第3章11話『魔王カヤ』


 魔王カヤ視点




 魔王カヤはこれまでの人生において適当に扱われたことなど無い。

 村人に会えば畏怖いふされ、冒険者のような人類の平和の為に戦うと叫んでいる輩はカヤを最初から敵対視していた。


 正直な話、カヤは勘弁してほしかった。そもそもの話、自分が何をしたというのか。


 始まりがいつだったかは記憶にない。

 本当に長い時を生きているし記憶力は良い方だと自負しているのだが、始まりがいつだったかはもう覚えていない。気づいた時には魔王城に居て、気づいた時には魔王などという役割を押し付けられていたのだ。


 とんだ貧乏くじだ。カヤはそう思う。

 自分を狙う者たちは無限コンティニューが可能で何度でもこの身を襲ってくる。

 村人に友好的に接しようとしてもなぜか怖がられてしまう。

 何度も何度もその繰り返し。ゆえにもうカヤは諦めていた。ただただ自分を襲う敵をほふり、魔王城でふんぞり返る。そういうシステムへと自らを押し込んだ。





 そんなシステムに変化が起きた。

 今まで自分を傷つける者は魔王城へと土足で入り込み、名乗りを上げて自身へと挑んできていた。


 しかし、その日は違ったのだ。

 なんと魔王城から遠く離れた地から自身へと傷を負わせたのだ。

 無論、怒りはあった。自分の住む住居に穴を開けてくれた上にこの身へと傷を負わせたのだ。別に傷つけられるのが好きなわけでは無いし怒るのは当たり前だ。


 しかし、それ以上に今までに無い出来事に期待を抱いた。今までにない出来事。即ち未知。諦めていたシステムに希望という想いが宿る。


 カヤはシステムである事を放棄し魔王城から出て、自らを傷つけた存在を探した。その存在は思っていたよりもずっと早く見つかった。


 男は村人のようであるのに自分を全く恐れていなかった。

 変な村人と口では言ったが自分の心の中はそれはもう歓喜に満ちていた。

 初めて自分を恐れずに会話をしてくれる村人。その村人の連れている娘は自分の事を怖がっていたが、やがてその娘も自分に対して恐怖することは無くなった。


 ……まぁその娘の自分に対する扱いがあまりにも酷いのではないだろうか? などとも思うのだがそれはまぁ置いておこう。



 あの変な村人……ぬし様の影響であの娘は自分への恐怖を消し去れたのだと思われる。最初に会った娘の反応はそれこそ今まで会ってきた村人と何も変わらなかったのだ。今までと違う点は主様というイレギュラーしか無い。


 ――主様に自分の抱えている全てを打ち明けたい。

 しかし、自分の抱えている物を信じてもらえるとは思えない。自分でもよく分かっていないのだ。相手に納得できるように説明するなんて土台無理な話だ。

 ならばどうするか。そんなときに鉄と鉄。剣と剣がぶつかり合うような音が聞こえてきた。

 長い経験の中で培ってきた知識がこれは間違いなく戦闘の音だと自分に判断させる。

 ぬし様と娘にその事を告げるが全く慌てる様子がなかった。

 何故? という疑問も浮かんだが、同時に主様に自分の存在を好ましく思ってもらえる好機とも思った。

 主様も村人だ。同じ村の者――親友や親類を助けられればその相手に感謝の意を示してくれるのではないか? そういう計算が自分の中にはあった。だから……だから――



「だからわらわは急いで来たのだが……なんだ……なんなのだこれは……!」



 自分の考えが間違っていたとは思わない。見返りが欲しいから助けるなんて浅ましいと思えてしまうが、事態はそう言っていられる次元をとうに超えている。

 だからこそ自分の選択は正しかったはず……なのだが



「こんな……こんなもの……想定できるわけがなかろうがーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」




 自分の目の前に広がる光景……それは多くのデュラハン相手に一歩も引かない――どころか優勢の村人風の男が斧を振り回している姿だった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る