第3章36話『交わした約定&勘違い』


「なんだいウェンディス? ああ、先に言っとくけど僕は責められるより責める方が好きだよ?」



「それを早く言ってください! さぁ兄さま! 少し大人しくしていてください! 今その鎖を外して差し上げますから!」



「あ、うん」



 言われるまでもなく、そもそも鎖で身動きが取れない僕は大人しくしている。そんな僕を縛っている鎖をウェンディスは解いていく。



「はあ……はあ……。ああ、まさか兄さまに責められる日が来るなんて……なんでしょうこのお腹がキュッとなる感覚。私は一体どんな辱めをうけるんでしょうか? はぁ……ふぅ……あぁ」



 そんな独り言を言いながらウェンディスは僕の鎖を震える手で解いていく。っていうかウェンディスさん。あなたドSでもあり、ドMでもある感じなんですか? っていうかもう兄が相手であればなんでもいい感じなんですか? ある意味凄いと思います。

 そうして時間をかけてウェンディスは僕の動きを封じていた鎖を解き終わる。そして、その場で両手を広げ、



「さぁ兄さま! 遠慮はいりません! 私は何の抵抗もしませんから気のすむまで……いいえ! 気が済んでも私を辱めてください! あ、何か道具とか要りますか? 生憎今は蝋燭と鞭くらいしかないのですけれど何か調達した方がよろしいでしょうか?」



 そして思いついたように懐から出てくる数本の蝋燭と棘のついた鞭をウェンディスは取り出す。というかなんでそんなものを持ち歩いてるの? その作業着の中はドラえ〇んの四次元ポケットか何かかい?



「ひとまずは縛ろうかな。とりあえず大人しくしててね」



 今まで僕の体に巻き付いていた鎖を今度はウェンディスの体に巻き付けていく。




「あっ……に、兄さま。いつになく積極的ですね。こんな誰が来るかも分からない場所で早速始めようとするなんて。しかし兄さま、さすがに衣服の類は先に脱いでおいたほうがよろしいのではないですか?」



「……ウェ、ウェンディス。そ、それじゃあ僕が破いたり出来ないじゃないか。それにこの世には着ながらするっていう方法だってあるんだよ」



「――――ハッ、さすが兄さまです。まさかそこまで考えての事だとは思いませんでした。そういえば以前読んだ書物でもニーソックスを破る描写などがありましたが……殿方はそのように自分の手で征服する事に興奮する生き物という事なのですね!? 至らない妹で申し訳ありません……」



 本気で申し訳なさそうにされても困るんだけど!? っていうかそんな書物をどこで読んでいるんだ、けしからん! 没収だ没収! 僕に読ませろ! いや、読ませてください!

 ……っとそんな事は後に置いておこう。うん。後で家をくまなく探すとしてだ。


「謝る必要なんてないよ。ふぅ、これで一安心かな」



 時間をかけてウェンディスの体を鎖で身動きの取れないようにした。



「こ、これは!? に、兄さま!? まさか亀甲縛り!? それを鎖でやるなんて……恐ろしいです兄さま! し、しかしギチギチ絞められて痛いです兄さま。いえ、でもこれが兄さまの愛なんですね! そう思えばむしろ愛おしい快感です」



「あ、そっすか」



 さて……じゃあ脅威は排除できたし帰るか。



「あれ、兄さま? どこへ行くんですか? ……ハッ、まさか嵌められた!? 兄さま! 後生ですからせめてハメるだけハメていってください!!」



 無視無視。


「兄さま? おーい兄さま!? 兄さまーーーーーーーー!?」



 そうして僕は颯爽とウェンディスを残して家へと帰る。



「さすが主様と言うべきか。欲望に忠実となって思考を鈍らせたウェンディスを情けないと言うべきか。まぁ丁度よい。帰るのならば童も行くぞ? 主様」



 家に帰ろうとする僕の前に第二の脅威が現れた……。いや、帰らせてくださいお願いします!!



「カヤ!? なんでここに!? いや、むしろ今までどこに行ってたの!?」



「なぁに、ギルク様との商談が途中であったからな。追加で契約を結んで魔王城の引き渡しなどのもろもろをしておったのだ」



 ギルク様!? 一体僕が見ていない間に二人の間で何があったっていうの!? っていうか魔王に様付けで呼ばれる武器屋の店主って何者!?



「へ、へー、そうなんだ。まぁ今日は遅いからさ。そろそろ僕は帰るよ」



「うむ、そうだな。もう日が落ちるな、主様」



 そう言って僕にしなだれかかってくるように身を任せてくるカヤ。え? なに?



