第3章13話『広まる誤解 冤罪だぁ!!』
レンディアの戦っている辺りには既にデュラハンの鎧が散らばっていた。軽く見た感じ中身はカラのようだ。元から何も無かったのか、もしくは倒したと同時に中身が消えたのかはデュラハンのみぞ知るっていう奴だ。
「そこまでだよレンディア! 残りは僕が貰うよ! そう、お金の為に!!」
自分で言っておいてなんだがなんていう即物的で最低なセリフだろう。とても勇者を目指す男のセリフとは思えない。
それに対しレンディアは――
「ひ、ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」
「え!? なんで!?」
僕の方を見るなりレンディアは腰を抜かして怯えるかのように地面を後ずさりしていた。
巨漢であるレンディアにはとても似合わない格好だ。
でも、なんでそんなに怯えてるの?
「なんだ? 主様は他の村人に恐れられるような付き合い方をしていたのか?」
振り返るとそこにはカヤが漆黒の翼を全開で広げ、その鋭い爪を舌なめずりしながらこちらへと向かってきていた。
……あー、なるほど。理解したよ。
「童が言うのもなんだが主様よ。同族とはもっと仲良くするべきだと思うぞ? そもそも人間関係というのは
「ま、ま、ま、魔王がなんでこんなところに!? も、もう終わりだぁ!? この村はもう終わりだぁ!? ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」
「「「………………………………」」」
「で、魔王様? 人間関係云々言ってたけど、まだ何か僕に言うことはある?」
「……偉そうに色々言ってすまんかった……」
うん、わかってもらえて何よりだ。
「落ち着いてくださいレンディアさん! 私も最初は魔王を恐れてしまいましたけどなんてことはありません! あれはただの弄られキャラです! 恐れる必要なんて何もありません!」
「おい娘ぇ!? 貴様は童をそんな風に見ておったのか!?」
まぁ否定はできないとだけ心の中で言っておこう。
「な、何を言ってるんだよぉウェンディス。俺らみたいな無力な村人が魔王に太刀打ちできるわけないだろぉ? もうダメだぁ……この村は今日この日滅びるんだぁ……」
と、さっきまで斧をぶん回して並みいるデュラハンを一掃していたレンディアは言う。
この瞬間、僕と魔王様の気持ちが一つになるのを感じた。
僕らは腹に力を溜め――
「「嘘をつくなぁ!?」」
全力でツッコんだ。
「前も言ったけどさぁレンディア!! か弱い村人はドラゴンを一方的に虐殺したりデュラハンの群れを一人で圧倒なんて出来ないんだよ!? か弱いの意味わかってる!?」
「主様の言う通りだ! か弱き者がデュラハンの群れを圧倒出来るわけがなかろう!? そもそも童を恐れる必要なそ貴様にはないのだ! それにこの村が終わりだとぉ!? 冗談を言うでないわぁ! 貴様より強い者がうじゃうじゃいるというこの村を童が滅ぼせるわけがなかろうが! なんだ? 童は神か何かか!? そうでもなければこの村を滅ぼすことなど無理だぞ!?」
おっと、それには同意できない。
「カヤ」
「む? なんだ主様。何か言いたそうな顔をしておるな。童が言った事、何か間違っておるか? まさか主様、童であればこの村を滅ぼせるなどと思っているのではあるまいな? 無理だぞ!? 主様と主様の妹の二人がかりで来られただけでおそらく童に勝つ可能性など無くなるぞ!?」
いやいや、そういう事じゃなく――
「神様でもこの村を滅ぼすなんて……ぶっちゃけ無理かなぁって思うんだよ」
「そこまでなのか!? ぐぬぅ、本当に何なのだこの村は!? この村の住人はもれなく全員勇者くらい強いとでもいうのか!? ホンットウに何なのだ今回の世界はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
甘いな魔王様。少し認識が間違っている。
村人全員が勇者くらい強いのは多分合ってる。
そこも確かに由々しき問題だ。魔王様が驚くのも無理ないだろう。
ただ、更に問題なのはその中に勇者なんかおそらく比べ物にならないくらいの化け物たちが居るという事だ。
そういう化け物の
「しゃ、洒水! お前まさか魔王に寝返ったっていうのか!?」
「「「え?」」」
その場にいるレンディア以外の全員が首を傾げる。なんで? そういう話になるの?
「そんな親し気に魔王と話してるなんてそうとしか思えない! はっ! いや違う。洒水の好みは妹のウェンディスちゃんだったはず。という事は……そうかわかったぞ!! 魔王め! 洒水を操っていやがるんだな! くそう、俺の親友を……許せねえ!」
「いやいやいやいやいや待って? 本当にちょっと待って?」
なんで僕の好みがウェンディスって事になってるの? 明後日どころか一世紀くらい先の方向に話が飛んじゃうの? もう訳が分からないよ?
「レンディア? まず一つずつ聞こうか……なんで僕の好みが妹のウェンディスって事になってるの?」
外見がいいだけで中身は性の化け物だよ?
「なんでって……噂に疎い俺でも知ってるくらい村中に知れ渡ってるぜ?」
「もうおしまいだぁ!!」
ちくしょう! もう僕がこの村で誰かと結ばれることはない! 変態な妹を愛する変態兄貴として指をさされて生きていくしかないんだ!
しかしどこからそんな噂が出ているんだ!? ねつ造だ! 冤罪なんだぁ!
「レンディアさん。その件なのですが……昨日とうとう兄さまと一線をこえてしまいました《ポッ》」
「……そ、そうか。……が、頑張れよ? ウェンディスちゃん」
「はい! お腹に宿ったこの子の為にも私、頑張ります」
「……そ、そうか……。が、頑張ったんだな?」
まさに今この瞬間ねつ造が行われている!?
「お前かああああああああああああああああ!! ウェンディス!? なんでそんな根も葉も無い噂を流すの!? 何一つ真実が無いじゃないか!?」
「何を言ってるんですか兄さま! 殆どが真実ですよ!」
「どこが!?」
身に覚えが無さすぎるんだけど!?
「強いて言えば……私がよく妄想している出来事がぽろっと口から出てしまっているだけです! だから私の中では全て真実なんです!」
「僕にとっては全て真っ赤な嘘だけどねぇ!?」
自分の妄想に勝手に僕を登場させた挙句、それが真実であるかのように周りに言いふらさないでほしい。いや、ほんとに。
「ウェンディスがそんな嘘を言うせいでほらぁ!! あれを見なよ」
そうして僕が指を向けた先、そこにはレンディアが居て、
「………………」
「……なんだか兄さまを見つめているように見えますね? 羨ましいんじゃないですか? 兄弟仲良くていいなぁと思ってらっしゃるんですよ」
「いや、違うよウェンディス? あれはね、ゴミを見るような目って言うんだよ」
あのハイライトの無い目はそういう目だ。
それから数時間かけてレンディアの誤解をなんとか解いた。
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