第3章16話『レンディアとのバト……ル?』


 戦いは始まった。

 巨大な斧を振り回しながら向かってくる巨漢・レンディア。

 この村ではそこそこ強い部類に入る男だそうだ。


 対するはこの世界の魔王様(カヤ)とあらゆる魔法を使いこなす村娘・ウェンディスとやる気のない僕だ。



 え? なに? やる気を出せって? ……無理に決まってるでしょ。むしろ誰か交代してくれるのなら交代してよ。喜んで代わってあげるからさ。



「行くぞぉ!! さぁ洒水! おめぇの力をみせてみろやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」



 レンディアは斧を振り回しながら僕へと向かってくる。いや、もう帰っていいかな?

 っていうかレンディアさん。

 さっき剣を交えれば相手の事が理解できるみたいなこと言ってたよね?


 でも……それ、剣を交える気がないよね?

 斧をぶんぶん振り回してさぁ……剣を交える気ゼロだよね?

 交えるどころか相手の剣を一方的にたたき折る気満々だよね?



「はぁ……。なんでこんなことに……」


 しかし、ここでむざむざと殺されるわけにはいかない。村人は死んでも生き返ることができるらしいが、異世界から召喚された僕にまでそのルールが適用されているかはまだ分かっていない。


 しかし、相手を殺すというのも正直ためらわれる。しかも相手は何も悪くない村人のレンディアなのだ。そもそも戦うこと自体がおかしいんだけどさ……。


 一応、僕もこの世界で人を手にかけたことは……まぁ、ある。しかし、あの時は相手(ウェンディス)が死んでしまうだなんてこれっぽっちも思っていなかったし、事故のようなものだ。あれで殺人に対する覚悟なんて固まるわけもない。



 しかし、今回は違う。レンディアと戦い、殺すということは事故でも何でもない。僕が選択し、行動して起こす結果。すなわち事故などではなく、すべて僕が選択して行うことだ。たとえ相手が生き返るとしても殺人という行為はやはりためらわれる。



「でも……ここでやられるわけにはいかないんだ!!」



 と言ってもレンディアを殺すのは最終手段だ。幸いこっちは三人だしレンディアを殺さずに無力化することも出来なくはないだろう。



「頼りにしてるよ! ウェンディス、カヤ! サポートよろしく!!」



 そうして僕はレンディアへと一歩を踏み出し、




「紅蓮の炎に包まれし災厄よ、兄さまの行く手を阻む愚かな者に裁きを与えよ。肉片の一遍も残さずに焼き尽くしなさい! ジャッジメント(炎巨人の裁き)!! あ、危ないですよ? 兄様」



「カオスの海より来たれ、混沌よ。主様の敵をその暗黒の魔手にて食らいつくすがよい! デビルズハンド(悪魔の魔手)! ……主様? そこ危ないぞ?」




「え?」



 ウェンディスとカヤからの警告に後ろを振り返る。

 そして振り返った先には今まさに構築されていく炎の巨人の姿があった。


「なんぞこれえええぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」


「ぐううおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」



 言ってる間に炎の巨人はその姿をはっきりさせたものにしていく。全長五メートルほどあるまさに巨人と呼ぶのにふさわしい大きさ。全身を炎を纏わせ、巨人は雄たけびを上げる。



「ぐがあがああああああああぁぁぁぁぁぁ!!」



 そして、巨人はレンディアへ……ついでにその中間ににいる僕のほうへと走ってきた。



「あぶなーーーーーーーーーーっ!!」



 僕は全力の横っ飛びで巨人の進行方向から外れることに成功した。その直後に巨人はついさっきまで僕が居た位置を通り過ぎていく。


 巨人が通り過ぎた場所は悲惨なことになっていた。岩すらもその高温によって溶かされていたのだ。あんなのに触れられていたらどうなっていたのだろうと思わずぶるってしまう。



