第3章27話『魔王VS神父』




 教会前で一大決心をしたり、いつものようにぐだぐだになってしまったりと……そんな僕たちだったが、ようやく教会の中へと入った。


 目的はもちろん死んでしまったレンディアの蘇生だ。


 教会の中に入ると前に訪れた時と同じように赤の絨毯が神父さんのところまで真っすぐ続いていた。そしてその神父さんも以前と同じように僕たちが入ってきた事など気づいてないかのように微動だにしない。目が合ってるはずなのにおかしいなぁ!!


 そしてこれも以前と同じなのだが相変わらず教会には信徒の姿が一人もいない。まぁ理不尽ばかりが支配してる世界なんだ。そんな世界を治めている神様の信徒の数が少ないのも当然なのかな?



「あやつが今まで多くの勇者を復活させて童にぶつけてきた人間か。死者を蘇らせるなど自然の摂理に反する真似をしよってぇ……」


 隣でカヤが怒りの為なのか、手を震わせている。まぁ気持ちはわかる。僕も前に来た時に似たような事を思ったけど、カヤは被害を被っているぶん更に腹立たしいだろう。



「………………」



 神父さんは何も言わない。当然だ。僕達と神父さんまでの距離はまだ十五メートルほどある。そしてあの神父さんはなぜか目の前に立った人としか会話をしてくれないのだからこの距離で神父さんが何かしらの反応をする訳が無い。



 しかし、ここにその事情を把握していない初見さんが一人いた。



「ぬぅぅ、童を無視するか! 魔王である童が来たのだぞ!? 怖がるにしろ挑むにしろ何かしら反応をするべきではないか!?」



「…………………………」



 何の反応もしない神父さんに対してカヤの怒りのボルテージは更に上がる。対して神父さんは何の反応もしない。


「あのー、カヤ? あれは」


「ぬぅぅぅぅぅぅ! これでもまだ無視するか小童がぁ! 良かろう! 無視できぬようにその頭蓋切り刻んでくれるわぁ! 貴様を葬れば勇者が無限に蘇り続けることも無いかもしれぬしなぁ!!」



「あれはそういう生き物だと思ったほうが良いよ? ってあらら、行っちゃったよ」



 カヤはその翼を広げて猛スピードで神父さんへと突撃を開始していた。



「兄さま、よろしいんですか?」

「おいおい、神父が居なくなったら俺も生き返れねぇじゃねえか。洒水、カヤちゃんを止めてくれよ」



「大丈夫だよ二人とも。放っておけばいつかカヤも諦めるさ。それまで僕たちは少し離れたここで待機だね。ごめんねレンディア。生き返らせるのがどんどん遅れちゃって」



 レンディアが棺桶状態になったのが昨日だから既に半日くらいが過ぎている。茶番ばかり続けて復活イベントに移れない事については本当に申し訳ないと思っている。



「まぁ構わねぇよ。別に急ぎの用事がある訳じゃねえしな」



「そう言ってもらえると助かるよ」



 そしてカヤを除いた僕たち三人は神父さんとカヤの戦い? を眺めることにした。

 まぁ前に見た神父さんのステータスなら神父さんが死ぬなんてことはあり得ないだろう。そして同時にカヤが死ぬなんてことも無いだろう。え? 言ってることが矛盾してるんじゃないかって? そんなことは無いんだよ?



「死ぬがよいわぁ! この勇者無限製造機がぁぁ!」


 もの凄い名前の機械だ。まぁ勇者を蘇らせ続けているという意味ではあながち間違いではないのかもしれない。


「む? 何事です!?」


「今更反応しても遅いわぁ! 魔王である童自慢のこの爪で冥府へと旅立つがよいわぁ!!」


「な!? 魔王ですと!? 神聖な我が協会にまで魔王の手が回ったというのですか!? ひ、ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ! しゅよ、私をお守りくださいぃぃぃぃぃ」


