第3章15話『どうしてこうなった?』



 もはや泣きわめくどころか自棄ヤケになって殺せとまで言い出すカヤ。いったい彼女はどんな闇を抱えているのだろうか?



「あーごめんごめんカヤ。いや、僕も色々と言い過ぎた。だから落ち着こう。ね?」



「落ち着く? そうだ。落ち着くのだ私。今回のチャンスを逃してはならんのだ。つまりどんな手を使ってでも主様の力を借りなければならん。主様のお役に立って力を貸してもらうという童の計画が潰えてしまったのならば次を考えるべき。次は……」



 ふぅ、少しは落ち着いてくれたようだ。しかし、考え事をするなら僕の聞いていないところでやるべきじゃないのかな? しかも僕の事で色々悩んでるっぽいし。全部丸聞こえだよ? それに力を貸してと言われたら普通に貸すよ? いや、世界を滅ぼす手助けをしろみたいな悪魔的な行為には手を貸さないけどさ。


 まぁ、最終的にどんな結論を出すのか少し聞いてみたい気もするので黙ってみておこう。



「童が主様の為にできることが今後出てくるか? しかし、童の出来る事といえば魔王としての力で外敵を滅する事のみ……そんなものこの村で役に立つのか? 下手をしたら童より強い者が沢山いるのだぞ? え? 童が主様に出来る事……無いのでは?

 ……ならば童が主様の為に出来ることはなんなのだ? 脅迫? 無理だ。主様とその妹が相手になるだけで童の即死コースだ。情に訴える? むぅ、確実では無いな。もっと確かな安心が欲しい。金銭? 魔王としてそんなもの必要なかったから童は金なんぞ持っておらん。童が主様にできる事……童自身を差し出す? 主様もまだまだ若き青少年。激しい性の衝動を抱えているはず……これだ!!!」



「これだ!!! じゃなあああああああああああああああああああああい!!!」


 黙って聞いていたらなんでそんな方向に行くのかなぁこの魔王様はぁ!? というか全員か!? この異世界で僕にまとわりつく女性陣は全員こういう残念な思考に走らなければならないみたいなルールでもあるの!? そんなルールさっさと滅んでしまえ!!



「ふふっ。何を騒いでおるのだ主様? さっきのデュラハンの鎧の件は悪かった。お詫びと言ってはなんなのだがな。ほれ、主様。あちらの岩陰へと行こうではないか」



「行くわけないでしょ!? っていうかアオカン!? いきなり外でいたすつもりなの!? もうちょっとカヤは常識人だと思ってたのにがっかりだよ!!」


 村人のチートっぷりにあれほど素直に驚いていたカヤはどこに行ったの!? 親近感が湧くなぁとか思っていたのに……いきなり親近感さんが行方不明だよ!?



「(ズザザァッ)兄さま!! 私を呼ばれましたか!?」



「ウェンディス!? いや、呼んでないよ!? 今ウェンディスの事なんて話題にすら上がってないよ!?」


 頭のおかしい人が増えたぁ!! これ以上は許容量をオーバーしてるんだからね!? いや、増えなくてもすでに許容量をオーバーしていた気がするけどさぁ!



「あら? おかしいですね? 今確かに兄様が卑猥な言葉で私を呼んだような気がしたんですが……」



 理解できない……! ウェンディスの言ってることが頭からケツまで何も理解できない……!



「あーーー、忙しそうだし俺はもう帰っていいか?」



「(ガシッ)待ってくれレンディア! この状況で僕を置いていくなんて酷いんじゃないかな!? 親友でしょ!? 親友なら色々と助けてくれてもいいと思うんだ!!」



 この精に飢えた二人の前に男の僕が置いて行かれるという状況はとてもヤバイ。

 何がやばいかって? 僕の貞操の危機とかも少しはあるかもしれないが、そうじゃない。僕はふざげた呪いによって武器屋に行かないと服の一枚すらも脱げない。だからそれはあまり気にする問題じゃない。


 問題は……このまま正直者のレンディアを村に帰したらますます僕の評判が悪くなるということだ!!

