第3章9話『魔王 物凄く哀れの巻』
ウェンディスとの鬼ごっこ? が終わり、
ちなみに僕と魔王様が一夜を過ごしたとか言う真っ赤な嘘はキッチリ誤解を解いておいた。そもそも騙されるウェンディスもどうかと思うけど、それだけ平静では居られなかったという事だろう。
そしてウェンディスが提示した条件。それは……、
「兄さま! 私と1つになってください!」
「ごめんなさい、無理です」
いかにもウェンディスらしい提案だったので却下させてもらった。僕の意思がどうとかじゃない。僕はこの世界においてそういう事が……その……出来ないからだ。
「世界のバッカヤローーーーーーーーーーー!!」
「? どうしたんですか兄さま?」
「ぐぬっ。
「いや、うん。ごめん。なんか唐突に叫びたくなったんだ。っていうか魔王様。その呼び方いい加減やめてくれない?」
「良いではないか。
「あらあらカヤさんったら。そうやってまた私の兄さまを
「グゥッ!? なんだ!? 今のもアウトなのか!? 厳しいのではないか!?」
僕たちは今、サイクロプスの肉片などを乗せて村へと帰還中だ。
男の証を失ったサイクロプスはいつの間にか息絶えていた。それがショック死なのか痛みによるものなのかは知らないけれどとても不憫だった。
もちろんあんな巨人の肉片など手で持てるわけがない。そこでウェンディスは慣れた手つきで魔法を行使し、そこら辺の荒野の岩から岩製の馬車を作り出した。岩製の馬車ってなんだよとは思うがとにかく岩で作った馬車だ。
その荷台へとサイクロプスのの肉片を放り込み、そしてウェンディスが切り落としたサイクロプスの男の証はその場に置いてきた。ちなみにその時、
「兄さま。なぜサイクロプスの急所を運んではならないのですか? この部分はあまり高くは売れないのですが煮込むと結構おいしいんですよ?」
などとおっそろしい事をウェンディスが言い出したので全力でサイクロプスの漢の証はその場に置いてきた。そしてこれからはその料理を僕の前に出さないでねと何回も念を押しておいた。
今までの料理にそれが出ていたのかどうかは分からない。もちろんそれはウェンディスに確認すればすぐ分かるのだが、もし今まで食べた料理にそんなものが入っていた場合、僕はショック死する自信がある。
とにかく、ウェンディスの作り出した馬車は荷台にサイクロプスの肉片、御者台に僕とウェンディスを乗せてゆっくりと村へと帰還中だ。
ウェンディスの一つになってくださいという提案を破棄した結果、僕は次なる提案として出た「村に帰るまで兄さまの膝の上に乗せてください! 撫で撫でも忘れずにお願いします!」という提案を受け入れ、こうして御者台で膝の上にウェンディスを乗せながら馬車に揺られている。
ちなみにこの馬車、乗り心地は恐ろしく悪い。そもそも馬車なんて乗ったことないが、ものすごく遅いし動き方が凄くぎこちないのだ。
おそらく岩製であることが災いしてるのだと思われる。というかよく動くもんだなと感心すらする。
しかし、おそらく乗り心地が悪い理由はそれだけではない。もう一つの乗り心地が悪い理由――それは馬の質だ。
現在僕とウェンディスとサイクロプスの肉片を乗せて馬車は村へと向かっているのだが――ここで問題だ。さて、魔王様――カヤはどこでしょう?
一人だけ歩いてくっついてきている? 違う。
一人だけ空を飛んでついてきている? 違う。
一人だけそもそも付いてきていない? 違う。
答えは――馬の代わりに馬車を引っ張ってます。
要は人力車のようにカヤが手動で動かしているのだ。馬車を。
小柄な女性が色々積んである馬車を一人で引っ張っているのだ。
カヤが馬車を引いている理由は単純にそれがウェンディスの提案にそれが含まれていたからだ。僕は膝の上にウェンディスを乗せて撫で撫でし続ける係。カヤは馬車の馬の役割を担う係とウェンディスによって役割分担された。
当然最初はカヤも必死に抗議していたのだが、
「あらあら魔王さんったら。身の程を弁えていないんですね。消し炭にしちゃいますよ?」
というウェンディスの一言で、カヤはしぶしぶ馬車を引くロープを持って馬の役割をする事を受け入れた。
引いているのが魔王なのだからそこだけ抜き取ってみればなるほど、魔王を屈服させて支配した勇者の図に見えるのかもしれない。
しかし、傍から見ると年端も行かない女の子に重いでは済まない重量の馬車を引かせている図だ。
どう見てもその馬車に乗っている僕とウェンディスはゲス野郎にしか見えないだろう。しかも、ウェンディスはその手に持ったムチで、
「兄さまを誘惑するメス豚め! ほら! もっと鳴きなさい! 惨めな姿を兄さまに見せて幻滅されなさい!!(ピシィッ)」
「ちょっまっ。童にはそんな趣味は無いと言うておろうが!? なぜ童がこのような目に遭わねばならんのだ!? 頼む主様よ! その娘に何とか言って止めてくれ!」
「懲りずにまた兄さまを誘惑するとはとんだメス豚ですね!! もう怒りました! 兄さまと約束した以上滅しはしませんが鞭打ちの刑です!!(ピシィッ)」
「ひいいいいいいいいいいい!!」
と、こんな感じでカヤに対して御者台から鞭を打ち続けている。もう幼女虐待にしか見えない。いや、鞭を打っている方も幼女なんだけどさ。
正直に言おう。降りたい。
というよりこんな状態で村へと帰還したらみんなになんと言われるのかすごく怖い。仮に僕がこんな所を見たら乗っている人を悪者認定するだろう。だってそうとしか見えないもん。
「ほら兄さま見てくださいあの無様な姿を! やはり兄さまに相応しいのはこの私しかいません! それと兄さま? 撫で撫での手が止まっていますよ?」
「あー、うん、ごめんごめん」
そう言って無造作に膝に乗るウェンディスの頭を撫でる。そんな撫で方でも嬉しいのかすごく幸せそうだ。それだけ見れば可愛らしい女の子の姿なのだが……実態は幼く見える女の子に鞭を打ちまくる幼女様だ。とてもじゃないが可愛いと手放しには喜べない。
「というかウェンディス。最初は魔王――カヤの事を怖がってたけどもう平気なの?」
「心配してくれているんですか兄さま。ウェンディスはとてもうれしいです! ご安心ください! 最初は怖くて仕方ありませんでしたが今はカヤさんの事は羽虫程度にしか感じません!」
「は、羽虫ぃ!? おい娘よ! さすがに童を侮りすぎではないか!? 童が本気を出せば貴様程度「あ゛?」嘘だ! 童が悪かった!」
「弱ッッッ!?」
もう完全にカヤとウェンディスの力関係はひっくり返っていた。最初はカヤ>>>ウェンディスだったのが今ではカヤ<<<<<超えられない壁<<<<<ウェンディスぐらいになってしまっている。
「というわけで兄さま。私はもうカヤさんを見て怖がったりしませんから安心してくださいね」
「ああ、そう。良かった……のかな?」
逆にそれ以上にカヤがウェンディスに対して恐れを抱いてしまうんじゃないかと思うんだけど。まぁ考えないようにしよう。
そんなこんなで馬車はゆっくりと進み、僕たちの村へとたどり着いた。
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