「ちょ!? カヤさん!? 一体何をしているんですかぁぁ!?」



 ウェンディスが怒りを露にして暴れまわる。しかし、その身は鎖で強固に縛られていてそれ以上の行動が彼女には起こせない。




「ウェンディスよ。いかに貴様とて大人しくしておいた方がよいぞ? その身を縛る鎖は主様を縛っていたものであろう? そもそもその鎖に見覚えはないか? それはギルク様が愛用していた武器の一つ、グレイプニル。ギルク様が言うには神さえも捕らえて決して離さないという優れものだ。捕らえられた者以外が拘束を解くのはたやすいが拘束された者には絶対に拘束を解くことは出来ぬ」



「そんな物を僕に使ってたの!!??」



 驚愕の真実に逃げ腰になってしまう。いや、待て。なんでそれをカヤが持ってるんだ? ああ、そうか。ギルクさんの店の商品を全部買ったからか。ん? って事はまさか!?



「まさかカヤって……ギルクさんの武器を全部手に入れてたりするの?」



 だとしたらこの世界での最強の存在はカヤとなる。あんな化け物じみた威力の武器の数々を好き放題使えるというだけで最強の名を欲しいがままに出来るだろう。




「いや、全部ではないな。ギルク様が使った盾、スヴェルト・アールヴなどに関しては、売るつもりはないという事でな。それに童はギルク様のように多くの武器を同時に扱えぬから殆どギルク様に預けて来ておる。どんな金庫よりも安心であろうからな」



 まぁあんな戦闘力の持ち主が金庫の番をしていたら誰も盗み出そうと思わないだろう。仮に盗みだそうだなんて考えても一瞬で八つ裂きにされること間違いなしだ。



「まぁそんな事は良い。さぁ主様、日は落ちた。あの約定を果たそうではないか」



「約定?」



 約定ってようは約束って事だよね? 何か約束なんかしていたっけ?




「くふふ、童に言わせようとしておるのか? 案外主様は冗談でもなんでもなく責める方が好きなのかもしれぬな」



「勝手にそんな判断しないでくれる!? っていうかさっきのウェンディスとのやり取り見てたの!? いつから!?」



「いつからと問われればそうさな。ウェンディスが主様の肩に蝋燭を押し付けていた辺りか? あの時は飛び出そうかどうか迷ったものだ」



「いや、そこは飛び出そうよ人として!!」



 それ結構最初の方だよ!?



「まぁまぁ。おかげで今宵の邪魔をする者は居なくなった。さてどうする主様。童はここでも構わぬぞ? それとも妹に見られながらは嫌か? であれば主様の住まいでもよいぞ? しかしあまり焦らしすぎると童はもう自分を抑えられぬからそのつもりで頼む」



「いや、えっと……何の話?」



 さっきから何やら話が全くかみ合っていないような気がする。いや、むしろそんな気しかしない。

 カヤは微笑を浮かべ、



「本当に忘れてしまったのか主様? やれやれ、本当に罪な男じゃのう主様は。そんな所も本当に愛いのう。狙ってやっておるとしたらとんだマセガキとでも言うべきであろうか。しかし、そうだとしてもやはり愛いのう」



 顔を赤く染めてカヤは舌なめずりをする。うむ、エロい。



「まぁ良い。あの時じゃよ主様。童は主様を今宵の閨(ねや)へと誘った。それを主様は楽しみにしていると言ったではないか。あの瞬間、約定は結ばれたのだ」


「ぜんっぜん記憶にないんだけど!!??」



 そんな重大な約束をしていたら絶対に覚えていると思うんだ!



「確かに約定を結んだぞ? そこまで言うのならば確かめてみるがいい。あれは確か三章の二六話……」



「ストーーーーーーーーーーップ!! 分かった、思い出した! だからもうやめろぉ!!」



 それ以上続ける事は神が許そうともこの僕が許さない!



「そうかそうか、思い出したか」



 うん、確かに思い出した。だが少し待ってほしい。あの時は確か、



★ ★ ★


「次は童の番だぞ主様! 今宵を楽しみにするがよいわぁ!」


「へ? う、うん。まぁ分かった」


 今宵って今日の夜って事だよね? なんだろう。仲間になった記念のパーティーでも開いてくれるのだろうか。だったら、


「楽しみにしてるね」


「ひゃ、ひゃい」


★ ★ ★



 うん、これ完全に考えてることが違ってるやつだ。

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