第12話『ギャンブルって怖い!』
「それで兄さま。これからどうなさいますか?」
教会を出てから数分後、ウェンディスは歩みを止めて僕にそう聞いてきた。
どうするって言われてもなぁ……。
「ウェンディスのお兄さんはいつもどうしていたの?」
今では僕がウェンディスの兄だ。認めたくないけれど! 放棄したいのは山々だけれど!
まぁともかく……今では僕がウェンディスのお兄さんなんだから、キチンとしないと!
「今までの兄さまですか? うーん……そうですねぇ。基本的には今の兄さまと変わりなかったですよ?」
ん? 今の兄さまって僕だよね? それと変わりないってことは……。
「僕はウェンディスを誤って殺しちゃったり、雑貨屋で軽く買い物したりしかしてないんだけど……」
あとは魔物退治を見てたくらいだ。
「いえ、そうではありませんよ? 前の兄さまも兄さまと同じように、私に対して色々な攻めをしていたってことですよ」
そう言って上品にクスリと笑うウェンディスだが……台無しだ! 言っていることが変態的すぎる!!
「君にはお兄さんがどういう風に見えていたの!? それと僕をどういう風に見ているの!?」
「どういう風にって……こんな所で恥ずかしいです。兄さま」
「そこで恥じらうの!?」
何を思い浮かべたのかは知らないけど、恥じらいがあるのならば公衆の面前で
「それじゃあ仕事とかは? というかお父さんやお母さんは居ないの?」
ウェンディスの家で寝たが、そういえば両親の存在は無かった。
仕事に出たりしていて、居ないのだろうか?
「お父様とお母さまは……随分前に亡くなりました」
ウェンディスが顔を伏せ、悲し気に言う。
しまった! 今まで話題に出ない時点でその可能性を考えておくんだった!
「ご……ごめん。変なこと聞いて」
「いえ、いいんです。むしろ私から話すべきでした。
兄さまにはお父様やお母様のようにはなって欲しくないですし」
お父さんやお母さんのようになって欲しくない?
「どういうこと?」
「実は……お父様とお母さまは打倒魔王を目指していたんです」
初耳だ。
「お父様とお母さまは冒険者で、その冒険の果てに恋に堕ちたそうです」
おお、心躍る展開だ。
「でも……魔王に……」
そこまで言って、ウェンディスは口を
そうか……魔王に挑んで……返り討ちにあったのか……。
お父さんとお母さんのようにならないでほしいっていうのは、僕に魔王と戦うような変な気は起こしてほしくないって事か。
「ウェンディス……」
どう声をかけた方がいいのだろう……。
僕は今でも魔王を倒す勇者になりたいと願っている。
僕のクラスは村人かもしれないけど、それでも一応異世界からの転生者だ。
だから、僕でも魔王を倒す勇者になれるかもしれない。なりたい。
でも、ウェンディスがそれを望んでいないのだとすれば僕はどうすれば……。
「僕は……ウェンディスのお父さんとお母さんは正しかったと思う」
ウェンディスのお父さんとお母さんは冒険の果て、魔王に向かっていったんだ。平和のために。
たとえ結果が伴わなくても、その行為自体は誇らしいもののはずだ。
「だから僕の気持ちとしては……ウェンディスのお父さんやお母さんのようにチャレンジする人間でありたい。そう思っているよ」
そう言って、ウェンディスに向かって笑いかける。ウェンディスは僕の方をゆっくりと向き、
「はぁ?」
クズを見るような目をして、僕の事を見つめていた。
「ゴミいさま。それは本音ですか? 冗談にしても笑えないのですが……」
……おかしい。どういうことだ。あれほど僕の事をいつも輝かしい笑顔で見ていたウェンディスの顔が、今は養豚場の豚を見つめるかのような顔へと変貌している。なぜだ!
「えっと……魔王に立ち向かっていったウェンディスのお父さんやお母さんの行動は誇らしい事だと……思うんですけど……うん」
誇らしい事だと思う……んだけどなぁ……僕は何を間違えた?
