第3章34話『お家帰る』



 もはやこれまで。


 ウェンディスとカヤが離れたことによって結界も効力を失ってしまったし、僕も死ぬ時が来てしまったか。

 僕も復活の対象内なのかなぁ? と少し心配。


 なんて事を考えていると、



「くっくっく。予想以上にい反応をするものだな。主様よ。ほれ、しっかり掴まれ、行くぞ?」



「よ、良かった。ありがぐむぅ!?」



 カヤが助けに来てくれた! と思ったのも束の間。何故か僕はカヤに正面から抱きしめられてしまう。続いて、



「あっ――。ふふ、主様。そう慌てずとも童は逃げぬぞ? それとも嬉しすぎてはしゃいでおるのか? まこといのう」


 言いながらカヤは僕を抱きしめたまま宙を舞う。足裏に感じていた地面の感触がなくなった事で僕はそれを実感する。っていうかもはやこの人だれ!? 僕の知ってるカヤはこんなキャラじゃないんだけど!?



 その疑問に反応したのか。僕の脳裏にまたステータス画面が浮かんでくる。そこには、



★ ★ ★


 カヤ 128歳 女 レベル:99

 クラス:魔王、ヴァンパイア

 筋力:814

 すばやさ:1318

 体力;1853

 かしこさ:1367

 運の良さ:0

 魔力:1389

 防御:1378

 魔防:1589

 技能:吸血・記憶力強化EX・全体攻撃強化LV11・自動回復LV10


★ ★ ★



 ……あっれぇ? おかしいなぁカヤさん。前に見た時とステータスが全然違いません? 運の良さ以外全部思いっきり上がってません? ねぇ? もしもーし。




「な!? まさか兄さまをそんな方法で攻略しようとするとは……こんな状況でも兄さまポイントを稼ごうとするなんてやりますね……」


 こんな状況でそんな事しか考えつかないウェンディスこそ凄いね! もちろん褒めてないよ! っていうか兄さまポイントってなに!? 集めたら何かあるの!?



「ふぅ……はぁ……おめぇら。そんな余裕あんなら俺のほうに何か支援の魔法でもかけてくれねぇか? ていうか俺だけ必死こいて走ってお前ら空飛んでるしずりぃぞ!!」



 カヤの胸に顔を押し付けられている為、周りは見えないがレンディアは一人だけ走って逃げているようだ。それに対しカヤとウェンディスは飛んでいる。まぁズルイと言われても文句は言えないだろう。

 なのだが、



「くくく。別に主様を落とそうなどと思ってはおらぬのだぞ? そもそも落とす必要など無いのだ。のう主様? 童は既に主様の物。主様も既に童の物。あの時の約定。きちんと果たしてもらうからの? だからほれほれ、しっかり捕まっておらぬと落ちてしまうぞ?」



「もががががーーーー!」



「きぃぃぃぃぃぃぃ!! カヤさん如きが随分調子に乗っていますねぇ!! そんなに兄さまと密着して羨ま……ずるいです!!」



 今、言い直す意味あった?



「……はぁ。なーんか俺一人だけ仲間外れにされてる気分だぜ。ここで俺が居なくなっても案外誰も気づかねぇんじゃねぇか?」




「もががっがーーーー!!」



 待って! 行かないで! こんな猛獣の前に僕だけ放置していかないで!?



