第3章35話『最適解を導き出すんだ!!』



「……ふむ。よし」



 逃げよう。


 僕は何の迷いもなく決断していた。

 今二人は何か虚ろな目で空を見上げている。何を考えているか分からないが今がチャンスだ。

 そして二人が何を考えているのか分からないけれど謝っておこう。ごめん、エルジット。



 そそくさと逃げ出しても意味はない。今は荒野のど真ん中だ。気づかれずに長距離を移動などできないだろう。でもレンディアはそれを成し遂げたんだよなぁ。僕にも言える事かもしれないけどもうちょっとみんなレンディアの事を気にしてあげようよ。

 というわけで……ダッシュ!!


 心の中で掛け声を上げて僕は走った。そう、出来るだけ静かに、そして出来るだけ早く足を動かした。












 なのにどうしてだろうか?




 一生懸命走っている僕に並ぶような形で二人が飛んでいるのは。





「どうした主様よ? そんなに走ってどこへ行こうというのだ?」

「あらあらホントですねぇ。そんなに一生懸命走っていったいどこへ行こうと言うのですか兄さま?」



「あ、詰んだなこれ」



 意識を失う前に僕が見たのはカヤが振りかぶる動作をした所までだった。





★ ★ ★



 目が覚めた僕はまだ荒野に居た。しかし状況は圧倒的に悪化していた。

 まず――僕の体が鎖で雁字搦めになっているという点。この点だけを見ても状況が悪化したという事が分かっていただけるだろうか? っていうか分かれ。




「あ、起きましたか兄さま? さすが兄さまです! 丁度良い所で目が覚められましたね! カヤさんも今は出払っていますし本当に丁度いいです!!」



 しかもこの場には僕とウェンディスの二人だけしか居ないらしい。カヤが居なくなったというのは幸運なのだろうか? それとも不運なのか? ちょっと判断が付かない。

 空を見ればもう夕暮れ時だ。もうじき夜になるという事も僕の不安を大きくした。



「さぁて兄さま? お聞きしたいことがあるのですがよろしいでしょうか?」



 そう言いながらウェンディスは火のついた蝋燭を僕に見せつけてくる。……蝋燭!?



「ねぇウェンディス。ちょっと聞いていいかな? その蝋燭は一体……」



「あらあら兄さまったら。今は私の質問タイムですよ? (ジュッ)」



「熱っつぅ!?!?」



 何のためらいもなくウェンディスは火のついた蝋燭を僕の肩へと押し付けてきた。



「質問には質問で返さない。兄さまの居た世界ではそんな事も教えられていないのですか? それなら仕方ないです。今、身をもって教えて差し上げます。あぁ、なんて献身的な妹なんでしょう私は」


 どこが献身的!? 猟奇的の間違いじゃない!? っていうかあっつぅい!!!

 これがどこぞのSMプレイなら蝋燭の火を少し触れさせて少しずつ相手をいたぶるのだろうが、ウェンディスはそれ以上だった。



「あっつ!? いや、もうギブギブギブギブ!!」


「兄さま? 私も辛いんです。はぁ……はぁっ」



 そんなとろけた顔で言っても説得力ゼロだからね!? っていうか悦んでる!? この妹、変態だ変態だとは常々思っていたがまさかドS!? どんだけ属性詰め込んでるんだよ!? 責任者出て来いやぁ!!


 っていうかホントギブ! ウェンディスは僕の肩に未だに火のついた蝋燭を押し付けている。っていうか蝋燭そのものが燃えている。そして蝋燭がどんどん溶けて短くなっていく。さてはウェンディス。火の魔法か何かを使っているね?



 そうして体感にしては一時間ほどだっただろうか。僕に責め苦を味合わせた蝋燭はその一片すら残さず溶けた。いや、溶けてくれた。



「さて」



 安心している僕を尻目にウェンディスはその懐から新たな蝋燭を取り出し、



「さぁ兄さま。お聞きしたいことがあるのですがよろしいでしょうか?」



 目の前で火を点けてそう聞いて来た。



「なんなりとお聞きくださいませ!!」


 

 鎖で雁字搦めにされている状態で僕はそう答えた。え? 惨めじゃないのかって? じゃあ逆に聞くけど同じ状況に陥って君たちは完全降伏しないのかい? 僕は惨めだろうが何だろうがさっきのような責め苦を受けたくないんだ!!

 だというのに、



「なんですかその口の利き方は?(ジュッ)」



「なんでだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」



 完全降伏したにも関わらず再び押し付けられる蝋燭の感触。今度はわき腹にだ。



「まったく困った兄さまです。なぜ今更そんな他人行儀なんですか? 兄妹なんですからそんな他人行儀だと悲しいじゃないですか。今のは”そんな事よりヤろうぜ”というのが正解だというのに……ウェンディスは悲しいです。くすん」



 いや、悲しいのはこっちだけどぉぉぉぉぉぉ!? そんな正解知るかぁぁぁぁ!? いや、知ってたとしてもそんな地雷踏みに行けるわけないでしょうがぁぁぁぁぁぁぁ!!



 再び蝋燭本体が燃え尽きるまで蝋燭を押し付けられ、



「さて兄さま、お聞きしたいことがあるのですがよろしいでしょうか?」



 再びウェンディスは新たな蝋燭に火を灯して僕に見せつけてくる。あ、これループするやつだ。


 ……いや、待て! 考えるんだ僕! 地雷を踏まずにこの危機を乗り切ることが僕には出来るはずだ! 勇者たるものどんな厳しい状況からでも突破口を見つけ出さないといけないんだ! そもそも勇者ならこんな情けない状況に陥ってないとか思わないでもないが陥ったものは仕方ない。


 さぁ、考えるんだ! ウェンディスが満足する答えで尚且つ地雷を踏みぬかないパーフェクトな対応を! 正直そんなものがあるとは思えないが諦めては駄目だ。まだまだ考えが足りないんだ。考えろ。思考しろ。解けないパズルなんてこの世には無いようにこの状況に対する答えだって何かあるはずなんだ!!


 そう、この状況で最も適切な対応は――



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