第2話『村人……ですか?』



「えっと……確かさっきの声はよその世界で勇者でもなんでもやってこいって言ってたよね……ってことはこの世界で僕は勇者?」


 そう言って僕は自身の体を見下ろしてみる……が、


「……え? 何このぼろい服……それにこの草履ぞうりといい、これじゃ

まるで村人じゃないか……」


 そう、僕の姿はRPGのゲームなどでよく見る村人の姿そのままだった。

 しかし、よく見ると違う部分が1つだけあった。それは……、


「お! 剣とか持ってるじゃないか僕」


 僕は腰にぶら下げている剣を抜き放ってみる。

 剣について詳しいわけじゃないけど、きちんと手入れされているし、錆びひとつない。なかなかの業物じゃないだろうか?

 そう思っていた時だった。


「おーい、豊友ほうゆうさん」


「ん?」


 僕を呼ぶ声が聞こえる……振り返ればいかにも村人! という感じの若い男性が焦った感じで僕の元まで駆け寄ってきた。


「探したよ豊友ほうゆうさん! また魔物が襲ってきた! 来てください!」


「……任せろ!!」


 なんだか分からないままに僕は呼びに来てくれた村人の後についていく。

 え? もっと混乱するべきだって? 勇者は魔物なんて恐れないのさ!!

 武器屋や宿屋と書いてある建物を通りぬけて僕は村の外れと思われる場所へとたどり着いた。

 そこもRPGっぽく木製の柵で覆われているだけで、実に分かりやすい。

 村の外はただ荒れ果てた大地が広がっているだけだった。


「おお、洒水しゃすい。来たのかこの野郎」


 その場には満面の笑顔で大型のアックスを片手でクルクルとまわして遊んでいる巨漢の男が居た。


「あ、どうも」


 そういえばなぜこの人たちは僕の名前を知っているのだろう? というか知らない人に対する反応じゃないよね?

 今更疑問を持つな! という声がどこかから聞こえた気がするが気にしないことにしよう。


「ああ、レンディアさんも居たんですか。じゃあ僕は豊友さんを呼ばなくても良かったですね」


 僕をこの場へと導いてくれた村人A《命名》が巨漢の男へと話しかける。

 どうやらこの大男はレンディアというらしい。


「おう! 洒水しゃすいにばかり頼るわけにゃあいかねえからな! お前ももっと働けよ!」


「うーん、そうですね! 僕もたまにはやりますか!!」


 そう言って背中から鉄製のクワを抜いて手に構える村人A。


「……え?」


 いやちょっと待って? 戦うの? 村人A?

 このレンディアっていう人はなんか歴戦の猛者っぽいけど君は普通だよね? 平凡だよね? 戦うの? マジで?


「ゴガアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」


 僕が混乱していると、人間が出せないような咆哮ほうこうが響いてきた。


「魔物か!?」


 僕は腰に下げた剣を抜き放つ。

 さぁ!! スライムだろうがゴブリンだろうがかかってこい!!


「来たぜ! ドラゴンだ! レッドドラゴンじゃあねえのか……残念だな」


「レンディアさん! どちらが先にあいつを倒せるか勝負しませんか?」


「乗ったぁ! 負けた方は一杯奢おごりな! おい洒水しゃすい! 手ぇ出すんじゃねぇぞ! 行くぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」


 そう言ってレンディアさんと村人A?はドラゴンに向かって突貫していった。


「………………………………………………え?」


 その場に立ち尽くす僕。っていうかそれしか……ないじゃん?

 ゴブリン? スライム? なぁにそれぇ? ドラゴンなんだけど……

 全長5メートルくらいありそうなドラゴンなんだけどぉ!? うろことか堅そうなんだけどぉ!!

 ドラゴンって最後の方に出てくる魔物じゃなかったっけ?? こんな序盤に出てきちゃダメでしょ!? まだチュートリアルすら終わってないんだよ?


「いや! そんなことを言ってる場合じゃない」


 そうだ! レンディアさんは見た目的に戦えそうだから大丈夫だろうけどあのいかにも普通そうな村人Aがドラゴンに立ち向かうなんて自殺行為だ!

 そう思って僕はドラゴンに向かおうと、


「オラァァァァァァァァァァ!! とっととくたばれやぁぁ!!」


 大型のアックスでドラゴンの翼をズタボロにするレンディア。


「ひゃーっはっはぁ!! 痛い? ねぇ痛いぃぃぃ? きゃははははははははは!」


 そのクワでドラゴンの眼球をえぐり取っている村人A。


 2人はドラゴンを圧倒していた。


「……………………………………………………え?」


 僕は目を疑った。そりゃそうだろう。あんな平凡そうだった村人Aさんがあんな嬉々としてクワを振り下ろしているじゃあありませんか?

