仲間
第24話 一年後
あの後、私たちは死んだと思っていた__。が、少し経った後に目を覚ましてしまったのだ。
「おそらく、ラールド達は、もう少ししたら私たちの死体を回収しにくるでしょう。だから、その間に逃げなければせん」
私たちは全力で逃げた。二人で逃げた。
やっと、王都に帰ってきた日には、もう、遅かった。都は占拠され、サルバドール国の手に渡ったと知った。それから、私たちの国の者たちは、サルバドール国の者になった。
一年後 ヴェルソビア村
『コンコン』
古びた木の扉を叩く音がする。
「はーい!」
私は急いできしむ扉を開ける。そこにはお鍋を持った隣の隣の家のおばさんがいた。
「おはよう、レイラちゃん! 昨日作った鍋が残っちゃってね、食べるかい?」
「はい、ありがとうございます!」
「若い頃はたくさん食べないとね〜。じゃあ、またね」
おばさんは帰って行った。
「どうしたのですか?」
カムレアが隣の部屋から出てくる。
「隣の隣の家のおばさんに残り物のお鍋もらった」
「へぇ」
あの後、私たちは急いで王都を出た。私とカムレアが生きているということが知られたら殺されるからだ。
そして、魔法の勉強をして、姿を変える方法を学んだ。だから、今の私は白髪の少女、『キャスリーン・ガルシア』では無い。
金髪に見えるようにしたのだ。もちろん魔法だから、私が魔法を解けば白髪に見えるようになるけれど。
そして、名前も改名した。私の名前は一年前から『レイラ・スカーレット』になった。
そして、必死で逃げた先に、山をいくつか越えた後にある、このヴェルソビア村に着いた。今はこの村で厄介になっている。といっても、村の人たちはもちろん、私たちの正体など知らない。いい人たちだから、巻き込みたくはないし。
私の目的はただ一つ。私たちの国を奪い取り、アリアナを殺し、ルーク様を殺した、サルバドール国に復讐することだ。それに、現在行方が分かっていない、第2皇子、第3皇子やミルド様、グレースさんの安否も気になる。
もしも、今でも生きてくれているならば、すぐにでも奪還しなければならない。だが、体制が整わない今、彼らを救える保証はないのだ。だから、今は耐えるしかない。
勿論、カムレアは荒事を好まないから、このことは話してはいない。あくまでも、私1人で実行する気でいる。
「カムレア、剣術の指導をつけてくれる?」
「はい、いいですよ」
私たちは庭に出る。庭といっても畑のスペースなのだが。
私は木刀でカムレアの肩を叩きつけようとする。が、すぐに受け身を取られ、いつのまにか、私の腹部の間近にカムレアの木刀があった。
「なっ……」
「まだまだですね、でも、だいぶ筋は良いと思います」
カムレアは笑う。
「なんでカムレアはそんなに強いの……?」
「まあ、誰かさんが礼法とかを習っている間にも、オレは体術と剣術をしていたんで」
「むっ……」
私たちは木刀をしまって、出かける準備をする。
「あのさ、カムレア。街、先に行っててくれない? 私、隣のあの山を一周走ってから行くから」
私たちは毎週一回、山の麓の街に出て、買い物をするのだ。
「あ、はい。了解しました。いってらっしゃい」
「うん!」
私は走って行った。
(山を一周分走るとか言ってる時点で十分化け物なんだけどな……)
カムレアは思う。
私は、この村に来てから1年間、毎日朝夜で二つの山を走ることを日課として位置付けている。そのおかげか、隣の山は30分程度で登って降りてこれるようになった。
「さて、今日も登りますか!」
***
私は登って降りて、また村から麓まで降りてきたので、もう今日はノルマが終わってしまった。
「お待たせしましたぁ〜」
私は街で待っていたカムレアに声をかける。
「ああ、お疲れ様です。では、野菜と肉を買いに行きましょう」
「うん!」
私たちは肉屋さんの前に行く。
「おじさん、安い肉ある?」
「おう! 今は豚肉が安いよ〜!」
「はい、では豚肉を1パックをください」
「50ミールだよ!」
ミールとはサルバドール国のお金の単位だ。
「はい」
カムレアは50ミールを手渡す。
「まいど!」
次に、私たちは八百屋さんに行った。
私は、林檎とにんじんとピーマンとじゃがいもを2つずつ、手に取る。
「あの、これをください」
「分かったわよ。えっと……」
おばあさんは計算しているようだ。
「(25+20+20+15)×2=160で160ミールです」
私はそう言い160ミールを手渡した。
「ありがとう」
そのまま私たちは街を歩く。どうせ村に帰っても暇だからだ。
「!……」
うわ、あの宝石綺麗だなぁ……。って! 王妃時代はたくさんあったけど、全部今はないんだから! 今は貧乏なの! 諦めなさい、私!
