第3章33話『でぇじょうぶだ。〇〇〇で生き返る』

 


「ちゅっ……はぁ。な……なん、なのだ……これはぁ……美味し…………ちゅっ」


 何のつもりかは分からないけど僕の血をちゅーちゅー吸うカヤ。キミは吸血鬼かい!?

 ――あ、そういえば前にカヤのステータスを見た時ヴァンパイアとか書かれてあったような……っていうか体から力が抜けて……



「あ……もう無理」



「兄さまーーーーーーーーーーー!?」



 途轍もない快感が僕の体を支配する。とても走るなんて出来ず、その場にへたり込んでしまう。



「あむっ……くちゅっ……ん……ふっ……はぁ」



「ひぃっ!?」



 それでも構わずチューチュー僕の血を吸うカヤ。いや、ホント勘弁してください……。力が抜ける。気持ちいい。まるで全身を優しく愛撫されているかのようだ。



「なぁにをやってくれやがりますかーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」



 そんな僕たちに制裁を加えんがため、ウェンディスのドロップキックがカヤを襲う。その後ろではレンディアがおろおろしているのが少し笑える。いや、全く笑える状況じゃないんだけど。



「ちゅぱっ。ふ……うぅん。ふぅ。なかなか美味であった」



 そんなウェンディスのドロップキックを難なく避け、カヤは血を吸うのを止めて立ち上がる。赤く染まった唇を舌で舐め、



「ほれ。ウェンディス。結界を張るのだろう? 何が来るのか童はまだ呑み込めておらぬが危機が我らに迫ろうとしているのだろう?」



 そう言ってカヤは両手を広げ、




「何物も童たちを傷つけること叶わず。それは絶対にして最強の盾――顕現せよ! アイギス!」



 瞬間――カヤの目の前に半透明の巨大な盾が現れた。

 いや、盾とは言えないのかもしれない。それは出現した瞬間は大きな盾の形状を取っていたのだが、次の瞬間には僕らを覆う半透明の結界へと姿を変えた。



「何ですかアイギスって!? 私のパクリとはいい度胸です! 私も負けません!」



 それに対抗するかのようにウェンディスも両手を広げ、



「えーと……何物も兄さまと私の情欲の炎は消せない。それは絶対にして何者をも阻むプライベートルーム――プロテクション・イージス!!」



 そうしてウェンディスの結界はカヤの物に対抗するかのように僕たちを覆った。

 ……僕とウェンディスだけを。



「さぁ兄さま! もう私たちを阻むものは何もありません! ここで好きなだけイチャコラしましょう!!」



「いいからさっさと結界の範囲を広げろやこの駄妹がぁ!!!」



 今はこんなコントをやっている場合じゃないだろうに! カヤに奥の手があったおかげで希望が出てきたけどギルクさんの”全力”が出てしまうんだよ!? 用心しすぎることは無いと思うんだ!



 と、そんなことをやっていたら――



「さぁ、喰らうがいい! ゲートフルオープン! そして出でよ我が至高の盾――スヴェルト・アールヴ!!」


「へ? 盾?」


 なんだ盾か。全力を出すと言ってたからもっと攻撃的な何かを出すと思ってたよ。





 ――――――しかしこの時の僕は本当に愚かだった。



 この世界では自分の常識など何一つ通用しないという事をまたしても失念していたんだ。




「スヴェルト・アールヴよ。我が心の安寧を保つため……行くぞぉ!!」



 そうしてギルクさんは走り出した。

 ギルクさんはそれはもう一生懸命走った。

 息をはぁはぁ切らすくらいにだ。とにかく忍者っぽい人に制裁を加えんがため、必死の形相で追いかけた。

 そして、



「ぜはー、ぜはー、ぜはーーーー」



 百メートル走ったあたりで歩みを止めてしまった。この間約一分である。



「遅っ!?」



 百メートル一分とか遅くない!? なかなかみないよそんなタイム!?

 逆に忍者っぽい人は影も形も見えないくらいのところまで僕たちからも、おそらくギルクさんからも逃げている。さすがだ。



「えぇいすばしっこい! さすが盗人よなぁ!」



 いやー、多分あなたと比べたらほとんどの人間がすばしっこい部類に入ると思います。

 そんなツッコミはもちろん心の中で厳重に封印しておくんだけどさ。



「逃さぬ、逃さぬぞ! 我が追い付けないのであれば話は単純! 貴様を強制的に来させるだけだぁ!!」


 そう言ってギルクさんが新たに取り出したのは……鎖? というかホントにどこからそんなに武器を取り出してるんすか? もはや空中から突然現れたようにしか見えないんですけど?



「ゆけぃグレイプニル! 我を愚弄しくさった盗人を召し捕れぇい!!」



 そうしてギルクさんは手にした鎖を忍者っぽい人に向かって投げつける。当然、もう姿も見えなくなっている忍者っぽい人がそんなもので捕まる訳はな――



「ぬあああああああああああああ!!」



「なぬぅ!?」



 普通に捕まってるだとぉ!? なんなのあの鎖!? いきなり忍者っぽい人がギルクさんの前に現れたように見えたんだけど!?



「さぁゆけぇい! スヴェルト・アールヴ! 我が心の安寧を保つため、賊を抹消せよぉ!!」



 そしてギルクさんがまたもや盾? の名前を叫ぶ。しかしそこで気づいた。先ほども今もギルクさんの手には盾らしきものは何もない。一体どこにその武器とやらはあるのか?

 そう思った次の瞬間だった。



「――――ッッ」



「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」



 いきなり忍者っぽい人が消し飛んだぁ!?

 その足元には例のごとく棺桶が出現しているが事態はそれだけに留まらない。ギルクさんを中心に大地がどんどん消滅していってるぅぅぅ!? 何を言っているのか自分でも分からないが実際その通りなのだからそうとしか言えないぃぃぃぃ!! そしてこのままだと僕たちもヤバイィィ!!


「逃げて! 皆超逃げて!」


 結界張ってもらった意味ねーーーーーーーーーー!! でもギルクさんを中心として消滅していく大地のスピードは非常にゆっくりだ。これなら逃げたほうが生き残れる可能性が高い。



「はい!!」

「うむ!!」

「おう!!」



 そうして三人は走り出した。



 ――動けない僕を残して。



「いや待って!? 僕いま力が抜けて動けないんだけど!? そんな僕を放っていく気!? 見殺しにする気!?」



「大丈夫です兄さま! 死んでもちゃんと面倒みます」

「大丈夫だ洒水。神父さんが居れば生き返れるぜ」



「そんな七つのボール的解釈が聞きたいわけじゃないんだよぉぉぉぉ!! 人の命をなんだと思ってるんだぁぁぁ!!」


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