第3章32話『爆発まで後何秒? とにかく逃げろぉぉ!!』



「そうはさせない! これは俺が手に入れる!!」



「「「「へ?」」」」



 カヤとギルクさんの大型契約交渉成立の間隙かんげきをぬってそれは現れた。

 今までどこに隠れていたのかは分からないがどこかで見たような気がする黒装束の忍者っぽい人が長剣を持って、疾走していく。


 そしてその素早い動きであっという間に僕らから離れていった――


 うーん。デジャヴュ感じるなぁ。確か前もあんな感じでギルクさんの所から武器を盗み出す人が居たんだよねぇ。



 ――――――なんて呑気に構えている場合じゃないっ!



「なっ!? 童の武器が……。これ、待てい。それをこちらによこすのだっ。少なくとも勇者に渡るのだけは阻止しなくては――」


「待つのは君だよカヤ! 死にたくなければあの盗人は放って――――――全力を振り絞ってここから逃げるんだっ!」


「ぜんりょ……はえ?」


「ああ、もう! うだうだ言わずに逃げるんだよぉっ。……ってもうヤバイ。くそ、仕方ない。カヤ、全方位に防御の結界を貼って。すっごい強固なやつをよろしく。レンディア、僕がカヤを抱えるからそっちはウェンディスをお願い!」



「おう! 行くぞ! ウェンディスちゃん」



「兄さま以外に抱えられるなんてごめんですと言いたいところですが……やむを得ません。カヤさんも兄さまに抱えてもらえるからっていい気にならないでくださいね!!」



「いや、童には何が何だか……ってぬわぁ!? ぬ、主様!?」


 カヤを脇に抱えた瞬間、彼女は顔を真っ赤にして手をあたふたと動かしながらこちらを見て何かを言おうとしていた。しかし……正直今は構っている暇がない。


「カヤ! 何が何だか分からないのは良くわかるけど言うとおりにして!! ウェンディスだけじゃ四人を余波から防げるか分からないんだ!! 僕とレンディアが出来るだけ距離を稼ぐけどそれでもどうなるか分からない!!」



「ん? ん? ん? よく分からぬが緊急事態のようだな。まぁ主様がやれと言うのならばやってやろうではないか!!」



 そう言ってカヤは魔法の結界を展開してくれた。横を並走しているレンディアに抱えられたウェンディスも同じように結界を張ってくれている……のだが、




「ぷーくすくす、カヤさんってその程度の力しか出せないんですかぁ。魔王だっていうのに大したことないんですねー」



「何だと!?」



「ほらほら~、私の張った結界の方が強度も大きさも上なのが分かりますか? あ、そんな判断ができないくらい魔法も不得意なんでしたっけ? ごめんなさいね?」



「ば、バカにしおってぇ! わ、童だって……ふんぬぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」



 いやいや何煽ってくれちゃってんのウェンディス!? カヤと仲が悪いことは重々承知してたけどこんな時にまで喧嘩とかやめてよ! 空気読んでよ!! 僕もあまり読まないけど。


 しかし、今回はその煽りが良い方向に働いたようだ。カヤの張った結界が更に巨大なものになっていく。厚さも増しているような気がする。しかし、



「ぷすすー。ふんぬぅって気張ってもその程度なんですか~? どう見ても私の力のほうが上ですよー? もう魔王とか辞めて兄さま専用の肉奴隷になったほうが……兄さまの肉奴隷になるのは私です! 出しゃばらないでください!!」


「童は何も言っておらぬのだが!? 別に主様とそうなりたいとは……その……うん」



 どうでもいいけど僕を巻き込まないでほしい。


 そして肉奴隷は欲し……い!


 いやいや落ち着け僕。深呼吸をしろ。そうだ素数を数えるんだ。無心で素数を数えるべきだ。二、三、五、七、十一……



「何をうじうじ言ってるんですか!? カヤさんも女の子ならばハッキリ言うべきだと思います。私は言えますよ! 私は兄さま専用の肉〇器になりたいです! その為ならば全てを捧げられます!」



「ウェンディスはハッキリしすぎではないか!? というよりハッキリ言わなければならぬのは女子おなごよりもおのこの方だと思うのだが!?」



 十三、十七、十九……

 僕は無心でカヤを抱え、走り続けた。




 そして……遂にアレが来た。

 来てしまった――



「クソがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 全く懲りぬ盗人よなぁ!! 奴が大型契約に内心、心を躍らせていたというのにまた邪魔をしよるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」




 来ちゃったよ……ギルクさん(裏)が。


 今僕とレンディアはギルクさんに背を向けて全力疾走しているから声しか聞こえないけど声だけで裏モードになっちゃったことが良くわかる。



「あ、あれ? さきほどまであの男は随分まともに見えたのだが……童の気のせいか?」


「気のせいじゃないよ。それよりそろそろ来るから気を付けてね。結界、マジで緩めないでね?」


「来る? 来るってなにがだ? あ奴の怒りはさっきの盗人に向いているようなのだが?」



 まぁ見てれば分かるよ。



「今日は大型契約を結べた記念日だ!! 喜べ! 我の全力をもって祝砲代わりに貴様を彼方へと吹き飛ばしてやろうではないか!!」



「「「なぬぅ!?」」」



 目をひん剥いて僕は後ろを振り返った。そこには青白いオーラを全身から噴き出して凶悪な笑みを浮かべているギルクさん(裏)の姿があった。

 隣を見てみるとレンディアとウェンディスも目をひん剥いてギルクさんの方を見ていた。これは……ヤバイ!!




「逃げてください、兄さま! レンディアさんも超逃げてください! エンチャントスピード! ハイブースタァァ!!」



「「……がってん!!」」



 僕とレンディアは目を合わせてお互い頷くと全力疾走! ウェンディスがかけてくれたらしい魔法の補助のおかげで体がいつもよりも軽く感じられる。

 だが……油断はできない。



「カヤさんもさっきからそんな生ぬるい結界じゃ話になりませんよ!? 生き残りたければ全力で! もっとしっかりやって下さい! そんなのじゃ兄さまは任せられません」



「ぬぅっ。言わせておけばぁ! すまん、主様。少し貰うぞ?」



「おうふっ」



 何を? と聞く間すら無かった。カヤは僕に抱えられた状態から器用に体をくねらせて脱出し僕の背中へとへばりつき、




「くちゅっ……んっ……こくっ……ちゅっ」



「ちょっ、何をしてるんですかカヤさん!? うらや……じゃなくて……羨ましい! 兄さまの血を吸うなんて何を考えてるんですか!?」



 ホントになにしてるんですかカヤさんーーーーーーーーー!

 そんな唐突にチューチュー吸われても困るんですけどぉ!?


 そして吸い方がエロいんですけどーーーーーーーーー!?

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