第3章37話『吸血鬼』
「いや、カヤ。あの時僕が言った楽しみにしてるっていうのはそういう事じゃなくてさ?」
「この期に及んでまだ決心がつかぬのか主様!! もう童は我慢できぬ! かぷっ」
「痛ッ――ってまたぁ!?」
またもやカヤに血を吸われてしまう。っていかん! これ続けられたら力が抜けて動けなくなるという事を僕は既に知っている! カヤを突き飛ばして逃れなければ!!
だというのに、
「逃れられぬよ? 主様は皆のステータスという能力値のような物を見る力があるのだろう? 童のステータスを見てみるがいい」
なっ!? う、動けない!? 手足をもがいて脱出しようともがくがカヤがその手足をガッチリと押さえていて身動きが取れない……っていうか押し倒される!?
ズシャアっという音を立てて僕とカヤは荒野に倒れこむ。離れたところからウェンディスの叫ぶ声が聞こえるが今はそれどころではない。……ってなぬぅ!?
「一体どうなってるのこのステータス!? どこぞの戦闘種族みたいに数値が上がり続けてるんだけど!?」
言った通り、カヤのステータスは時間の経過とともに上昇を続けていた。なんで!?
「主様には言っておらなんだがな。童は魔王であるのだが同時に吸血鬼でもあるのじゃ。吸血鬼と言うのは分かるか主様? この世界でも絶滅種であまり見かけることは無いのだが人の血を吸って生きる人外の生き物じゃ」
「いや、それはステータス画面を見た時から知ってたけどってっく、ぐ、うぅ」
だ、駄目だ。力が抜ける。頭にも
「ほう、ステータス画面とはそこまで情報がかかれている物なのか。ならば話が早い。吸血鬼とはな。別に血を吸わなくても生きていけるのだ。もっとも、童の経験での話だから童が特別なのかもしれんがな。少なくとも童は血を吸わずにいたからのう。今日までは」
「今日までって……僕の血を吸うまではって事?」
ギルクさんから逃げる時にカヤに血を吸われた。あれが初めての吸血体験だったという事か。
「そうじゃ。あの時はなぜあんなことをしたのか分からんかったがおそらく吸血鬼としての本能であろうな。血を吸った童の体はまるで羽が生えたかのように感じられ、身に纏う魔力も桁違いに膨れ上がった。……しかし主様の血はうまいのう。他の人間の物と比べたわけでは無いのだがなんというか癖になる味だ。くちゅっ、はぁ」
「痛気持ちいい!? っていうかなんなのこの感覚!? なんで血を吸われてるのにこんな変な感じになるの!?」
テレビで見た吸血鬼に襲われる被害者って干からびるか同じ吸血鬼になるっていうイメージがあるんだけど!?
「……あれ? っていう事は僕もしかして吸血鬼になったりするの?」
「何がどうやってそういう推論へと行きついたが分からぬが……まぁ否定は出来ぬな。そもそも童にとってもこれは初めての行いだ。しかしそうなると主様は童にとって色々な意味で初めての男という事になるな。血を初めて吸わせてくれた男が主様であるし、これから童が操を捧げる初めての男が主様であるのだから。主様が童と同じ吸血鬼となってくれるのならば童と同じ悠久の時を生きていけるという事であるし、これ以上喜ばしいことは無いな」
「吸うのを許可した覚えは無いし、カヤとそうなる事を許容した覚えはもっと無いんだけど!?」
慌てて僕は自分のステータス画面を広げてみるが……とりあえずは吸血鬼にはなっていないようだ。
「くちゅっ、くっ、ふぅ。そう邪険にすることも無いだろう主様? そもそも童には主様が本気で嫌がっているようには見えぬぞ? 例えばほれ」
「くひぃっ!?」
カヤの手が僕の腰のあたりに伸びてくる。待て! ウェイト! 待つんだ! そこはまずい!!
「くっくっく、まるで手弱女のように可愛らしい声で鳴くではないか主様よ。それに反してここはなんだ? まるで益荒男のようにたくましいではないか。期待……しているのだろう? それとも童に血を吸われるのがそこまで気持ちよかったか? ん?」
どっちもです。口が裂けても言わないけど。
「べ、別にどっちでもないよ! こ、これは……男ならだれでもこうなることで……っていうか待てぇい! そろそろヤバいんじゃないカヤ!? この展開……これ一般向きとして公開できなくなっちゃうよ!?」
「大丈夫じゃ主様。まだ直接的表現はないからセーフであろう。……多分」
多分!? 一気に不安になったよ!? もっと言うとこの会話自体がかなりアウトな気がしてきたよ!?
「ほれほれ、震えておるぞ主様? そんなことで童をリードできるのか? まぁ仕方ない。やはりここは童がリードしてやるしか無いようだ。やれやれ、童も初めてだというのに……それとも主様はそういう展開が好みでわざとされるがままで居るのではないだろうな? だとしたら良い趣味とは言えぬぞ? まぁ童はそんな主様でも愛せるし、愛しいと思えるがな」
「体中の力が抜けて動けないだけなんですけど!? 血を吸われるのが気持ちよすぎてまだ力に入らないだけなんですけど!?」
そうじゃなきゃとっくに逃げてるよ!!
「ふっくっく、本当に主様は正直者よなぁ。そうかそうか。気持ちよかったか。体中の力が抜けて脱力状態になってしまうほど気持ちよかったか。そうかそうか」
「あ」
口が裂けても言わないといったばかりなのに自爆してどうする僕!!
カヤはそんな僕の反応が面白くてたまらないのか。ニヤニヤと笑みを浮かべながら僕の服へと手をかけ、
「しかしまだ今宵の時間は終わらぬぞ主様。童が真の快楽と言うものを教えてやろう。ほれ、主様の分身もこの通り。期待に胸を膨らませているようだしな」
僕の服をそのまま脱がしながら僕のデュランダル(誇張)をしげしげと眺める。ってあれぇ!?
「なんで僕の服が脱がせるの!? 今まで自分でもウェンディスでも脱がせなかったし破けなかったのに!?」
「ぬ? 気づいていなかったのか主様? ならばその目で童のステータスをもう一度よく見てみるといい。ステータスの値も安定しているだろうし見やすいのではないか?」
ステータスが安定って……あぁそうか。もう僕の血を吸っていないからか。っていうかもしかしてカヤさん。血を吸えば吸うほど強くなるとかいうオチですか? それなんてチーターですか??
見るのが怖いなあと思いつつも、僕はカヤのステータス画面を見ようと念じ、そして現れたそれは、
★ ★ ★
カヤ 128歳 女 レベル:99
クラス:魔王、ヴァンパイア、武器屋見習い
筋力:1614
すばやさ:2118
体力;2653
かしこさ:2167
運の良さ:0
魔力:2189
防御:2178
魔防:2389
技能:吸血・記憶力強化EX・全体攻撃強化LV18・自動回復LV17
★ ★ ★
「……わーお」
どこからどう見ても前と比べて明らかに数値が上がりまくってます。本当にありがとうございました。
でも、それとこれと一体何の関係が?
などと思考を巡らせていたらカヤが答えをくれた。
「確か主様の服を脱がせるのは武器屋のみなのであろう?」
「そうだけど……ハッ、まさか……」
「そのまさかだ。童はギルク様に師事し、今は魔王の副業として武器屋店員へと就職出来たのだ。これで主様の服を脱がせるであろう?」
「魔王の副業として武器屋ってどゆこと!?」
なんにしても……これは(僕の貞操の)大ピンチだ。
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