第2章10話『装備は必要なんだよ!』
「誰か~、いませんか~?」
お城に入ってみると大きなエントランスホールがあり、綺麗な装飾品の数々が私たちを迎え入れてくれた。
しかし、肝心の人が居ない。
「ふむ、清掃が行き届いていますね。誰か住んでいるとは思うのですが……」
とセバスが説明してくれる。
しかし、見回してみてもやはり人は……
「キシャーーーー」
なんか
「ほう、こんな明るい
「私、
まさか異世界で会う事になるなんて思わなかった。
それに蝙蝠は確か夜行性じゃなかったっけ?
「お嬢様、どうなさいますか? あちらはこちらの邪魔をするつもりのようですが」
「キシャーーーー」
確かに蝙蝠は奇声を上げて私たちの行く手を阻んでいる。
いつもならセバスに任せるところだけど、
「今回はセバスは休んでて。私がやってみる」
「なんと!? お嬢様がですか!?」
「うん。私、不本意ながら勇者になっちゃったみたいだし。相手が自分の知ってる生き物ならまだやりやすいかなって」
今の内に戦う事に慣れておきたい。
もちろん、危なくなったらセバスに助けてもらうつもりだけど。
「ということで行っくよーーー!」
私は腰に差してある剣を手に取り、
「ってあれぇ!?」
「どうなさいましたかお嬢様!?」
「剣がない!」
私の腰に差してあったはずの剣が無い。
どこかに落としちゃった? いや、確かに持っていたはずだ。
それじゃあどこに? いや、今はそういうのは置いといて。
「ごめんなさい、セバス。やっぱりお願いしてもいい?」
「御意!」
やっぱりいつも通りセバスにお願いする形になっちゃいました。
「ふん!」
「キシャーーーー」
あ、やられるときもあの奇声なんだ。
セバスのパンチ一発で消滅した蝙蝠を見ながら、そんなどうでもいいことを考える。
そうして戦闘終了後、
「あれ? 剣がある」
蝙蝠との戦闘が終わった直後、私の腰には鞘に入った剣があった。
しかしおかしい。確かにさっき蝙蝠相手に剣を使おうとしたときはなかったはずなんだけど……。
「どうかなさいましたか? お嬢様」
「う、うん。実は」
私はセバスに剣が戦いの間だけなくなっていたことを話す。
「ふーむ」
セバスは私の話を聞き終えるとこめかみに指を当てて何か考えるようなポーズをとる。そして、
「それはもしかしたら装備をしていないからかもしれませんね」
へ? 装備?
私が呆けた顔をしているとセバスが説明してくれる。
「村の方がおっしゃっていたかと思います。”武器は武器屋で装備しないと意味ないぜ”と。おそらく戦闘で使うには武器屋で装備が必要なのかと」
「なにそれ!?」
どういう理屈なの!?
今、私は剣を持ってるじゃない!
それなのに戦闘で使うには武器屋で装備しないといけない? 意味が分からないよ!?
「もちろん不可思議ではありますがお嬢様。ここは異世界です。我々の常識は何1つ通用しないと思った方がよろしいかと」
「通用しないにも程があるんじゃないかな!?」
ともあれ、武器が無い事には戦えない。私みたいなか弱い乙女がセバスみたいな脳筋な戦い方をするわけにもいかないだろう。
というわけで、
「セバス、悪いんだけど今日は戦闘を全部任せると思う」
「承知しました」
そうして、私たちは城の探索を続ける。
さて、私たちが入ってきたエントランスホール。そこからは上に続く階段が1つ。
右側にどこかに通じると思われる扉が2つ。
左側にもどこかに通じると思われる扉が2つある。
さて、どこに行くかといえば、
「やっぱり上よね」
上の方が豪華な部屋がありそうな気がする。特に根拠なんてない。なんとなくだ。
「では行きましょうか」
私とセバスはエントランスホールから上に続く階段を真っすぐ上った。
そこには大きな扉が1つ。それ以外には何もなかった。
セバスが扉へと手をかける。しかし、
「どうやら鍵がかかっているようですね」
ガチャガチャと音を鳴らすだけで扉は開かなかった。
ならばやることはただ1つ。
「セバス。思いっきり開けて」
「承知しました」
セバスが目にもとまらぬ速さで扉に蹴りを放つ。《かすかにしか見えないけれど多分蹴りだった》
すると、鍵がかかっていた扉は何事も無かったかのように開いた……いや、蹴りの衝撃に負けて吹き飛んだ。そして、
「グボァ!」
誰かの悲鳴が聞こえてきた。
どうやらセバスが蹴り飛ばした扉が直撃したらしい。
「クッフッフ、思ったよりも早かったな勇者よ」
ガシャガシャと音をたてながらその人物はセバスが蹴り飛ばした扉を後方へと投げ捨てる。
その人物は真っ黒な鎧、真っ黒なヘルム、真っ黒な両手剣を2振り持ち、こちらに向かってくる。
外見からしてとても強そうだ。これが暗黒騎士っていうやつなのかな?
その鎧も、ヘルムもとても豪華なつくりをしている。ヘルムのせいで顔は見えないから男か女かもわからないけどさっきの悲鳴からすると多分男だろう。
そして本来両手で持つはずの両手剣を片手で、しかもその両手に持っているというだけで凄い力の持ち主っていうのが分かる。
「我は魔王様に仕える
そう戦う気満々っぽいグリムロッドさんに対し私は――
「あ、そういうのいいんで一晩ここで泊まらせてもらってもいいですか?」
そうお願いするのだった。
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