 そうして僕が何も言えない中、ウェンディスとカヤは逃げながら口論? を続けていた……。




★ ★ ★



「しっかし、馬鹿げた威力であったな。まさかあそこまで崩壊の範囲が広がっていくとは思っておらなんだ。まことにこの村に生きる者たちは童の常識では測れぬ」



「結構カヤは余裕そうだったけどね……」



 ギルクさんの攻撃から逃げ続けて数十分。その範囲から逃れた僕たちは地上に降りてへたり込んでいた。

 ギルクさんの所には後で戻るが、すぐに戻ってもまだギルクさん(表)がギルクさん(裏)でいる可能性がある。


 ギルクさん(裏)と会うのはかなり危険だ。

 それこそ彼の怒りの矛先が僕たちに向いた瞬間消滅なんて展開もあり得る、っていうか間違いなく死ぬ。

 なので時間を置くという意味でもこうして僕たちは雑談に耽っているという訳だ。



「しかし、なんと面妖な事か」



 カヤが目の前の消滅させられていた荒野を見る。

 そこにはギルクさんの攻撃によって消滅させられた大地……などではなく、ごく普通の状態の荒野の風景しか無かった。



「目を少し離した一瞬で消滅させられていた大地が復活するなどあり得ん。これはやはり何かの力が働いておるな」


「そうですね。それが神と呼ばれる物なのか、はたまた勇者と言われる人間の意思が働いているのかは分りませんが明らかに普通ではありません」



 ……ものすごく久しぶりにカヤとウェンディスが真面目なことを言ってる……。だが、ここで茶々を入れたら話が飛んでしまうだろう。それこそ北極圏くらいまで飛んで行って回収できなくなるだろう。この世界に四季や北極圏があるのかとか知らないけど。ああ、でもこれだけは言っておこうかな。



「今回の勇者はそんな事してないと思うよ」


何故なにゆえそう思うのだ?」

「なんでですか? 兄様?」



 なんでって……そりゃあ、



「カヤは勇者に殺されるたびに世界を周回してるって言ってた。でも確か勇者パーティーの構成は毎回違うんだったよね?」


 カヤの話を端的に纏めるとそんな感じだったはずだ。



「毎回違ったかどうかは……少し待っておれ」



 カヤは目を閉じて額に手を当てる。過去の記憶を一つ一つ思い出していってるのだろう。そして数分後、彼女は目を開けて、



「ふむ。確かに一度として同じ勇者は居なかった。勇者と共に居た者たちも毎回変わっておるな。しかし主様、それがどうかしたのか? 何かの手掛かりになるのか?」



「いや、黒幕の手掛かりになるとかそういう訳じゃないんだけどね。さっき話に出てた勇者の話なんだけどさ。今回の勇者って僕の幼馴染みたいなんだよね。悪い子じゃないし変な事はしてないんじゃないかなーって」



「ほう、幼馴染」

「へぇ、幼馴染」



 おや、気のせいだろうか? 急に肌寒くなってきたような?



「ちなみに主様?」



「その幼馴染って男ですか?」



「それとも……まさか女ではあるまいな?」



 カヤとウェンディスがまるで打ち合わせでもしていたみたいに僕に詰め寄ってくる。っていうかチミたち。仲悪いんじゃなかったっけ? なんなのその息の合った連携は?



「えと……女の子だけど……」



「ほう」

「へぇ」



 二人の目が細められる。っていうか怖いんだけど!? 助けて誰かぁ!?



「ってあれ? そういえばレンディアは?」



 誰かに助けを求めようと周りを見回してレンディアの姿が無いことに気づく。そして遅れて少し離れたところにある地面が削られていることに気づく。人為的に削られた後で、それが文字になっている。それを読み上げると、



「お家帰る」



 一陣の風がその場に吹いた気がした。というか反応に困る。

 落ち着いて整理しよう。

 これを書いたのはレンディアだろう。レンディア以外に先ほどまでここに居た者は居ないのだから。

 つまりレンディアはここに書かれてある通り、家に帰ったのだろう。なぜ?


 そういえばここに来るまでにレンディアが何かを言っていた気がする。あの時はなんと言っていたんだったか? カヤに頭を強く抱きしめられながらの飛行だったのでよく思い出せないが確か……、



”……はぁ。なーんか俺一人だけ仲間外れにされてる気分だぜ。ここで俺が居なくなっても案外誰も気づかねぇんじゃねぇか?”



 ……ふむ。謎は全て解けた。つまり、



「あんにゃろう。まさか本当に帰るとは……」



 まさか本当に帰るとは思わなかった。なんだかんだ言いつつ僕たちとずっと行動してくれると思っていたのに何という事だ。というかレンディアが居ないという事はつまり、つまりだ。



「そうかー、今回の勇者は主様の幼馴染かー。よし滅ぼそう」

「そうですかー、今回の勇者は兄さまの幼馴染ですかー。よし、りましょう」



 この人達の面倒を僕が見なければならないという事だ。


 ………………僕もこの二人を置いてお家かえっていいですか?

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