「そんなんで助かるのなら童は苦労しておらぬわぁ! くたばりゃぁぁぁぁぁぁ!」



 そうして怯えて祈りを捧げる神父にカヤは自慢であるらしい鋭く尖った爪の一撃を浴びせる。それに対して僕たち三人は、



「いやー、悪いねウェンディス。まさかお弁当を持ってきてくれてるとは思わなかったよ。ちょっとだけ見直した」


「当然じゃないですか。妹として兄さまの体調管理はしないといけないんですから。あ、お水もありますけど要りますか?」


「おー、気が利くねぇ。もらうよ」



 教会に備え付けられていた長机に座ってウェンディスが用意してくれていたらしい弁当を広げていた。中身は何かの肉だ。そういえば昨夜も何も食べてなかったしなぁ。今のうちに食べておこう。



「レンディアさんもどうですか?」


「お、わりぃな。じゃあ少しもらうぜ?」


 そう言ってレンディアの棺桶からお箸と皿を持ったレンディアらしき手が出てきて素早くウェンディスの弁当箱から肉を数切れ奪っていき、棺桶の中へと戻っていった。


「ん~~~、うめぇなぁ! さすが洒水の嫁だけの事はあるぜ。これはサイクロプスの肉か?」



「もう、レンディアさんったら嬉しいことを言ってくれますね!! そうですよ。これは先日狩ってきたサイクロプスのお肉です。昨日ある程度は売ってお金に変えてしまいましたけど少しだけ残しておいたんですよ~。私の分も全部差し上げましょうか?」



「ん!? いいのか!?」



「もちろんです。兄さまの嫁として兄さまの友人には礼を尽くさないといけませんしね」



「さっすがウェンディスちゃん! こんな嫁を貰って洒水は幸せ者じゃねえか」



 ほのぼのと当り前のように食事の場に加わっているレンディア(棺桶状態)。それについてのツッコミは置いておこう。だがしかし、



「さっきから何を言ってるのかなぁ二人とも! だぁれが僕の嫁だぁ!?」



 聞き捨てならない会話が展開されまくってて僕は驚きを隠せないよ!?



「何をおっしゃっているんですか兄さ……あなた!」



「何いきなり取り繕ったかのように呼び方変えてるの!?」



 と、いつものようなじゃれ合いを続けている中、カヤと神父さんの戦いはまだ続いていた。



「なんなのだ貴様はぁ!? なぜ童の攻撃が届かぬのだ!? えぇい! これでもくらえぇ! 業火の中で魂ごと焼けてしまえぇぇい!」



「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ! しゅよ、私をお守りくださいぃぃぃぃぃ」



 戦いはカヤが完全に押している。神父さん側からの攻撃は全くないようだ。そしてカヤの手から放たれた火球がまっすぐ神父へと向かっていき……消えた。



「ひ、ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」



 怖がりながら小さなロザリオを両手で握りしめる神父に火球が当たったと思ったら、まるで最初から何もなかったかのように火球は消え去ってしまったのだ。



「これも駄目なのか!? なんなのだ貴様ぁ!? いったいどうすれば死ぬのだぁ!」



「しゅ、しゅよぉ! 私を守ってくださいぃぃぃぃぃぃ! お守りくださいぃぃぃぃぃ!」



「それが神の力か何かは知らぬが貴様は十分守られておるわぁ! それ以上何を望むというのだ!? というか童を恐れる必要など無かろうがもぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」








 ……うん。やっぱりどちらも無事な状態で戦いは終わりそうだね。いつかカヤが諦めてそこで戦いが終わるだろう。

 だが、争いが起きているのは何も向こうだけではない。

 というのも――



「あのねぇレンディア!? 僕とウェンディスはただの兄弟だって昨日散々説明したよねぇ!?」



「ん? そうだったか? すまねぇ、忘れた。なんだぁ!? 俺が一日経ったらなんでも忘れちまう鳥頭だってのかぁ!? ぶっ飛ばすぞ!?」



「今回はその通りだって言わせてもらうよ!? 実際昨日あんなに説明したのに忘れてるじゃないか! あれだけ説明されれば鳥だって覚えると思うよ!」



「んだとぉ!? やんのかこのシスコン野郎がぁ!!」


「そんな状態(棺桶状態)で威勢がいいじゃないか! やれるもんならやってみなよこの筋肉頭ぁ!!」



 こちらでも争い(口喧嘩)が勃発したのだ。



「ふぅ、お茶が美味しいですね~」



 そんなカオスな光景をウェンディスは自らが入れたお茶に舌鼓を打ちながら眺めていた。


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