもエルジットやカヤは問題ないとして、僕とウェンディスは魔王城行けるの?」


 村人は村からそんなに離れられない。

 少なくとも大陸の外や魔王城に行くことはできない。


 なんていうふざけたルールがあったはずだ。

 僕とウェンディスは村人だ。

 つまり、このルールが本当のものなら、僕たちは魔王城に行けないということになるのだが――


「? 何を言ってるんですか兄さま。今の魔王城はギルクさんが経営する武器屋でもあるんですよ? 回覧板を回すためにも、他の村人がそこに行けるのは当たり前じゃないですか」


「どんな判定!?」


 なぜかは不明だが、行くことができなかった魔王城に行くことができるらしい。


「っていうかそもそもギルクさんは魔王城に行けたのかな? 彼も一応ラストの村の住人のはずだけど……」


「さぁ? しかし、いまだカヤさんが生きているのですし無事に着けたのではないですか? そうでなければとっくに契約不履行だとかでカヤさん、ギルクさんに怒られているでしょうし」


 怒られる=惨殺じゃないか……。


 まぁ……それもすべては魔王城に行ってみれば分かるか。

 という訳で――



「それじゃあみんな、魔王城へと向かおう。カヤ、エルジット。詳しい話は魔王城へと向かいながらでいいかな?」



「うむ」「分かった!」



 そうして僕たちは魔王城へと向かった。

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