 ふぅ、ともあれ危機は去った。後はレンディアがどう対処するのかを見ることにしようかな。



「ん?」



 そうしてレンディアの元へと走っていく炎の巨人、そしてそれに対して斧を構えて迎え撃つレンディアに違和感を覚える。いや、なんでレンディアはそんなに冷静でいられるの? みたいな違和感もあるけれど、それとはまた違う違和感だ。何かそれ以外にも変わったところがあるような……。さっきよりも炎の巨人が明るく見えるような……。


「いや、違う。巨人が明るくなってるんじゃない。いきなり周りが暗くなってるんだ!」


 気づけば空は暗雲に包まれていた。いや、既に紫色のどんよりとした雲に覆われていたんだけど、そういうのじゃなくてもっとどす黒い雲に覆われていたのだ。

 そうして雲の隙間から何か黒い手のような物が現れる。

 その手は次第に伸びていき、伸びていくと同時にそれが手だというのがハッキリと分かるようになる。まさしく”悪魔の手”。そしてその醜悪な悪魔の手は対象へとゆっくり迫っていく。


 そう――――――僕のほうへと。



「なんでだあああああああああああああああああ!!」



 幸いゆっくりだったので避けるのは簡単だったが驚きを隠せない。なにこれ!? これ多分カヤの魔法だよね!? 僕が何か悪いことでもしたのか!?



「すまぬ、主様。ちょいと制御が甘かったようだ」



「すまぬで済むかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! えぇい! 突き刺すものよ! 今こそ我が意に従いその姿を現せぇい!」



 もういい! こんなよくわからない手。ぶった切ってやる!!

 僕は”フロッティ”の力を開放し、


「とっとと消えろぉぉぉぉぉぉぉぉ!」



 僕を追う黒の魔手をぶっ刺し、雲の隙間から伸びる手の根元を切断した。

 すると、音もなく黒の魔手はその姿を薄れさせていき、やがて消えた。それと同時にどす黒い雲も霧散し、元の紫色のどんよりした雲が戻った。



「はぁ、はぁ、なんでこんなに疲れないといけないんだ……」



 ただの仲間割れ? で体力を使っている気がする。何度でも言おう。……どうしてこうなった?



「うっぐぅ……。さ、さすがは主様。見事だ」


「さすがじゃないよ……。あんなヘンテコな魔法を使わないでよカヤ……ってえええええぇぇぇぇぇぇ!?」



 愚痴を言いながらカヤの方を振り返ったらそこには壮絶な光景があった。

 カヤの左手が血まみれのグロテスクな感じへと仕上がっていたのだ。

 手のひらは何かに突き刺されたように血に濡れていて、右手で左肩を抑えている。もしかしたらそれ以外の場所も傷ついているのかもしれない。



「どうしたのそれ!? すごいことになってるけど大丈夫!?」



「な、なぁに。多少堪えるが大丈夫だ。しかし、さすが主様よな。童の悪魔の魔手(デビルズハンド)を容易く切り伏せるとは。さすがは童の救世主だ」



「こっちからしたら突っ込みどころ満載の展開だったけどね……ん? もしかしてその事とカヤが今ケガをしているのは関係があったりするの?」



「むぅ。もしやと思ったが知らないようだな主様。魔法というものはその結果を術者へと帰してしまう物もあるのだ。有用な魔法ほどその特性が強いのだがな。例えば童が魔法で敵を殲滅せんめつした場合、その経験は童の物として還元される。しかし、良いことばかりではないのだ。その魔法が外的要因によって破壊された場合、その破壊は術者へと帰ってしまうのだ。さきほど主様は童の悪魔の魔手(デビルズハンド)を斬っただろう? その結果が術者である童の左腕へと反映されたのだ」

 

 初耳である。どこの呪い返しなんですかねそれは?



「いや、そうとは知らずにごめん。カヤ」


「いや、制御を誤った童が悪いのだ。主様に怪我がなくて良かった」


 ふっとカヤがほほ笑む。やばい。どうしようもない変人魔王だと思っていたのに、こういう所で胸が高鳴るような事を言うのは反則だと思う。


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