「ん? ……あぁ、そういう事ですね。兄さま兄さま。私たちの両親はそんな素晴らしい人間ではありませんよ?」
先ほどの嫌悪の眼差しはどこへ行ったのかというレベルでウェンディスの表情が柔らかなものに戻る。良かった。正直あんなゴミを見るような目で見られ続けていたら僕の心がポッキリ折れていたよ。
「素晴らしい人じゃないっていうのはどういうこと? 平和のために魔王に立ち向かったんじゃないの?」
「兄さま兄さま。私はそんな事言っていません。正確には”魔王に立ち向かおうとしていた”です」
「ん? 途中で挫折したって事?」
たとえそうだったとしても、無理はないと思うけど……相手は魔王だし。
あれ? でも魔王に立ち向かったんじゃないのなら、なんでウェンディスの両親は亡くなったんだろう? 道半ばで命を落としたとか?
「お父様とお母さまは……魔王を倒すために……装備を整えようとカジノにハマりこみ……」
なんだか話がおかしくなってきたぁ!!
「しかし、お父様とお母さまは運に恵まれず、全財産を使い果たし……亡くなりました」
クズだ! 本物のクズだ!!
ん? でも……。
「亡くなったって……ギャンブルで負けてなんで死ぬの?」
ギャンブルで負けるだけで命を落とすようなことは普通、無いと思うんだけど……。
「お父様とお母さまは言ったそうです。
『ギャンブラーたるもの! 最後は華々しく散ろうではないか!』と」
「どうしようもないクズだねぇおい!!」
魔王を倒す云々はどこへ行ったというのか。もう冒険者じゃなくてギャンブラーになってるじゃないか!?
「あんなギャンブルジャンキーと同じような道を兄さまには歩んでほしくないんです!」
「言われなくてもそんな道歩まないよ!!」
僕はそんなにクズじゃないつもりだ。
「あれ。でもウェンディスは冒険者の間で生まれた子供なんだよね? それがなんでこの村の村人に?」
普通、冒険者の子は冒険者じゃないの?
「お父様とお母さまはこの村でしばらく過ごしていたんですよ。その間に私と兄さまを作って、子供の未来の為にもお金が必要だと行って私たちを置いてカジノの町へ……」
「モノホンのクズだぁ!!」
大切な子供の為にすることがカジノとは……クズの発想は理解できない。
「そして帰ってこないお父様とお母さまの事など当てにせず、私と兄さまはこの村で働いて幸せな家庭を築いたのです。めでたしめでたし」
「めでたくないし、そんな事実はない!!」
それが仮に事実だったとしても、悲劇でしか無いだろう。いや、喜劇かもしれないが。
「……もういいや……。ウェンディス。この村に武器屋ってある?」
今日の朝、僕の目の前に舞ってきた紙に書いてあった事を思い出し、僕はそう尋ねる。
”武器や防具は武器屋じゃないとはずせませんよ”
「兄さま兄さま。顔に青筋が浮かんでいらっしゃいますけどどうなさったのですか?」
おっと、いけないいけない。あの紙の事を思い出して少しイラついてたみたいだ。
「いや、なんでもないよ。それで、武器屋ってあるの?」
「はぁ……まぁありますけれど……行くんですか?」
おや? なにか煮え切らない感じだなぁ……。
出来れば行きたくないというのがウェンディスの表情から伝わってくる。
「別になにかを買うわけじゃないよ? ただ、まだ行ってないところだし行きたいなあって」
「確かにこの村で兄さまが行っていない唯一の場所ではありますけれど……そうですね。行きましょうか」
意を決したような顔をして、ウェンディスは僕の手を取って歩く。
僕がお金を使うつもりなのが嫌ってわけじゃないのかな?
武器屋に一体なにがあるというのだろう?
それともただ単に武器なんて血なまぐさい物を商品としているところに行きたくないって事かなぁ。
この時の僕はまだ知らなかったんだ。
自らが危険地帯へとフルダイブしようとしている事に……。
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