村人ってなんだろう……
第1話『異世界召喚?』
「ユーシャー」
下校途中、僕は後ろから聞こえる声に立ち止まる。
そし振り返り、
「やあ、エルジット」
「やあ、じゃないよ。なんで待っててくれないの?」
「いや、なんか男子に囲まれて忙しそうだったし……」
「ユーシャ以外の男子に囲まれたって困るだけなんだから助けてよ!」
「困るって……それ聞いたらみんな泣くから言わない方がいいよ?」
「ユーシャ以外興味ないもん!」
そう言って僕に抱き着いてくる少女。名はエルジット・デスデヴィア。
黄金に輝く髪は腰まで伸び、体はその……胸以外すらりとしている。そう……僕の右腕に押し付けている胸以外。
身長は昔は僕よりも小さかったのに、今では僕と同じ160センチくらいまで成長していた。
ちなみに彼女の言っている”ユーシャ”とは僕のことだ。と言っても小学生の頃のあだ名で、今でもそう呼んでいるのは彼女くらいだけれど……。
僕の名前は
まぁ普通なら嫌がる名前だけど、僕はそんなに嫌っていない。
なぜなら僕の夢は勇者になることだからだ。
高校生にもなって何を言ってるのかと思われるかもしれないけど、僕は本気だ。
両親からも勇者のように、周りを引っ張っていくようにと言われ続けてきた。だからこそ両親はこのような名前を付けたと聞いたことがある。
「今日はユーシャの家に行ってもいい?」
「いや……エルジットは確か今日ピアノの
エルジットはイギリスからの帰国子女で、お嬢様だ。
彼女が僕にこれだけ懐いてるのは、彼女がまだ日本に来て間もないころ、
それ以来、僕に懐いてくれている。
「じゃあピアノ壊したらユーシャの家に行ってもいい?」
「いけません!!」
エルジットは僕よりも頭がいい。家庭教師もいるみたいで、ハイスペックお嬢様なのだが、なぜか今のように常識の欠けている発言を時折……いや、よくする。
「じゃあユーシャが私の家に来てよ!」
「……いや、やめとくよ」
「なんでよーー!!」
「なんでかは……言えないんだ!」
あれはそう……10歳の頃だったか……。
初めてエルジットの家に呼ばれたとき、エルジットがお手洗いか何かでいなくなった時のことだった。
「てめぇか……勇者とか呼ばれてお嬢様に粉かけてる野郎はぁ!!」
その時の僕は全く反応できないまま、口を白い布で
相手の姿は見えなかった。声の雰囲気から男っぽかったが、それしか分からなかった。
「いいか? てめぇが死ねばお嬢様は悲しむ。だから殺しはしねぇ。だが、てめぇがお嬢様に手を出せば……その粗末なモン。切り落とすからなぁ! 分かったかごらぁ!」
僕は首を縦に何度も振った。その時の僕は粗末なモノが何かとかは分からなかったけど、逆らう勇気なんて
「ならいい。それと、この事をお嬢様に言うんじゃねぇぞ! 俺はてめぇをいつでも見てるからな……」
そう言って声の主は消えた。
以来、僕はエルジットの家に行っていない。
だって怖いじゃん! 勇者目指してても怖いものは怖いんだよ!
っていうか絶対あれその筋の人だったよ! 子供の頃とは言え、僕に姿を見せないまま脅迫するとかさぁ!!
子供の頃の恐怖というのは後に響く。
もう僕の頭にはエルジットの家=怖いの公式が出来上がっていた。
「僕が言ったらエルジットはピアノの
「むーーー。わかったよう」
エルジットは不満たらたらだったが、了承してくれた。うんうん、これで今日も1日平和だ。
とか話していたら、僕の家までたどり着いていた。
エルジットの家は、そこから徒歩5分くらいのところだ。
「それじゃあまた明日ね。エルジット」
「うん。お邪魔しまーす!!」
「待てい!!」
しれっと僕の家に入ろうとするエルジットの手を取る。
エルジットは頬を赤らめながら、
「もう、ユーシャ……まだお外なのに恥ずかしいよ……」
「何案違いされそうな事言ってるの? 今日は僕の家ダメだって言ったよねぇ!? 帰って! 今日は帰って! ゴーホーム!!」
「ゴーホーム? 行け! お家へ! ってことね? じゃあ遠慮なくお邪魔しまーす!」
「ちっがーーーう!! 帰れ! って言ってるんだよ!? イギリス生まれだから僕よりも英語分かるはずだよねぇ!?」
「日本人の発音って聞き取りづらくて……」
「聞こえてたよね!? ちゃんとゴーホームって聞こえてたよね!? ほら。家の人も待ってるだろうから早く帰りなさい!」
「はーい」
そう言ってエルジットは彼女の家に帰っていった。
まったく……基本的に優秀なはずなのになんで僕の前だとあんなのになるのだろうか……。
僕は首を傾げながら、自分の家へと入った。
現在、18時。
僕は自分の部屋でゲームをしていた。
よくあるRPGだ。勇者が邪悪な魔王を倒すよくある物語。
高校生にもなってこんなゲームをやっているなんて子供っぽいと言われるかもしれないが、僕はこういうゲームが大好きだ。
自分もこういう勇者になりたいと本当に思う。
思うのだが……、
「現実じゃあそうはいかないよねぇ」
現実にはわかりやすい悪なんていない。
そりゃあ子供の頃はそういうのはハッキリしていたさ。イジメにしても、誰かが誰かを殴ってるとかそういう分かりやすいものだ。時には威張り散らしている上級生を相手にすることもあった。
しかし、年を重ねるごとに悪は分かりにくくなっていく。
イジメは陰湿化して、だれがやってるのか、誰がイジメに遭っているのかすら分からなくなる。これでは立ち向かいようがない。
僕は求めているんだ。分かりやすい悪を。それこそ、魔王みたいな分かりやすい悪を。
勇者には、それを倒す魔王が必要なんだ。
「こんなゲームみたいな世界だったらいいんだけどなぁ」
そう呟いた瞬間だった。
突如、画面から白い手が伸びてきた。
「え!?」
え? 何? ホラー!? 貞〇さん!?
考える間もなく、その手は僕の制服の
「え!? なにこれ!? 本当に幽霊!? やっぱり貞〇さん!?」
呪いのビデオなんて見てないよ!? 帰って!? 頼むからかえって!?
「そんなに私の世界が嫌ならよそに行けーー!! そこで勇者でもなんでもやってこーーーーーーい!!!!」
突如テレビの中からそんな声が聞こえてきた。
女の人の声? そんなことを一瞬考えたが、僕を掴む手はそのまま僕を持ち上げ、テレビへと放り投げた!?
「え!? いや!? ちょっと待って!? ぶつかるぶつかるぶつかる!! うわあああ!」
来るであろう衝撃に備える僕。
しかし……いつまで経っても衝撃は来ない。
恐る恐る僕は目を開けてみる。そこには……
「へ?」
紫色の雲に覆われた空。古い木造の建物。水車。荒れた田畑。
高い建造物も何もなく、まさに”村”という光景。
「……なんでやねん」
僕はその光景、自分の状況に突っ込まずにはいられなかった。
画面から聞こえた声とこの状況から判断するに、僕は……、
「異世界召喚されたって事……だよね? いや、むしろ異世界に捨てられた?」
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