第3章 魔王、もう現る!?

第3章1話『高っ!? ぼったくりじゃないか!!』



 僕はこの世界にエルジットが来ていて勇者になっている事を知ったが特に何かをしようとは思わなかった。

 そもそもこの世界って勇者必要なの? この村の人が魔王と戦ったら多分勝てるんじゃないの?

 そういう思いもあって魔王を倒しに行くといってもあまりやる気は出ない。


 ”フロッティ”の試し斬り? をした後、僕はギルクさんと別れてウェンディスと共に家に戻った。

 そうしてベッドへと潜り、



「やっぱり朝になっちゃってるよねーーーー!!!」



 ベッドに入った途端、やはり僕は起きていられなくなり、すぐに寝てしまった。

 この世界における勇者の呪い? である。ゲームで主人公がベッドに入ると体力が全快して朝になっているという奴があるが、あんな感じだと把握している。



「これじゃあナニする事も出来ないじゃないか……」



「ナニするですって兄さま!?」


「うるさい黙れこのビッチ妹がぁ!!」



 もう今までのやり取りでこのウェンディスに対しての気遣いなども失せてしまっていた。

 いや、可愛いんだよ? 外見は可愛いんだよ? 長髪の銀髪ロリ妹とか僕は好きだよ?

 でも中身が……ダメすぎる!



「ビッチ妹だなんて兄さま、訂正を要求します!」


「訂正するところなんて無いよね!?」


「あります! ”ビッチ妹”の前に”兄さま専用の”をお付けください!」


「それで君は満足なの!?」


 とはいえ、今でもこんなふうに驚かされることは多いのだが……。



「さて、兄さま。その話はあとで布団の中でゆっくりねっとりじっくりぬぷぬぷと絡み合うとして話があります」


「絡み合わないからね? で、話って何?」


 珍しく真面目な表情を見せるウェンディス。なので耳を傾けてみる。

 まぁ真面目な表情からトンチンカンな話が出てくることもあるんだけどね……。



「お金が尽きそうです。水の残りも僅かです」


「へ?」


「ですから、お金が尽きそうなのです。基本的なものを買うのならば問題はないのですが、水を購入する資金だけ不足しているのです」


 え? 水を買うお金が無いの? でも基本的なものを買うなら問題ないってどゆこと?


「水なんてそこらへんで汲んでこられないの? 地下水とかさ」


「兄さま、何を仰ってるんですか? 魔王城から溢れ出る瘴気によってここで採れる水は全て飲めませんよ?」


「水もなの!?」


 前に田畑が瘴気でやられているから使えないという話は聞いたが、まさか水もか……。

 というかそれで思い出したんだけど、


「確かウェンディスのお兄さんってこの村で一番稼いでいたんだよね? なのにもう金欠なの?」


 確かレンディアが僕の事を一番稼いでるくせにとか言っていたはずだ。

 それなのにもうお金が尽きたの?



「稼いでいましたよ? ……ギルクさんのお店でかなり使ってしまいましたけど……」


「ああ、うん。なら仕方ない」



 なにせ売ってるものが全部伝説級のギルクさんの店だ。さぞ値段も高いのだろう。



「ところで水っていくらなの?」


「5000G《ゴールド》です」


「え?」


「5000Gです」


 ちょっと待ってくれ。


「この前買った地図は?」


「100Gです」


「水は?」


「5000Gです」


「ぼったくりすぎでしょ!?」


 たかが水がなんでそんなに高額なのだろうか。


「兄さま、需要と供給ってご存知ですか?」


「知ってるけど限度ってものがあるでしょ!?」


 そりゃ水が取れない村なら水は貴重で売れるだろうさ!

 村人が村の外に出れないって言うんなら尚更なおさら水は高く売れるだろうさ! だってそこでしか買えないんだもの。

 だからってぼったくりすぎじゃないかなぁ!


「ちょっと行ってくる!」


「兄さま、どこに行くんですか?」


「水が売っているところだよ! クレーム叩きつけてやる。どこに売ってるの!?」


「雑貨屋ですが……」


「待ってろぉ! 悪徳商法の雑貨屋ぁ! 天誅ーーーーーー!!」


「兄さま!? ああ、もう。まだ朝も満足に食べていないというのに……待ってください。兄さま~~」



 そうして僕は雑貨屋へと向かった。




★ ★ ★


「頼もう!!」


 僕は雑貨屋のドアを乱雑に蹴り飛ばした。もっとも多少手加減したので壊れたりはしない。やや乱暴に開けただけだ。


「店主にモノ申し」



「ふぐぁ!!」



 扉を開けた途端、僕の横を高速で何かが通り過ぎて行った。

 振り返ってみるとそこには棺桶が現れており、棺桶はしばらくして宙へと浮かびどこかへと去って行った。


「おっと、新しいお客様か、さぁ、貴様は俺に何を求める!」


「まずは今さっきここで何があったかの説明を求めます」



 そうだった……この雑貨屋ってキング・雄一さん――全身筋肉で出来てるんじゃないかと思えるくらいの筋肉マッチョなグラサン親父、そしてそれに見合った化け物ステータスを保有しているおっかない人が経営してるんだった……。

 とりあえずクレームはやめておこう。


 悪徳商法は許さないんじゃなかったのかって? そんな事よりも僕の命の方が大事なんだ!



「何があったかだと!? うむ、聞くがいい! 洒水!」



 よほどムカつくことがあったのか、店の床を思いっきりキングさんが叩く。


「どわぁ!!」


 叩いただけで木材が粉々に壊れ、その破片が僕を襲う。

 もうこれ攻撃なんだけど!? というかこの人自分の店を破壊してどうするつもり?




「お前が来る前に冒険者風の男が1人やってきたのだ。奴は店に入るなりこう言った。”これから魔王に挑むこの俺に商品全部寄越しな。痛い目に遭いたくはないだろう? おっさん”となぁ!」



 あ、オチが読めた。



「そこまでは良かった」


「良かったの!?」



 そこから何かあったのだろうか?



「俺はその男が求める品の合計金額を提示した。しかし、こともあろうにその男は金も払わずに店から商品を持って出ようとしたのだ!!」



「その男の人の言い方でお金払うつもりがないって事に気づこうよ!?」



 どう聞いても強盗するつもり満々の人でしょその人はさぁ!!



「奴は俺の一撃を受け止め……どこかへ消えた。まぁ幸い商品は置いていったがな」



「それどこかへ消えたって言うか天に召されただけだよね?」


 それにしてもなんて愚かな男なのだろうかその人は。強盗とはいえ同情せざるを得ない。

 ここでキングさんにステータスを改めて確認してみよう。


★ ★ ★


 キング・ユーイチ 38歳 男 レベル:?


 クラス:雑貨屋店主

 筋力:8738

 すばやさ:1

 体力:39

 かしこさ:386

 運の良さ:138

 魔力:0

 防御:8797

 魔防:0


 技能:怪力・交渉・一撃必殺


★ ★ ★


 筋力:8738であり、技能に怪力・一撃必殺を持ってるキングさんの一撃を受け止めた?

 まぁ……死ぬよね。

 避けるなりすれば逃げるくらいは出来たかもしれないというのに……さらば名も知らない強盗さん。安らかに眠れ。



「はぁっ、はぁっ。兄さま~、待ってください~~」

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