第13話『やっとまともな人に会えた!!』



「ねえウェンディス」


「なんですか兄さま」


「どんどん人気ひとけの無い方へ向かって行ってるような気がするんだけど……本当にこの先に武器屋があるの?」


 ウェンディスに連れられて、15分くらい経っただろうか。

 周りの景色から人家が減っていき、今では荒れた大地しか見当たらない。

 もう村の中じゃないと言われても信じられるくらいだ。


「勿論です兄さま。兄さまは私の言うことが信じられないのですか?」


「うん」


「即答ですか!?」


 だって……ウェンディスは頭が良い子っていうのは分かるんだけど……常識とかが……ねぇ?


「分かりました! そこまで言うなら」


「そこまで言うなら?」


「この先に武器屋がなければ私の貞操を兄さまにプレゼントというのはどうですか?」


「もはや何も信じられない!!」


 ウェンディスにとってはそれご褒美だよね!? 罰になってないよね!?


「それでどうですか? 兄さま」


「却下だよ! そんな事できるわけないでしょ!?」


「ならばどうしたら信じてくれますか?」


 どうしたら信じるか? うーん、そうだなぁ。


「それじゃあ嘘だったら……僕に3日間触れないこと」


 ウェンディスはやたら僕に触ってくる。今だって、手をつないでいる。まぁ兄妹ならばこれくらい許容範囲内だけど。


「…………………………」


「…………………………」


「わか……りました。嘘じゃ……ないもん。大丈夫だもん」


 なんか凄い泣きそうな顔で口調まで幼くなっちゃってる!?


「ひっく……うぅ。うぇぇ」


 むしろ泣いちゃってる!? どれだけショックだったの!?


「ごめん! 今のは冗談! だから……ね?」


「うぅぅぅぅぅぅ。いいもん! 大丈夫だもん! 嘘じゃないもん! ぐすっ」


 困った……しばらく泣き止みそうにない……。

 ウェンディスにこの手の話はしないようにしよう。凄く傷つけたみたいだ。


 そうして歩くこと更に5分くらい。


「ん? あれは」


 1軒の建物が見えてくる。

 作りは村にあった建物と同じ木造。大きさは普通の家屋より少し大きい程度。村にあった雑貨屋と同じくらいの大きさだ。


 雑貨屋と違うのは、外にカウンターがあることだろうか。近づいていくたびに、店主と思わしき人物や武器の数々が見えてくる。

 看板も掲げられており、そこには”GGの武器屋”と書かれてあった。うん、武器屋だ。


「ほら! ちゃんとあったでしょ? 兄さま、私うそついてないでしょ!?」


「うんうん、そうだね。ごめんよ、ウェンディス」


 この子は誰だろうという疑念を抱きっつ、僕はウェンディスをなだめにかかる。

 今までのウェンディスは何だったのかと言うくらい、口調から何から何まで幼くなっている。


「……コホン。それでは兄さま。用心してくださいね?」


「うん?」


 ショックから持ち直したのか、ウェンディスは幼い口調から丁寧な口調へと言葉遣いを変えた。

 しかし、用心? 何に?


「いらっしゃい。これはこれは……洒水しゃすいさんじゃあないですか。ウェンディスちゃんまで……2人がここに一緒に来るなんて珍しいですね」


 武器屋のカウンターまでたどり着くと、店主と思わしき少年がそう声をかけてきてくれた。


 純朴そうな少年だ。今まで会ったこの村の誰よりも”普通”という言葉が似合う。そんな少年だ。

 身長は160センチ程度。その髪は黒く染まった短髪。よく居る日本人と言う感じだ。

 年も若そうで、自分と同じ10代後半くらいだろうか?


 だがしかぁし! 僕は知っている!

 どうせさぁ! また変なスキルとか持ってるんでしょぉ!?

 もしくは能力値がすごく高いとかそんなのでしょぉ!?

 もう知ってるんだよそんなのはぁ!!

 さあさっさとそのステータスをみせろぉ!!


