第3章30話『強制連行!? イヤだ! 離せぇぇぇぇぇぇ!!』



「ウェンディスやレンディアはともかく僕は人間だよ? 真人間とは僕の事さ!」


「異議ありです兄さま! 私のように兄さまに尽くし続ける肉奴隷系妹こそが真の真人間に決まっています」


「ところで真人間ってなんだ? 食えんのか?」


 まったくこの二人は何を言っているのだろう? 特にウェンディス。君は間違いなく真人間じゃなくてケダモノとかそういう分類の何かだよ。

 いや……待てよ?



 ………………。



「全国のケダモノさんごめんなさい!!」


「兄さま!? いったい何を言っているのか分かりませんが凄く失礼なことを言われている気がするのですが!?」


 まったく、僕としたことがケダモノさんに失礼を働いちゃったね。

 ケダモノをウェンディス扱いするなんて……本当に僕はどうかしていたみたいだ。

 それは余りにもケダモノさんに対して失礼すぎる。


 ケダモノをウェンディス扱いするなんて……いうなればモテ男に対して『やーい、伊藤誠~』と蔑むようなものだ。

 この場合、モテ男君は悪口言った奴を惨殺しても無罪判決が出る可能性が極めて高い。

 それくらい失礼なことを僕は全国のケダモノさんに対して思考してしまったんだ。謝罪は当然すべき行いだろう。






 そんな会話の最中、


「うむ、レンディアに対してはすまぬと言っておこう。人外扱いして悪かった。貴様は村人としては異常な力を持っているだけでその精神は真っ正直な良い男なのだな」


「ん? なんだ? 褒められてんのか?」


「無論だ」


「ならありがとうだな! 褒めてくれてありがとうよ!!」



 レンディアが人外扱いから真人間扱いへと変わった!

 それで? 僕とウェンディスは?

 そんな疑問を視線に込めてカヤを見つめているとそれに気づいたのか。カヤはにっこりと笑って僕へと指を突きつけ、




「人外とまでは言わぬが少なくとも常識から外れている主様」



 おかしい。僕ほど常識のある人間は居ないはずなのに。どうやらカヤの目は節穴らしい。

 そしてカヤの指はそのままウェンディスを指さし、



「もはや人外に失礼なほどに頭がおかしいウェンディス」



「失礼な! 私ほどの真人間を捕まえて頭がおかしいってなんですか!? 不愉快です! 兄さま、まぐわいましょう!」



「その発言こそが頭がおかしい証拠だってなんでわかんないのかなぁ!?」



 カヤのウェンディスを見る目だけは節穴じゃないようだ。僕から見てもウェンディスは相当な変人に見える。



「まぁそれはともかくとしてだ。だから童はもう主様に付いていくだけだ。主様は自分の思うように動けばよい」



 そう言って綺麗に纏めようとするカヤ。でもお願いだから待ってほしい!

 何を待ってほしいかって? そんなの決まっている。



「さぁ兄さま! 今日と言う今日こそは逃がしません! さっさと武器屋へ行って身ぐるみ剥いで私と一緒になるのです! ぐへへへへへへへへ」



「離せぇ! っていうか力つよっ!? どこからそんな力湧いてくるの!? ウェンディスの筋力って確か5とかだったよね!?」


 僕の腕をガッシリと掴んでどこかへ連れて行こうとするウェンディス。付いていった先が僕にとって災いしか呼び込まない場所であることだけは間違いないだろう。


「甘いですね兄さま! これが性欲……愛の力です!!」



「今性欲って言った!? 言ったよねぇ!?」



「この際似たようなものです」



「愛という概念に土下座しろぉ!! そしてカヤ! 頼むから助けてぇ!! このままだと僕は色々と大事なものを失くしてしまう気がするんだ! 君の蒔いた種なんだからなんとかして!?」



 このままだと僕は男の尊厳だったりとりあえず形のない色々な物を失うことになるだろう。それだけは避けなければ。

 だというのに、



「すまぬ、主様。こうなるとは思わんかった。……てへ♪」



 ウィンクをしながら右拳を頭にコツンと当てるカヤ。

 かわいい!

 いいぞもっとやれ!


 ――ってそうじゃない!

 そんなのどうでもいいから早く助けてと言わなければ!

 よし、言うぞ!!



