第2章最終話『会話がかみ合わないよ? なんでだろう?』
「我は魔王様に仕える
「あ、そういうのいいんで一晩ここで泊まらせてもらってもいいですか?」
私はこの城の持ち主っぽい感じのグリムロッドさんにそうお願いしてみる。
「………………は?」
何やらグリムロッドさんがこちらを見つめたまま動きを止めている。驚いているようにも見えるが表情はそのヘルムに隠されていてよくわからない。
「ま、待て待て待て待て待てよおいぃ! 勇者よ! 貴様は
「違うけど?」
「は?」
「え?」
何やら話がかみ合わない。
「ちょ、ちょっと待てよおいぃ! それならばどうやってこの場所へと入った!? この部屋へは
そんなの知らない。
そもそも1階を通ってきたけど誰も守護してなかったよ? クレメントゴーレム? 誰それ?
「普通に扉を開けてでございますよ」
「なんだ貴様はぁ!? 勇者の仲間か!?」
「申し遅れました。私はお嬢様の執事のセバスと申します」
「執事ぃ!? 勇者に執事ぃ!? そんなの聞いていないぞ!?」
「聞いていないと申されても困りますなぁ」
なんだかグリムロッドさんが凄く慌ててる。
やっぱりその表情はヘルムに隠れて分からないけど、どう見ても慌ててる。
「いや、執事が居るのは置いておこう。だがこの部屋の扉は決められたオーブを設置しなければ開かない仕組みになっているのだぞ!? 少なくとも貴様らは4死帝のうち3人を倒した……そうだな!?」
「「違うよ?(違いますが?)」」
「えええええええええええええええええええええ!?」
もうグリムロッドさんから暗黒騎士としての迫力や威厳は消え去っていた。
そこにいるのは想定外の出来事にただ慌てふためいているただの凡人だった。
「それではどうやってこの部屋へと侵入したというのだ!」
「だから先ほど言ったではありませんか。普通に扉を開けて入ってきたのですよ」
「んな訳あるかぁ!? 確かに扉は封印され……て……ん?」
どうしたと言うのだろう。グリムロッドさんは私たちが入ってきた扉の方向を見て、次に振り返ってセバスが蹴り飛ばした扉を見る。
そうしてしばらく何か考えた後、
「扉壊れてるし!?」
まぁ、セバスが蹴り飛ばしたからねぇ。普通に開けてとセバスは言ったけど普通じゃないよねぇ。
「馬鹿な……封印された扉をこんな方法で開けるとは……」
グリムロッドさんが飛ばされた扉の方を呆然と見つめて何やらぶつぶつと言っている。
そんなにショックだったのかな?
しばらくしてグリムロッドさんは頭を振って、
「い、いや、とりあえず今はそれは置いておこう! では貴様らはなぜここ、ダインスレイヴ城へとやってきた!? こんな強引な手段で入ってきたからには何か目的があるのだろう? さぁ、言え!」
そんな、”言え”って言われても……
「さっき言ったけどじゃあもう一度言うよ? 一晩ここで泊まらせてもらってもいいですか?」
「は? ここに泊まるつもりなのか?」
「うん、そうだよ?」
「ここに来る途中、城の中で魔物と遭遇しなかったか?」
「したよ?」
「それなのにこの城で一夜を過ごすつもりだと?」
「野宿よりはいいかなと思って。それにセバスにお城の掃除をしてもらえばいいかなって」
「お任せください。お嬢様」
「なんなんだこいつらは……」
グリムロッドさんは本当にどうしたというのだろう。今度は何かに疲れ切ったのか、脱力しきっている。
「ええい! 貴様らと話していると頭が痛くなる! もういい! この部屋へと侵入してきた以上、我が敵とみなす! 闇騎士・ゼルハザード様に仕える騎士、グリムロッド――参る!!」
グリムロッドさんはその両手剣×2を構えてこちらへと突進してくる。
そのスピードはかなり速かった。100メートル走をする男子たちを見たことがあるが、その中で一番早い男子よりも速かった。あんな重そうな鎧や剣を持っているというのにだ。
「くらえい!
「ちぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇい!!」
「グボァ!!」
まぁ、それでもセバスよりは遅いんだけど。
「お嬢様、お怪我はありませんか?」
「うん、大丈夫だよセバス。ありがとう。ところで私にはセバスが何をしたかよくわからなかったんだけど何をしたの?」
「なぁに、大したことはしておりませんよ。まずは彼の腹部へと打撃を3発、衝撃を優先して体の内部から破壊するような打撃を放ちました。
そして顔を見たかったので最後に蹴りで彼のヘルムを弾き飛ばしたのですが……」
うん、その試みは失敗してるね。
説明しよう。セバスがそういう攻撃をした結果、黒騎士グリムロッドさんがどうなったのか。
まず、セバスが衝撃優先で放った打撃。衝撃優先て言ってるけど思いっきり鎧に穴が開いてるね。キチンと3発分開いてるね。これが衝撃優先の攻撃だとしたら中に居る人はたまったもんじゃ無いだろうね。
そして顔を見るためにヘルムを弾き飛ばしたっていうけどあれだね。最初の3連打で倒しちゃっていたのか、もう鎧ごと中身が消え始めているね。
この人も魔物と同じカテゴリーなのかな? 倒したら跡形もなく消える。後片付けが楽ちんでいいかも!!
