第3章10話『妹>>>>>魔王』
僕とウェンディスを乗せた馬車(魔王カヤが馬の役)が村の外れへと到着しようという時、僕たちの耳に激しい金属音が聞こえてきた。
そう、まるで武器と武器が打ち合わされるような音。戦闘中に鳴るであろう音が聞こえてきているのだ。
「ぜぇ、ぜぇ。な、なんだ?」
魔王カヤが息を切らせながら辺りを見回す。
「何をサボっているんですか?(ピシィッ)」
「イタァッ!? い、いや、貴様らにも聞こえるであろうが!? この金属音が! 周辺の警戒をした方が良いのではないか!? ここは貴様らの村の近くであろう? もしかしたら魔物に襲われているのかもしれないではないか!?」
周辺を警戒していたカヤに対してウェンディスはサボっている奴隷を鞭打つようなノリで鞭を振るう。もはやその振る舞いは女王様だ。勿論ダメな方の女王様である。
「まぁまぁ、ウェンディス。もう村に着いたしここからは歩きでいいじゃない。……こんな場面を他の人に見られたくないし」
無論こんな場面というのは幼女(魔王カヤ)に馬車を引かせてふんぞり返っている僕ら兄弟の図だ。
「仕方ありませんねぇ。じゃあもういいですよカヤさん。それでもお疲れ様でした。とっとと豚小屋へ帰ってください」
「うむ……ってなぜだ!? 小娘! 貴様は童を何だと思っているのだ!?」
「めすぶ……豚王ですよね?」
「言いなおしてそれなのか!? 童はマ・オ・ウ!! 魔の王だぞ!? 決して豚の王などではないのだ!」
「
「うむ。ようやく分かったか。全く……最初に童に畏怖しておった小娘とは思えんな貴様」
「そんな褒められてもニンジンくらいしか出ませんよ?(ヒョイッ)」
「童は褒めてはおらんのだが……まぁニンジンは別に嫌いではない。
気づいて魔王さん!! それ贄じゃなくて
そんなしょうもないやり取りを交わしながら僕とウェンディスは馬車から降りる。
馬車から降りたウェンディスは軽く腕を振って今まで出現させていた馬車をその場に崩す。さっきまで馬車だったものが次の瞬間には岩の集まりだ。
「さて、それじゃあ行こうか。武器屋……そうか……ギルクさんのとこに行くのか……」
「兄さま……本当に行くんですか……もうカヤさんに道だけ教えて行ってもらってもいいんじゃないですか……」
「いや、カヤは村人みたいに生き返れないみたいだからさすがに可哀そうかなって……。ああ、でも行きたくないなぁ。はぁ」
「「はぁ……」」
「なにゆえ貴様らは武器屋に行くだけなのにそんなに嫌そうなのだ!?」
カヤがとても不思議そうにしている。ギルクさん(裏)を見てないからそんな平然としていられるんだよ。あの危険人物第一号の近くに好んで行きたがる訳が無いじゃないか。ギルクさん(表)はすごく……本当にすごくいい人なのになぁ。
「はぁ、まぁ言いっこなしか。行こうか」
「そうですね、兄さま」
そうして僕たち3人は揃って武器屋へと向かう。
「待てい!!」
とは行かなかった。なぜかカヤが僕とウェンディスの前に回り込んでその行く手を阻む。
「ん? なに?」
「あ、兄さま! 先にサイクロプスの肉を売らなきゃいけないですよ!」
「あ、そうだった! ありがとうね、カヤ! 武器屋に行くことを考えて
元々荷台の上に積んであったサイクロプスの肉片は馬車を岩の集まりに戻したことによって岩の上に乱雑に置いてあった。
「あのままでは運びにくいですし荷台だけ作り直しますね。やぁっ!」
そんな可愛い掛け声と共にウェンディスが腕を振るうとサイクロプスの肉片が乱雑に置いてある辺りの岩が
「さて、これで問題ありませんね。それじゃあ行きましょうか兄さま。あ、カヤさん。荷物持ちよろしくお願いします」
「いや、僕が持つよ……一応男だしね」
「さすが兄さまです! あんな醜態をさらし続けたカヤさんに代わって荷物持ちをするなんて男の鏡ですね! 惚れました! 突き合いましょう!」
「ことわぁる!!」
なんか”付き合う”のニュアンスが違う気がするんだ! いや、仮に正しく付き合うだったとしても兄弟で何を言ってるの!? って話だし断るんだけどさぁ!
「残念です。それでは行きましょうか」
「そうだね(ガシッ)」
僕は荷台をひいてウェンディスとカヤと共に雑貨屋へと向かう。
「だから待ていと言うておろうが!? 誰がそんな肉の為に呼び止めるのだ!?」
またもや僕とウェンディスの前に立ちふさがって行く手を阻むカヤ。なんなの? さっきから。
「き、貴様ら……なんでそんな真顔で”本当に何なの?”みたいな顔が出来るのだ……。貴様らには聞こえぬのか!? この鳴り響く金属音が!? おそらく近くで戦闘がおこっているぞ!? もし村の誰かが魔物に襲われているとかであればすぐに駆け付けなければならぬだろう?」
「…………」
「…………」
顔を見合わせる僕とウェンディス。無言のやり取りをしてから僕たちはあるべき疑問をカヤにぶつける。
「「なんで(ですか)?」」
「何なのだ貴様らは!? もうよい! 童が見てきてやろう! もし仮に魔物に村人が襲われているのならば童が助けてやろうではないか!? その場面を見て童に後で泣いて感謝するがいいわぁ!!」
そう言ってカヤは音の鳴る方へと向かっていった。
「…………」
「…………」
当然、その場で2人きりになる僕とウェンディス。
「はぁ。仕方ない。ウェンディス、僕たちも」
「はい! そうですね! 私たちもこの音(金属音)に負けないくらいぎしぎしあんあんしましょう!!!」
「するかぁ!!」
目にもとまらぬ速さで服をその場に脱ぎ捨て全裸になったウェンディスの華麗なルパンダイブを避けながら突っ込む。まったく……ぶれないなぁウェンディスは!!
「何故です兄さま! 今日はこの通りほら!」
ウェンディスが憤慨した様子で自身の足を指さす。
「黒のニーソックスを履いているのですよ!? 何が不満なのですか!?」
「んーーーーナイス!!!」
兄の要望をきちんと叶えてくれるとはなんて出来た妹なんだ。兄は嬉しく思う。
「分かってくれたようですね兄さま! それでは頂きます!!」
「ってちがーーーーーーーーーーーーーーーーう!!」
何がナイスだよ僕!? どんだけ黒のニーソックス好きなんだよ!?
大大大だーい好きなのさ!! いや違うそうじゃない!!!
「そうじゃなくて僕たちも一応行くよ! って言いたいんだよ!?」
「はぁ。なんだそうだったんですか。紛らわしいですよ兄さま?」
どこが? 紛らわしい事なんて何もしていなかった気がするんだけど……。
「しかし兄さま」
「どうしたんだいウェンディス」
「行く意味……あります?」
「……無い……んじゃないかなぁ。まぁでもカヤが行っちゃったしはぐれたら可哀そうじゃない」
魔王を完全に子ども扱いしてるこの状況だがまぁあの幼い外見だし仕方ないだろう。
「はぁ。まったく手のかかる魔王様ですねぇ。それでは行きましょうか」
そうして僕とウェンディス(例のごとく目にもとまらぬ速さで服を着た)は金属音が鳴り響く方向へと向かった。
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