第14話『どこのスー〇ーサイヤ人!?』

「貴様のような盗人が我の商品に触れおってぇ!! 許さぬ……許さぬぞぉ!!」


 ギルクさん? と思わしき人がそう叫びながら忍者っぽい人との距離を詰めていくのだが……あれ誰?


 ちなみに僕がギルクさん? に対して誰と言っているのは、口調が変わったからとかではない。

 変わっているのだ。

 先ほどまで黒く染まっていたギルクさんの短髪は、今は黄金に輝いていた。

 これは……どこのスー〇ーサイ〇人?


「そぉらぁ!! 欲しかったのであろう!? 我が商品を欲するあまり盗みを働いたのであろう!? さぁ!! ありがたく受け取れぇぇ!!」


 そうしてギルクさん? はどこから取り出したのか。ハンマーやアックス、剣などの様々な武器を宙へと出現させ……忍者っぽい人へと放った。


「プロテクション・イージス! 効力最大!」


 衝撃が訪れたのは、ウェンディスが防御の結界を張ったのと同時だった。


「ぬぉぉぉぉぉぉぉ!!」


 ウェンディスが防御の結界を張ってくれている……はずなのに僕の体を衝撃が駆け抜ける。

 ギルクさん? が武器を放った瞬間。僕の視界は白に染まった。気を失ったとかではない。こうして衝撃に耐えている間もその白の世界は続いているのだ。

 次第にその白は収まっていく。その中で気づいたが、白の正体はまばゆい閃光だった。

 視界全てを満遍なく覆っていたので、そうとは気づけなかったが……。


 そうして収まった僕の視界の中には……ギルクさん? の姿と、武器屋と……地形の変わった大地があった。


「うぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!???」


 なに!? いったい何が起こったの!? え!? 今のギルクさんっぽいあの人がやったの!? あれ本当にギルクさん??


 地形が変わってるんだけど!? もう忍者っぽい人の姿が消えてるんだけど!? 消し飛んだ!?


「クハハハハハハハハハハハハハハ!! 他愛もないわ俗物がぁ!! 盗人には相応しい末路よなぁ!」


 高笑いしているあの人は本当に誰!?

 そうしてギルクさん? を見つめていると、先ほど彼を見たときと同じステータスが、


★ ★ ★


 ギルク・ガーランド《裏》

 5歳 男 レベル:不明

 クラス:ウェポンマスター

 筋力:1

 すばやさ:1

 体力;1

 かしこさ:1

 運の良さ:1

 魔力:1

 防御:1

 魔防:1

 技能:ドッペル・武器投擲EX・所持武器攻撃力上昇EX・所持武器耐久上昇EX・所持武器瞬時格納・武器創造EX


★ ★ ★


「誰だぁぁ!!!???」


 同じステータスなんて現れなかった……っていうかホント誰!?

 ギルク・ガーランド《裏》って何!? いったいどこから出てきたんだよこの野郎!!


「ギルクさんは店の商品が盗まれるとああやって性格が変わってしまうんですよ。ああなったら犯人をその手にかけるまで止まりません」


 どこのバーサーカー!? 二重人格という奴かな!? いや、持ってる技能とかも変わってるっていうのは納得いかないんだけどぉぉ!!


「我が商品が欲しければ正当な対価を払う事だなぁ! フハハハハハハハハハハハハ……は……は……あれ?」


 ギルクさん? は周りをキョロキョロとし始めた。

 そして僕の目に映るギルクさんのステータスも元に戻った。


「どうやら戻ったようですね。降りましょうか兄さま」


「う、うん……」


 そうして僕とウェンディスは変わり果てた大地へと立つギルクさんの元へと降りて行った。


★ ★ ★


洒水しゃすいさん、ウェンディスさん……また僕はやってしまったみたいで……本当にすみませんでした!!」


 ギルクさんは僕とウェンディスの顔を見るなり、頭を下げた。 


「いつもの事ですし、いいですよ。ね? 兄さま」


「う、うん」


 いつもこんな感じなの?


「ありがとうございます! まったく……もう1人の自分は周りが見えなくなってしまう傾向にあって……本当に申し訳ないです」


「まぁ元はと言えば盗人であるあの人が悪いんですし、気にしなくてもいいですよ」


「そう言っていただけると嬉しいです。本当に……お客様として来てくれたら歓迎なのですが、ああいう人たちの方が多いのは勘弁願いたいです」


「え? そんなに盗人来るの?」


「ええ、ほぼ毎日」


「毎日!?」


 なぜそんなに頻繁に来るんだろう? あれだけ強いギルクさん《バーサーカーモード》が居るのに……自殺志願者か何かかな?


「ギルクさんのお店では伝説級の武器の数々を売ってらっしゃいますからね。仕方ないと思います」


「この付近の魔物は強いですからね。特に魔王の住む城がすぐ近くにあるのです。それに挑む冒険者の方や勇者に良い物をと考えて売っているのですが……なぜこんなことに……はぁ」


 そう言って肩を落とすギルクさん。というか伝説級の武器の数々ってそんなに凄いの?