 僕の知ってる村人はドラゴンを倒せるほど強くないはずなんだけどなぁ……。

 そう思いながら僕は目をこすって2人の様子を見つめてみる。すると、


★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★


 ドグラジット・レンディア《男》


 レベル:なし

 クラス:村人

 力:586

 すばやさ:259

 たいりょく;528

 かしこさ:10

 運の良さ:224

 攻撃力;689

 守備力:248


★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★


 レデック・ポレスター《男》


 レベル:なし

 クラス:村人

 力:245

 すばやさ:328

 たいりょく;234

 かしこさ:216

 運の良さ:138

 攻撃力;189

 守備力:168


★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★


 ドラゴン《オス》


 レベル:83

 クラス:魔物

 力:148

 すばやさ:128

 たいりょく;150

 かしこさ:170

 運の良さ:8

 攻撃力;128

 守備力:168


★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★


 戦っている人たちのステータスっぽいのが見えた。

 見えた……んだけど……


「村人ぉ!!??」


 僕はレンディアという大男のステータスを見て何度もその部分を確認する。


 クラス:村人


 うん……間違いなく村人って書いてあるね……。

 そこには大型のアックスを手足のように振り回してドラゴンを圧倒しているレンディアの姿があった。


「いやおかしいよね!?」


 なんであのナリで村人なんだよ! あんなのバーサーカーとかモンクとかそんなんでしょ普通!? あんな村人居るかぁ!! いや、でも居るね、目の前に。うん、そういう問題じゃない!!


 っていうか……


「これはドラゴンのステータスが低い……ってわけじゃあないんだろうなぁ」


 戦っている村人2人のステータスはドラゴンよりも高い。正直1対1で戦ったとしても普通に倒せるんじゃないかというレベルだ。


「これで終いだぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


「グギャアアアアアアアアァァァァァァァ」


 レンディアがその大型のアックスをドラゴンの脳天へと振り下ろし、そのドラゴンは動きを止めた。っていうか死んだね。


「おっしゃぁ!!」


「負けたかぁ……。さすがに僕とレンディアさんじゃ与えられるダメージが違いすぎて厳しいですねー」


「賭けは賭けだぜ?」


「分かってますよ! この後空いてますか?」


「おう! こいつを片してからBARとしゃれこむとすっかぁ!」


 そう言って村人A《レデック》とレンディアは倒したドラゴンの鱗をその体から引きはがし始めた。


「え!? ちょ!? 何やってんの?」


 僕はその行為に驚きながら、2人に駆け寄る。

 もう止めて! ドラゴンのライフは0だよ!?


「? 何言ってんだ洒水しゃすい? そんなもん剥ぎ取りに決まってんじゃねぇか?」


「剥ぎ取り!?」


 え? なにそれ? モンスター〇ンター? 


「レッドドラゴンだったら嬉しかったんだがなぁ。ドラゴンの肉はどうにも固くていけねぇ。旨いは旨いんだがレッドドラゴンの肉と比べるとなぁ……」


「え!? 食べるの!?」


 え? ドラゴンを食べるの? 村人が?

 農作物とかじゃあないの!? お野菜とかじゃあダメなの??


「えっと……畑を耕したりしないんですか?」


 村人A《レデック》がクワとか持ってたし畑はあると思ったんだけど……。


「本当にどうしたんだ洒水しゃすい。ここら辺の畑を耕す意味なんてねぇだろうが。あの魔王城から溢れ出してる瘴気しょうきでここら辺の畑から生命の輝きは失われてるんだから」


 あー、そういう設定ね……。

 いや、それでも村人がドラゴン倒してその肉を食べるのはおかしいと思うけど……。


「ん? あの魔王城?」


 僕はレンディアがある方向を指し示しているのに気づく。

 その方向には時代劇で出てくるようなお城があって……ん?


「もしかして……あれが魔王城?」


「そうに決まってんだろうが。本当に大丈夫か? 洒水しゃすい


 ここから数キロ離れているだけの距離にある城を指さして僕が尋ねるとレンディアはそう答えてくれる。

 そうか……あれが魔王城か……


「近っ!!!???」


 なんでこんなに近いの!? おかしくない!? おかしいよね!?

 もうチュートリアルとかじゃなくてラスト間近じゃないか! 始まりの町は!? ここ終わりの町だよ!? ねぇ!?


「あの魔王城から溢れ出てる瘴気しょうきが無くなればもう少し楽に生活できるんだがなぁ……。勇者様が早く魔王を倒してくれることを願うぜ」


 レンディアがため息をつきながら、そんなことを言う。


「勇者様?」


 僕の事かな?


「ああ、確か今日あたり召喚の儀式をやってるんじゃなかったか? 魔王に支配されたこの世界を救うために」


 レンディアが軽く説明してくれる。あれ? 遠くの方を見てるぞ? おーい! 勇者はここだぞぉ!


「……まさか……」



 嫌な予感がしたので、僕は抜いたままだった剣を見つめる。

 そこには剣に映る僕の姿。

 その姿は、この世界に来る前の僕のままだった。来ている服や持っている剣などは違うが、体だけは僕のままだった。

 そのことに軽く驚きつつ、僕はその姿を凝視する。

 そうしていると、先ほどのレンディア達を見ていた時のようにステータスが浮かび上がってきた。


★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★


 豊友ほうゆう 洒水しゃすい《男》


 レベル:1

 クラス:村人 ■■■

 力:397

 すばやさ:681

 たいりょく;578

 かしこさ:387

 運の良さ:1

 攻撃力;628

 守備力:478


★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★


 「…………………………………………」


 僕はそのステータスを見て、絶句していた。

 なぜかって? そんなのは簡単さ。

 突っ込みどころが色々あるステータスだったけど、僕が一番突っ込みたいところはここだ。

 それは、



「村人かよ僕はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 豊友ほうゆう 洒水しゃすい。異世界まで飛ばされて、村人の役割を押し付けられた瞬間であった。


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