第3章26話『イマイチ締まらない。何故だ!!』
「う、うーん。あれ、ここは」
いつの間にか眠っていたようだ。僕は瞳を開けて体を起こす。
目が覚めた場所は教会の前だった。寝てからどれくらいの時間が経ったのかは分からないが辺りはもう明るかった。どうやら日をまたいで朝になってしまったらしい。とにかく起きようと僕は体を起こし、
「ようやく起きたようだな。ま、まぁその……ゆ、昨夜はお愉しみだったようだな。ぬ、ぬししゃま」
そしてそんな僕の目の前にはなぜか顔を真っ赤にしているカヤが居た。
「ん、ん~~~。なんだか眠った感じがしないなぁ。というかなんでカヤはそんなに動揺してるの? 顔も真っ赤だよ?」
「べ、別になんでもないのだぞ!? わ、童だってやろうと思えば出来るのだし……つ、次は童の番だぞ主様! 今宵を楽しみにするがよいわぁ!」
「へ? う、うん。まぁ分かった」
今宵って今日の夜って事だよね? なんだろう。仲間になった記念のパーティーでも開いてくれるのだろうか。だったら、
「楽しみにしてるね」
「ひゃ、ひゃい」
顔を真っ赤にしてカヤがたどたどしく頷く。一体どんな催し物をしてくれるのだろうか? まぁ口を出すのも無粋だろうし楽しみにしておこう。
「おーい、洒水も状態異常から解けたようだし行こうぜ? 俺もそろそろ自分の足で歩きてぇよ」
振り返ればそこにはレンディア(棺桶状態)とその棺桶を引くウェンディスの姿が。ん? ウェンディス?
「あぁ! 思い出した! ごめん、ちょっと僕黒幕探し出してぶっ飛ばしてくる!」
「待ってください兄さま」
「待つのだ主様」
その場を離れようとする僕だったが、カヤとウェンディスの二人に引き留められてしまう。
「少しは冷静に考えてください兄さま。敵がどこにいるかも分からないんですよ?」
「そうだぞ主様。童もウェンディスの見解を聞いて腸が煮えくり返りそうな程腹が立ったが冷静になるのだ」
「ぐっぬぅ」
言われてみればその通りかもしれない。というか僕よりも酷い目に遭わされているカヤにそう言われたら落ち着かないわけにはいかない。この件で一番つらい思いをしているのは間違いなくカヤなのだから。
「それじゃあ僕はどうすればいいの? カヤを救う為にも何かしないといけないんじゃないの?」
「主様……」
カヤはさっきからどうしたのだろうか? 顔が赤くなったと思ったら今度は瞳を潤ませて今にも泣きそうだ。僕が眠っている間に何かあったのかな?
「……こほん、そんなに焦る必要はありませんよ兄さま。カヤさんの話を忘れましたか? 兄さまはただしたいことをしていればいいんです。もちろん勇者さんがカヤさんを襲ってきたら守るくらいの事はしないといけませんけどそれ以外は自由です」
それはいくらなんでも受け身すぎやしないだろうか?
そんな僕の表情を読んだのか。ウェンディスは「いいですか?」と前置きをして、
「カヤさんも言っていたでしょう? 兄さまは何かしら特別な存在なんです。兄さまが余所の世界から来たっていうのが関係しているのかもしれませんけれど、それは置いておきます」
「いやいや、ちょっと待って!? そんな簡単に流さないで!? それって一応秘密にしておくって話じゃなかったっけ? みんなもいきなりの情報で驚いて……いない!?」
いや、レンディアに関しては棺桶状態だから驚いてるのかどうか分からないけど。
「ああ、そこら辺の話は兄さまが気絶している間に説明しておきました。出来る妹でしょう? 孕ませてくれてもいいんですよ?」
「ほめてくれてもいいんだよ? みたいなノリでおっそろしい事言わないでくれるかなぁウェンディス! それにどっちにしろ褒めないよ! なんでそういう一大イベントを僕がいない間に済ませちゃうかなぁ!!」
一応今まで秘密にしていた重要案件だよ!?
「はぁ、まぁいいや。それでその話を聞いたレンディアとカヤはどう思ったの?」
「「ふーん。と思った(ぞ)」」
「軽っ!?」
そんな三文字で済ませなくてもいいんじゃないかなぁ!?
「童にとって主様は主様だ。主様がどこの誰であっても関係ない」
「カヤ……」
「主様の存在があったから童は希望を得ることが出来たのだ。今更主様が他の世界の人間であったとしても童は驚かぬ。むしろ主様はやはり特別な存在なのだなと思えて嬉しかったぞ。今回の世界こそは童は死なないで済むのではないかと希望を持てた」
そう言ってカヤは僕へと手を差し出し、
「主様……童に力をかしてくれるか?」
ああ、そんな真摯な態度で来られたらその手を取るしかないじゃないか。
「もちろんさ!」
ガシッとカヤの手を取る。カヤの閉ざされていた人生のループを僕が打ち破って見せる! これから僕たちの物語は始まるんだ!!
「俺にとっても関係ねぇぜ」
「レンディア……」
レンディアにとっても僕が本当の洒水だろうが何だろうが関係ないという事だろうか? この短い時間の中でそこまで僕の事を見極めてくれていたのだろうか?
この世界に元々居た洒水はどこかへ行って、その存在に上書きされるように僕が召喚された。その僕をレンディアは許せるんだろうか?
レンディア(棺桶状態)をジッと見つめ、次の言葉を待つ。そして、
「なんせ話が難しくてよく分からなかったからな!」
「「「…………」」」
訪れる沈黙。僕はゆっくりと息を吸い込んで、
「さっきまでの感動的な雰囲気を返せぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
最後はやはりいつものように締まらない感じで終わってしまった。
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