第3章12話『魔王様は納得できない』
「こんな……こんなもの……想定できるわけがなかろうがーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
僕とウェンディスがカヤに追いつこうという時、カヤがどこかを見つめて大声を上げていた。
カヤの視線を追ってそちらを見るとそこには、
「おーーー、
レンディアがその巨大な斧を振るって黒い鎧を身に着けた者たちを相手にしていた。そのどれもにあるべき物が無い。そう、首から上が存在しないのだ。
あれは――
「デュラハンってやつかー」
首なしの騎士。ゲームにも出てきたなぁ。
「兄さま! 何をゆっくりしているんですか!? 戦利品ゲットのチャンスですよ!? 残り数体だけでもこちらで頂いちゃいましょう!!」
「へ? 戦利品?」
「いやいやお主ら!? 何を平然としているのだ!? もしやこれが普通の光景なのか? 村人が魔物を相手に大立ち回りしているこの光景が貴様らにとって普通の光景だとでもいうのか!?」
「「そうだけど(そうですが)?」」
「絶対におかしいであろうが!」
ふーむ、すごいデジャヴュを感じる。まるで少し前の僕のようだ。
まぁでも……その気持ちは分かるよ、魔王カヤ。
多分、君は正しい。
間違っているのはこの状況の方だってことも分かってる。
でもね、もう慣れるというか諦めるというか……。
とにかくそういう境地にいかないとこの村ではやっていけないような気がするんだ。だから僕はもう考えるのを基本やめた。
「何を驚いてるんですかカヤさん? いいですか? あそこに群れているのはデュラハンという弱小モンスターです。正直子供でも倒せるくらい弱いのですよ? この村でそこそこ強いレンディアさんが遅れをとるわけがないじゃないですか」
子供でも倒せるはさすがに言い過ぎ……でもないのかぁ。この村の子供なら確かに笑顔でデュラハンだって駆逐してしまいそうだ。
「”そこそこ”!? おい娘よ!? 今貴様”そこそこ”と言ったか!? つまりあの男より強い存在がこの村にはまだ居るというのか!?」
居るんだよなぁ……。
「? そんなに驚く事ですか? そうですねぇ、私の知る限りレンディアさんと戦って勝てるのはいち、に、さん、よん、ご……」
「もうよいわぁ! 聞きたくなぁい!!」
ウェンディスが指を立てながら数える数が五を超えたあたりでカヤが悲鳴を上げる。いやぁ、自分以外の人がこういう反応してるとなんだか逆に落ち着いてきちゃうね。魔王カヤ様に感謝感謝だ。
「話を戻しますね? つまり……子供でも倒せそうなほど弱いデュラハンは狩るのに最適なんです」
「おい娘ぇ!? デュラハンはそんなに弱い魔物ではないはずというか強い部類に入っていたはずだぞ!?」
おぉ、魔王であるカヤ様から反論が来たぞ。
魔物の事ならば魔王の方が詳しいだろう。
そんな魔王様が言うなら、やはりデュラハンという魔物は僕の想像通りそこそこ強いんじゃないかな?
「え? そうでしたっけ? でも……あれ以上に弱い魔物なんて居ましたっけ?」
「一番弱い魔物であればゴブリンなどがおるではないか!? まぁあれでも子供が勝てるほど弱くはなかったはずだがな!?」
ほぅ、この世界にもゴブリンは居るのか。確かにデュラハンなんかよりよっぽど弱いイメージがある。最初の街の周辺とかに居そうだ。
「ゴブリン? そんな魔物居ましたっけ?」
え? 居ないの? 居るの? どっち?
「いるに決まってるであろうが! ……いや、待てよ? あぁ、そうか。おい娘よ。貴様はこの大陸、ニヴルヘイムから外に出たことはあるか?」
「いえ、一度もありませんよ?」
「……あぁ、なるほど。
カヤがなんだかすべてを諦めきったような暗い笑みを浮かべている。なんだか目から光が消えているような気がするけど、気のせいじゃないだろう。
まぁ、魔王としては絶望的状況だよね。ただの村人がここまで強い世界の魔王なんて外れくじもいいとこだ。滅ぼされる三秒前って気分になるのも当然だろう。
しかし、そうかぁ……。
やっぱりデュラハンって結構強いんだなぁ……。
それが一番弱い扱いされてる村……。やっぱりここ召喚時のスタート地点としておかしいよね? 僕、なんでここに召喚されたの? チュートリアルさんはいずこへって感じだよちくしょうっ!
「話を戻しますよ? デュラハンは弱いです。なので簡単に倒せるんですよ! 狩らない手はないです! お金も手に入りますし今の私と兄さまにはうってつけの相手なんです!」
「え? お金が手に入るの? それは倒したらデュラハンがお金を落とす的なあれ?」
ゲームとかでは魔物を倒すとお金が手に入った。さっきのサイクロプスはお金なんて落とさなかったがデュラハンは落とすんだろうか? まさかデュラハンまで食用として売ったりするわけじゃ無いだろうし。そもそもデュラハンって中身あるのか怪しいし、あったとしても腐ってる気しかしない。
「はぁ……。デュラハンがお金を落とすなんてそんな素敵な事があるわけがないじゃないですか兄さま? 寝ぼけたことを言ってると犯しますよ?」
「女の君が言うセリフじゃないよねぇ!?」
なかなか新しい脅迫方法だ。しかもその相手が兄である僕だというのだから怖くて仕方がない。ハハ、体が震えているよ。武者震いって奴なのかもね!
「デュラハンの着ているあの鎧……結構高く売れるんですよ! 狩らない手はないです! ちなみに村での決まりでデュラハンを相手にしたときは倒した人がそのデュラハンの鎧を売っていい事になっています」
「へー、なるほど。つまり」
この村ではデュラハン(弱者)を殺して身ぐるみを剥いでいる訳だ。
目の前でレンディアが相手しているデュラハンがなんだか哀れな動物にしか見えなくなってきた。魔物って確か人間に害を為す悪者……だよね???
もうなんかこの世界の魔物が僕の世界で言う動物にしか見えなくなってきたよ。食用になったり身ぐるみはがされたりする辺りが似てるしさ……。
「……主様はお金が欲しいのか?」
「へ? そりゃもちろん欲しいけど?」
お金は大事だ。それは僕の世界でも、この世界でも共通なはず。
カヤの質問に最早条件反射のように答えた僕だったが、
「ほらほら兄さま! 早く行きますよ! そうしないと獲物を全部レンディアさんに取られてしまいます!!」
「ああ、うん」
背中を押してくるウェンディスによってカヤがなんで僕にお金が欲しいかと聞いてきたのか、その真意を聞けなかった。まぁいいか。あとで聞こう。
「……つまり、童がデュラハンを倒せば主様は喜んでくれる?」
そうして僕はレンディアが戦っている所へと向かう。
その後ろでカヤが漆黒の翼を広げようとしているのも気づかずに……
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