「かわいい! いいぞもっとやれ!! ってぐぬぉぉぉ!」



「くふふふふふふふふふふふふふふ。まったく今から妹と合体しようというのにいきなり浮気ですか兄さま? 大丈夫ですよ兄さま。これからは私しか見れないようにして差し上げますからね?」



 ヤバイ! 色々ヤバイ! ついつい口から思ったことが出てしまったとかそんな事を後悔する暇もないぐらいヤバイ!!

 何がやばいかって? ウェンディスが僕を引っ張る力が強くなったっていうのも勿論ヤバイのだがそれだけじゃない。



「うふふふふふふふふふふふ」


「ちょっとウェンディス!? 笑顔が怖いんだけど!? そして笑っている割には目が虚ろなんだけど!? 冗談なんだよね!? 全部冗談なんだよね!?」



 不安に押しつぶされそうな中、ウェンディスへと尋ねてみるが、



「うふふふふふふふふふふふ」



 ウェンディスは僕の質問には答えないままズルズルと僕を教会の外へと引きずっていく。その笑顔や虚ろな瞳は一切変わらないままだ。ただ、それを見て僕は確信した。

 ……あかん、これ本気や。

 つい関西弁になってしまったが詰まるところそう言う事だ。



「主よ。二人の未来に幸あれ。結婚式の準備は必要ですかな?」



「あら、気が利くんですね神父様? お願いしてもいいですか?」



「準備しておきましょう」



「ちょっと黙っててくれないかなぁこのクソ神父ぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!」



 火に油とはまさにこのことか。ただでさえ厄介な問題をさらに厄介にしやがりましたよこの神父。


「さぁ兄さま! そうと決まれば武器屋へ行きましょう! 私たちの輝かしい家庭が待っていますよ! あなた」


「気が早すぎるし僕にとってはまったく輝かしくないしツッコミどころしか無いけどとにかく助けてぇ!! ってうぉぉ!?」



 ごたごたと暴れている内に体勢を崩してしまう。教会の床へと頭からダイブしてしまいそうになるが、咄嗟とっさに腕でそれだけは防ぐ。

 それで気づいたのだが、あれほどウェンディスにガッシリ掴まれていた腕が今はフリーになっている。今だ! この瞬間に逃げるしかない! この一瞬のスキを逃すわけにはいかない!!



「あらあら兄さま。こんな所で倒れるなんて大丈夫ですか? はっ!? 分かりましたよ兄さま! 兄さまは私と一緒になるのを嫌がっている――」



 おぉ! 遂にウェンディスが僕の考えを良い方向で察してくれた! そうだよ! 僕はこんなの望んでいないんだよ! 初めてはもうちょっとロマンあふれる感じでもっと初々しくだったりそんな雰囲気が重要――



「――ように見せて私を誘っているんですね! これが”嫌よ嫌よも好きの内”というやつですか。ならば私は嫌がっているように演技なされている兄さまを無理やり襲わせていただくとします! 燃えますね♪ うふふふふふふふふふふふ」



「何も伝わってなぁい! ってうぁぁ!」


 倒れた僕の足をガッシリ両手で押さえて引きずっていくウェンディス。っていうか痛い痛い痛い! 本当にどこから出てるのその力はさぁ!? どう考えても筋力5で済んでないよ!?


 しかしこの状況は本当にまずい。


 何がまずいって、”嫌よ嫌よも好きの内”と判断された以上、僕がこれからどんな抵抗をしても『嫌よ嫌よも好きの内で済まされてしまう』ことがだ。 これは非常に……今までにないくらいに僕の貞操の危機だ!!

 なので――



「誰でもいいから助けてぇ!!」



 僕は教会に残っているレンディアとカヤに視線を向けて懇願する。神父? あれは駄目だ。更に煽る予感しかしない。

 そして結果は、



「すまぬ、主様。前にも言ったと思うが童はその状態のウェンディスには関わりたくないのだ」


「いい家庭を作れよ洒水! 結婚式には俺も呼んでくれよ?」



「薄情者ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」



 どっちか助けてくれてもいいじゃないか! この人でなしめ! 魔王! 鬼畜ぅ!!



「ほらほら兄さま。さっさと済ませますよ」



「そんなムードもへったくれもない初体験は嫌だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」



 そんな僕の叫びも空しく、僕は教会を(強制的に)出ることになった。


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