「あの盗人が盗もうとしてた武器も凄いの?」


 気になったので、ギルクさんに質問してみる。

 彼は「ちょっと待っててくださいね」と言って盗人が居たあたりの剣を取る。あれだけの衝撃を受けたのにその剣無事だったんだ……凄いなぁ。


「あー、これはエクスカリバーですね」


「聖剣!?」


 ホントに伝説級だった!! なんでそんなものがお店に売ってあるの!?


「あれ? 洒水さんが前来た時にも無かったでしたっけ? 新しく入荷した奴だったかな……。どうです? 久しぶりに他のも見ていきませんか? まぁ今更洒水しゃすいさんが欲しがるような物はないと思いますが……」


 一瞬、ギルクさんは僕がエクスカリバーを見て驚いたことに疑問を覚えたようだ。

 まぁ彼の中で勝手に解決したみたいだし特に口を挟むこともないだろう。


「うん。じゃあ他のも見ていこうかな。でも今更僕が欲しがるようなものはないっていうのはなんで?」


「だって洒水しゃすいさん、以前僕の店で買った剣を持っているでしょう?」


 そう言ってギルクさんは僕の腰に刺さっている剣を指さす。

 

「え? この剣? そんなに凄いの?」


 この剣はこの世界に元々いた洒水しゃすいの物だ。だから、僕はこの剣の事を知らない。

 いや、まぁ素人目で見て業物じゃないかな? っていうくらいには良さそうな剣だったけど。


「自分の持ってる武器の事くらい覚えておいてくださいよ~」


「ご、ごめん」


 ギルクさんは僕がただ単純に忘れているだけだと判断したようだ。


「それで、その剣が凄いかどうかでしたっけ? そりゃ勿論すごいですよ。

 剣の銘はフロッティ。刺突をするのに最も適した剣ですね。刺突の威力を上昇させる効果、刺突のスピードを上げる効果、刺突の命中力を上昇させる効果があります」


 ”フロッティ”か。聞いたことのない名前だなぁ。さっきのエクスカリバーとかの方が凄そう。

 それに、刺突ばっかなんだけど……そんなに前の洒水しゃすいは刺突が得意だったの? というか見る感じ普通の剣なんだけど……。刺突に向いてるとは思えないんだけど……。

 そう思って、僕は”フロッティ”を抜いてみる。

 やはり、特に代わり映えしない剣にしか見えない。1メートルくらいの長さの剣。


「突き刺すものよ。今こそ我が意に従いその姿を現せ」


「え?」


 隣で今まで黙っていたウェンディスがいきなり変な呪文? を唱える。しかし、何も起きない。


「ウェンディスさん。あなたが唱えても意味が無いですよ? 使用者である洒水しゃすいさんが言わないと形状変化はしないです」


「うふふ。そうでした」


 そんなやり取りが僕の目の前で繰り広げられる。え? この剣、形が変わるの? なにそれかっこいい。

 えーと、確か……、


「突き刺すものよ! 今こそ我が意に従いその姿を現せ」


 瞬間、剣がうなり声のような物を上げながらその姿を変えていく。なにこれ怖い。

 そうして剣の形がグニャグニャ変わって最後には……先端がレイピアみたいに細く、柄の辺りが蛇のようにグルグル状態になっている剣が出来上がった。

 色も変わっており、”フロッティ”は真っ黒な剣へと変貌していた。禍々しい感じがするけど凄そうな剣だ……。

 長さは元の1メートル程度だがなるほど、確かに刺突に向いていそうな剣だ。


「兄さま、不用意に突きの動作をしないでくださいね。しようとも思ってはダメですよ」


「え? なんで?」


「洒水さん、さっき言ったじゃないですかぁ。刺突の命中力を上げる効果があるって。最近使っていないんですか?」


「え? ……うん。そうなんだよ。最近は使ってないかな」


 なんで命中力を上げる効果があったら不用意に突こうと思ったりしちゃダメなの?

 とは思いはしたものの、本来の洒水しゃすいなら知らなくてはまずい事っぽいので、聞くような事はしない。


「兄さま兄さま。それでは試しに使ってみてはどうですか? サモン・ゴーレム」


 ウェンディスはそう言って魔法を唱える。その魔法に従い、地中から1体の石の塊、ゴーレムが姿を現した。


「最近使っていないのであれば大丈夫かもしれませんが、傷んでいないかなどチェックした方がよろしいと思います。傷んでいればギルクさんに直してもらえばいいですし。

 いいですよね? ギルクさん」


「ええ、勿論です」


「それと……プロテクション・イージス!」


 ウェンディスは僕から離れ、ギルクさんの元まで行くと、彼と自分に防御の結界を張った。なんで?


「あの……ウェンディスさん。これは?」


「何でもありません。ささ、どうぞ。兄さま」


 結界の向こう側からウェンディスが僕に早く剣を試すように催促してくる。ギルクさんにもウェンディスがなぜ防御の結界を張ったのか分からないようだ。当然、僕にも分からない。


「ま、いいか」


 この世界で僕がどれだけ戦えるかと言うのは実は気になっていた。それを試す絶好の機会だ。

 相手はウェンディスが生み出した身動き一つしないゴーレム。チュートリアルとしてはちょうどいいだろう。


「いくぞぉ!」

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