第4章11話『筋肉馬鹿、再び現る……誰が馬鹿だゴラァ!?』


「ふむ、童の意識が無い間にそんなことが……」

「そっか……私が居ない間ユーシャも大変だったんだね……なんて言えばいいのかな、その……お疲れ様?」



 カヤとエルジットへの説明を終えたころ、僕たちは魔王城のすぐそばまで辿り着いていた。カヤは事態が急変したことに驚きを隠せない様子だ。エルジットは……おかしいな。今までの事を嘘偽りなく話しただけなのに憐みの視線を感じるような……。



「うおぉぉぉぉぉぉぉりゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」



「何事!?」


 突然、僕たちが向かっている魔王城の方から激しい衝撃音と誰かの怒声が聞こえてきた。何度も何度も何かが壊れる音が響き、肉がひしゃげるような不快な音が聞こえてくる。



「だおらぁぁぁぁぁぁぁ! せぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇいいいい!!」

「グゴガァァァァァァ! グルゥゥゥゥ」

「ギャッギャッギギィィィ!」



 響いてくる誰かの怒声。そして数多の魔物と思われる者たちの声。どうやら誰かが魔物と戦っているようだ。



「とにかく行ってみよう」



 僕は駆け足で魔王城へと駆け出す。僕に続くようにみんながついてきてくれる。

 すぐに魔王城にたどり着いた。相変わらず日本の時代劇に出てきそうなお城だ。個人的には魔王城というのは洋風なイメージがあるのだけど……まぁこの際なんでもいいだろう。



「うぬ? 門が開いておるな。この門は勝手に閉まるはずなのだが……誰か侵入でもしたのかもしれぬな」



 カヤが魔王城を見て呟く。彼女の言う通り城の門は大きく開いていた。木製の古臭い大きな門だ。これが自動で閉まるっておかしくない? とも思ったがまぁそんな事もあるだろう。きっとわざわざ古く見えるように作った自動ドアとかに違いない。そういうのを僕もどこかで見たことがあったような気がする。



「戦闘音はこの内部から聞こえてきますな。中には魔物が居るのですかな?」



 セバスさんがエルジットを降ろしつつ、城の中の様子を元住人であるカヤに尋ねる。



「あぁ、たしかにおるな。童を攻撃してくることは無いが様々な魔物が闊歩しておるぞ。しかも不思議なことにストレスはっさ……こほん。童が自分の力を試すために根絶やしにしても次の日には蘇っておるのだ」



 なにそのリポップ現象。この世界の事を知るたびにゲームっぽいという印象が強くなるなぁ。あとカヤさん。今、ストレス発散って言いかけませんでした? あなたもしかして有り余るストレスを魔物にぶつけてたんすか? それはそれで魔王としてどうかと……。



 そんな会話をしている間も中から誰かの怒声と魔物の声……あれ? 心なしか魔物の声が少なくなってるような……っていうか魔物の声の大部分が断末魔の叫びに聞こえるような……。



 対して先ほどから聞こえる人間の怒声は一人分だ。誰かが魔物相手に無双しているのだろうか? そんな事は……まぁ良くあることだし今更驚かないな。



「それじゃあ中に入るとするか」



 そうして僕たちは魔王城のなかへと入った。



★ ★ ★



 魔王城に入ってさっそく僕は驚いた。

 何に驚いたかって? それは、




「中は洋風かよ!?」




 魔王城の作りに対して驚いたのだ。この魔王城、なぜかは不明だが外見は完全に日本のお城のような和風建築なのに、中身は洋風なのだ。僕たちが足を踏み入れた場所はそこそこ広い長方形の空間で床には赤い絨毯が敷かれている。いわばエントランスホールといった感じだ。僕たちが入ってきた入り口のほかには他の部屋へと通じる扉がふたつと上へ続く大きな階段が見える。


 そして階段の前で戦闘が行われている。

 男だ。ごつい筋肉質の男が自身と同程度の大きさを持つ斧を振り回して自身よりも二,三倍も大きいドラゴンを相手に一歩も引いていない。むしろ押している。

 その周りには杖を持った人型のカエル顔モンスターが何体かいて、時折ドラゴンの相手をしている人に向けて魔法を放っていた。今もドラゴンを相手していた筋肉質の男がドラゴンから離れた瞬間に三体のカエル顔の魔物がその杖から火の魔法を打ち出す。



「だぁらっせぇぇぇぇい!!」


 しかし魔法を向けられた男は放たれたそれらを一瞥すると振るっていた斧を構えて、



「蹴散らせパラシュラーマァァッ!」



 そう叫んで斧を……投げたぁっ!?

 クルクルと放たれた斧はどんな偶然なのか。敵の放った三発の火の魔法へと当たり、しかしそれでも無傷。逆に魔法の方がかき消された。

 それでも斧の勢いは止まらず、先ほど魔法を放ったカエル顔の魔物三体へと向かう。


「グギャッ」

「グギギィッ」

「グボァッ」



 攻撃を放った直後という事もあってカエル顔のモンスターはロクに回避行動もとれずに斧の一撃を受け、腸をぶちまける。三体の魔物に致命打を与えても斧はまだ宙を舞っており、その軌跡が弧を描く。

 そして斧が向かった先は斧を投げた男の元だ。男は片手でクルクル回る斧の柄を掴むとそのままショートアッパーを繰り出すかのように力任せに相対していたドラゴンの首目掛けて斬りかかった。



「どおおおおおらあああああああ!!」


「ゴゴガァッ!?」



 ドラゴンはその斧の一撃を受け止めようとそのあぎとで斧をくわえる。真剣白羽取りを歯でやるイメージだ。


 しかし、それは悪手だった。

 斧は勢いを止めることなく、ドラゴンの歯ごとドラゴンの顔半分を切り飛ばした。



「うわぁ」



 思わず口に手を当てる。別に魔物に愛着がある訳ではないが……グロイ。

 そうして戦闘を観察している中で僕が気づいたことが一つある。いや、むしろ声を聞いたときに気づくべきだったのかもしれないが……。まぁ過ぎてしまったものは仕方ない。

 というわけで、



「おーい、レンディア~」


 斧を振り回している男――レンディアに向けて手を振ってみる。使用している斧は以前と違うようだがそれはまさしくレンディアだった。彼は目の前のカエル顔の魔物へと斧を振り下ろした後、ゆっくりとこちらを振り返り、



「あぁ! 洒水! なんでこんなところに……まぁいいか。丁度いい。暇ならでいいんだがこいつらの片づけ手伝ってもらっていいか?」


 驚いたかと思ったら次の瞬間には平静を取り戻すレンディア。相変わらずマイペースだなぁ。まぁ僕たちも魔物がそこらに居る状況はあまり好ましくないのでみんなで魔王城の魔物を倒すことに専念した。

 まぁステータスに不安があるエルジットは終始セバスさんの後ろで見ているだけだったけど。

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