 ただでさえ妹相手に欲情する変態兄貴という評判なのだ。ここでレンディアを帰せば妹相手にハッスルした挙句、他の女。しかも見た目がウェンディスと同じくらい幼いいたいけな女の子とお外でいたしたクズ野郎といわれるだろう。噂に尾ひれがついてもっとひどいものになる可能性も十分ある。



 それだけは避けなければ!!



「なんだよ洒水? 今からヤるんだろ? 俺は邪魔だろ?」


「全然邪魔じゃないよ!? むしろ居てくださいお願いします!!」


「はぁ? なんでだ?」



 この状況で男一人で取り残されたくないからだが、さて、なんと説明したものか。



「レンディアさん。つまり兄様はこうおっしゃっているんですよ。一緒にヤりましょう! と。ですよね? 兄様」


 ええええええええええええええええええええ!!??

 何言ってくれてやがりますのんこの年中発情中の駄目妹はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?



「……じゃ、俺は帰るわ」



「ホンットウに待ってレンディア!!」



 そうだよね! レンディアは相手の言葉をそのまま信じるからウェンディスのいうことを信じちゃうよね! でも違うんだ! この変態が言うことは全て出まかせなんだぁ!!


 村へと去ろうとするレンディアの肩へと手をかける。




「やめろぉ!! 変態がうつる! この俺に触るなぁ!!(ブゥン)」



「そこまで言う!? ってうぉぉぉ!?」



 レンディアは振り返りざまにその巨大な斧を振り回してきた。殺す気!? 僕を殺す気なの!?



「俺は……俺はそんな不誠実な真似なんてできない! どうしても俺をこの場に留めたいんだったら……この俺を倒して力づくで言うことを聞かせな!!」



 村人:レンディアと戦闘になりました。



「なんでだあああああああああああああああ!?」



 なんで村人であるレンディアと戦う羽目になっているの!? 村人同士が争うってなんだよ! しかも武器まで持ち出して完全に殺しあう空気がありありだよ!!



「兄さま、残念ですがこの場は戦うしかなさそうです。この戦いが終わったら私はあなたの物になります」



「こんな状況になるまで場をぐっちゃぐっちゃにかき回した張本人が何言ってんの!? しかもそれ死亡フラグだしウェンディスだけが得してるだけだし突っ込みどころが多すぎるんだけど!?」



 ウェンディスが居なければこんなカオスな状態になることもなかっただろう。



「主様、諦めるのだ。確かに争いとは醜く、空しいものだ。だが、それを経てしか分かり合えない想いというものがある。今は戦うべき時なのだ!!」



「それセリフだけ聞いてると良いこと言ってるように聞こえるけどなんか違うからね!? 本来分かり合える関係だったのに君たちが場をぐちゃぐちゃにかき回しただけだからね!?」



 セリフだけ聞くとどこぞの主人公が言っていそうな言葉だが、絶対に今の場面に使うのは間違っていると思う。



「ウェンディスちゃんも魔王もいい事言うなぁ。そうだな、剣を交えれば頭の悪い俺でもお前らの事が理解できるかもしれねぇな。よし、それじゃあ三人一気にかかってきな!!」



「誰かまともな奴はこの場に居ないのかああああああああああああああああああ!?」



 ちくしょう!! 全員頭のネジが一本どころか数百本くらい抜けてるんじゃないの!? この状況に違和感しか覚えないのは僕だけなのか!? 僕がおかしいのか!? カヤもこの世界が大嫌いって言ってたけど僕もこんな世界嫌いだよ!! 常識というものがどっかに封印されちゃってるよ!!



「「「行くぞぉ(行きます)!!」」」



 こうしてウェンディス&魔王カヤ洒水対レンディアの戦いは始まった。


 …………どうしてこうなった?

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