「ば、馬鹿なぁ、我が執事ごときに敗れるはずがぁ……貴様ぁぁぁぁ、何者なのだぁぁぁぁぁぁ」
「ただの執事ですが?」
「そんな訳ないだろうがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
そんな断末魔の叫び? を上げて暗黒騎士・グリムロッドさんは消え去った。
めでたしめでたし。
「おぉ、お嬢様。こちらをご覧ください」
私が消えたグリムロッドさんに向けて合唱――手を合わしている中、セバスが何かを見つけたようだ。
「どうしたのセバス?」
目を開けてみるとそこには、
「宝箱?」
さっきまで暗黒騎士グリムロッドさんが居た場所にとっても目立つ宝箱が現れていた。
なにこれ?
「どうやら敵が落としていったようですな」
「いや、ポロリと落とせるほど小さくないよね?」
宝箱は小さな子供くらいなら入れそうな程の大きさだった。
これをあの暗黒騎士グリムロッドさんが落としていったって? いやいや、こんな大きいの持つスペースなんて無かったと思うよ? あの鎧の中身が空っぽとかだったらあり得るのかもだけど……それってどこのアルフォ〇ス・エ〇リック?
まぁ考えるだけ無駄かもしれないね! さっきセバスも言ってたけどこの世界と私たちの世界での常識って全然違うみたいだし!
まったく、やれやれだよ。
「まぁ色々と思うところはあるけど開けてみよっか」
「そうですな。では開けさせていただきます」
「うん、お願い」
そうしてセバスが宝箱を開ける。
木製の宝箱で鍵はかかっていない。問題なく開けることが出来るだろう。
ギィィと古い木が軋むような音を上げて宝箱が開かれる。
そして中には、
「鍵?」
真っ黒な鍵が出てきた。
「おや、この鍵、何か書かれていますねぇ」
「え、そうなの?」
「はい、ここに何か書いてあります。私には読めませんのでおそらくこの世界の文字だと思われます。お役に立てず申し訳ありません」
「ううん、セバスはすっごく役立ってるよ! ドン引きするくらい役立ってるから安心してね!」
これほど頼りになる人間を私は知らない。
「つまりお嬢様、私さえ居れば他には何も要らないと考えてよろしいので?」
「いや、そこまで言ってないよ?」
「……そうですか……」
なんかセバスがガックリと肩を落としているけどなんでだろう?
「そんな事よりその鍵見せて! この世界の文字ってどんなのか見てみたい!」
「そ、そんな事……ですか。はは、か、畏まりました。どうぞ」
セバスが両手で丁寧な感じで黒に染められた鍵を差し出してくれたので、私はそれを受け取って何が書いてあるのか確認してみる。そこには、
”最後の4死帝への鍵”
と書かれてあった。
あれ? 読めるよ? なんで?
「なんかこれ、さっきの暗黒騎士さんが言ってた四天王的な人の所への鍵みたい」
「なんと!? お嬢様、異世界の文字が読めるのですか!?」
「う、うん。なんでか分からないけどこの文字を見てたらなんて書いてあるのかなんとなく分かるの」
「やはりお嬢様は選ばれし勇者だったというわけですな!」
セバス、テンションあげあげな所悪いんだけど、私全然戦ってないからね? 全部セバスに丸投げしちゃってるからね?
「まあつまりこれは四天王的な人のところへ行くのに使うカギみたいだけど」
「ふむ」
「要らないよね《ポイッ》」
「ですな」
私は手に入れた鍵を宝箱の中へと放り投げた。
私が欲しいのは今晩の寝床とユーシャの居るニヴルヘイムへの切符だけだ。
「あ、奥にベッドがある!」
念願のベッドがあったよ! やったね!
「おぉ、おめでとうございますお嬢様。ふむ……やはりこのベッドもキチンと手入れされておりますな。関心関心。
それではお嬢様、もう本日はお疲れでしょう。どうかゆっくりとお眠りになってください」
「いいの?」
「勿論でございます。私は城の掃除をしてこようと思います」
「うん、わかった。それじゃあおやすみなさい、セバス」
「ゆっくりお休みになられて下さい、お嬢様」
そうして私はベッドへダイブして目を閉じる。
ユーシャに早く会いたいなぁ。今頃どうしてるのかなぁ。
そういえば私が勇者っていう事はユーシャはこの世界で何になってるのかなぁ?
まぁユーシャの事だから例えどんな役割を押し付けられていたとしても勇者を目指してるんだろうなぁ。
それでもユーシャはなんか大変なところに居るみたいだしまだハーレムとかは出来てないよね?
そんな事を考えながら私の意識は闇に落ちた。
★ ★ ★
一方その頃、ユーシャはというと
「エルジット?」
★ ★ ★
エルジット・デスデヴィア 16歳 女 レベル:16
クラス:勇者
筋力:14
すばやさ:26
体力;18
かしこさ:8
運の良さ:14
魔力:19
防御:15
魔防:8
技能:従者召喚・言語理解
★ ★ ★
地図に浮かんだエルジットのステータスを唖然とした顔で見つめていた。
そしてしばらく眺めた後、
「なんで僕が村人でエルジットが勇者なんだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
魂の雄たけび《ツッコミ》を夜空に向けて上げていた。
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