「……リ……レイラ様、自由時間にしませんか?」
カムレアが言う。
「え? あ、うん。別にいいけど……」
何するの? と聞こうとしたが、聞かれたくないから別れて行動するのだろう。気になるけど聞かない方がいいよね。
「じゃあ、1時間後にここに集合で!」
カムレアは走って行ってしまった。
「……」
何しよう。暇なんだけど……。
私はとりあえず、気になった宝石店に入ることにした。庶民のボロボロの服を着た私だから、初めは追い出されたりするかなぁ……。
とか思っていたけれど、そんなことはなく、むしろ誰もいなかった。古びた木でできたそこまで広くない家の中を改造して作った感じがする。
「て、店員さんまでいないとは……。盗まれたりしそうだなぁ。防犯カメラとかないし。大丈夫なのかな?」
少し不安になりつつも、宝石を眺める。
「これ綺麗ー!」
私は一つの宝石に目がいった。真っ青なサファイアだった。
「『あ、やっときたわね、お久しぶり……じゃなかった』……はじめまして、お嬢さん……」
急に、おばあさんの声に変わったため、驚いて店の奥の方に顔を向ける。
「ああ、いや、驚かせてしまったかね」
おばあさんがいた。この宝石店の主人のようだ。
「こ、こんにちは……」
「! お前は、あれか……!!!??」
急に、おばあさんはとても目を見開き、大声で言った。
え? なに?
「ど、どうしたんですか?」
「お前、お前は、キャスリーン・ガルシアだな!?」
なぜそれを……!
……おちつけ、私……。
「……『そう』と言ったらどうなさるおつもりですか?」
私はいつでも逃げれるように、重心を後ろに持っていく。おばあさんにバレないように……。
「お前、無事だったのか! これを、これを!!」
おばあさんはまた、奥に消えていった。
「??」
よくわからないが、逃げるなら今だ。私は店を速やかに出ようと、ドアノブに手をかける。
すると、パッと手を掴まれた。
「!」
「『どこに行くのよ、まだ話は終わっていないんだけど』……って! 終わってないぞぃ?」
「っ!」
あんなに遠くにいたはずなのに、一瞬でこっちに戻ってくるなんて……。何者? しかも声、明らかに変わったよね!?
「これ、あの方から、授かったのだよ」
おばあさんは、掴まれた私の手をひっくり返して何かを握らせた。
あの方?
その手に握られているのは、花の形で、花の中に宝石が埋め込まれているブローチだった。
「これは……?」
この花、どこかで見覚えが……。どこだ?
「渡すものは渡した。あの方の役目は果たした。では帰るとしよう。『んじゃ、またね〜』!」
おばあさんはそう言うと、後ろを振り向く。
そして、そのまま、消えたのだ。建物ごと、何もかも、ただの空き地に、私は立ち尽くしていた。
「???」
え、怖……。
***
気づいたらもう、1時間は経っていた。宝石店しか行っていないのに……。おかしい。明らかに体感的には15分も経っていないような……。
「こめん、遅れた〜!」
「はい、大丈夫です。では、帰りましょう」
私たちは家に帰った。
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