 半ば勝手にヤケになりながら、僕は武器屋の店主と思われる少年を見つめる。すると、


★ ★ ★


 ギルク・ガーランド

 17歳 男 レベル:不明


 クラス:武器屋店主

 筋力:1

 すばやさ:1

 体力;1

 かしこさ:1

 運の良さ:1

 魔力:1

 防御:1

 魔防:1

 技能:ドッペル・交渉


★ ★ ★




「普通の人キターーーーーーーーーーーーーーー!!!」


「わ。どうしたんですか急に?」


 僕の過剰な反応にも素朴に驚いてくれる店主さん。もといギルクさん。素敵だ!!

 そうだよ! これこそがモブキャラのあるべき姿なんだよ!

 戦う事なんて考えられないくらいのステータス! それこそがモブキャラのあるべき姿なんだよ!

 ありがとうギルクさん! あんまり年も変わりないし、君とは友達になりたいな!


「あの……ウェンディスさん。洒水しゃすいさんはどうしたんですか?」


「気になさらないでください。兄さまは私と一緒に居て気持ちがたかぶってるだけです」


「そうなんですか。妹さんの事を大事に想ってるんですね。良い事だと思います」


 そう言ってギルクさんがこちらに軽く微笑んでくる。


 ヤダなにこの人!?

 今までこの村で変人としか会わなかったからだろうか……眩しい!!

 その普通の対応がすごく眩しい!!


「兄さま……本当に大丈夫ですか?」


 ハッ。いけない。事情を知っているはずのウェンディスにまで変に思われている。


「取り乱してしまってすみません。ギルクさん」


「いえいえ。それで今日はどうしたんですか? 2人が揃ってここに来るなんて珍しい」


「私は兄さまの付き添いです。兄さまは時間が空いたので、久しぶりにギルクさんに会いに来たんです。ですよね?」


 ウェンディスがこちらに目配せしてくる。話を合わせろという事だろう。


「うん。そうなんだよ。時間が空いたからさ」


「わわ。わざわざ僕に会いに来てくれたんですね。こんな所だとお客さん以外人も来なくて……嬉しいです!」


 まぁ村から離れてポツンとある武器屋だしねぇ。むしろお客さんは来てくれるんだと思ったよ。


「喜んでくれて何よりだよ。それで……最近どう?」


 何を話していいのか分からない僕は、そんなありきたりな事を聞くしかなかった。


「最近ですか? そうですねぇ……最近は」


 そうやってギルクさんが目をつぶって考えこみ始めた瞬間だった。


「今だ!!」


「「え?」」「……はぁ」


 武器屋の裏側辺りから黒い影が飛び出したかと思ったら、そのまま高速で遠ざかっていく。

 人だ。真っ黒な装束を着た忍者みたいな人が長剣を持って、疾走している。

 その剣は見覚えがある。武器屋に飾られていた武器の数々。その1つだったものだ。

 武器屋に飾られていた武器の数々を見ると、その1画だけやはり物が無くなっている。


「ど、泥棒!?」


 まさかこんな現場に立ち会うなんて……。


「だけどそうはさせない! 盗みは悪! 許せるものじゃない!」


 僕は追いつけるかどうかわからないけれどその忍者っぽい人を追う。


「兄さま! こちらです! フライ! エンチャントブースター!」


 追う……つもりだったのだが、それよりも一瞬早くウェンディスは僕の手を取り、忍者っぽい人とは逆の方向へと飛ぶ。当然、僕の体も逆の方向へと飛ばされる。

 

「手を離さないでくださいね兄さま!」


 そのまま更に上空へ飛び上がっていく僕とウェンディスの体……って、


「いやいや何やってるのウェンディス! 泥棒だよ!? 捕まえないと!」


 なぜこんな逃げるような真似をしないといけないのか理解できない!


「兄さま! そんな戯言は下を見てから仰ってください!!」


「下?」


 そこには下をうつむいているギルクさんの姿があった。


「下がどうしたっていうのさ! 訳の分からないことを」


 瞬間、下から轟音が聞こえてきた。


「…………………………え」


 下を見下ろす。すると……ギルクさんから忍者っぽい人の間の大地が……抉れている!?

 え? なんで?


 忍者っぽい人は何かのダメージを負ったのか、その場で倒れてしまった。


「愚かの極みよなぁ!!! 我が商品を盗もうなどとはぁ!! その罪、万死に値するものとしれぇぇぇ!!」


 …………誰?


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