第23話 もう一度のチャンス

「え……? 団長……? あなた、がなぜ、ここに?」

私は動揺する。だって、あの……?


「リーンよ、貴様は愚かだ。言わなくても察しているであろうに……。まあいい、それはだな……俺はお前らの国に潜り込むために送られた、スパイだからである!」


「っ! そ、んな……」

「そうだなぁ、弟子たちからは"先生"なんて、呼ばれていたなぁ……」

 ラールド団長はニヤニヤと笑う。


「で、では、すべて、情報を流したのも貴方なのですか……?」

「ああ、そうだが?」

 ラールド団長が、戦争を始めるきっかけとなった人物。彼が情報を敵国に伝えなければ、伝えなければ、アリアナは……!


「っ! 貴方は私に剣を教えてくださりました。沢山の恩がございます。ですが、それはそれとして……

 お前は絶対に許さない……!」

 私はラールドを睨みつける。

「ふはははは! 貴様が俺に勝てると思っているのか!?」

「……」

 確かにそうだ。ヒールはもう使えない……。なのに、あのラールドに勝てるはずが……。


 すると、すぐさまラールドは剣を振り下ろした。

 っ! 反応が遅れた!!

『ドン』

 剣で流したはずだったラールドの剣撃は私の左足を斬っていた。

 激しい痛みが私を襲う。

「な、ぜ……こんな、ことを……」

 地面に倒れ込む。

「教え子の考えが見通せなくてどうする! ははは! もう逃げられんぞ!」

「っ……」


 私は必死で逃げようとするが足が斬られているせいで動けない。

「死ねぇ!」

 私は目をギュッとつむる。

 すると、『ガンっ!』という鈍い音が聞こえた。これは、剣と剣が合わさった時の音だ。


 声が聞こえる。


「目を開けて、堂々とするんだ、リーン。君ならきっと大丈夫」


「!」

 目を開ける。すると、そこにはカムレアがいた。

「っ! カムレア! 何をしているの?! 逃げて!」


「……何があったかは知らないですけど、あんたがこれ足の傷をやったのか?」

 カムレアは怒った顔つきでラールドに言う。

「ふふふ、カムレアが来たか! 無謀だな、お前なぞ、俺に一度も勝ったことなどない、愚図じゃないか!」

「……」


 そうだ。ラールドはこの国1の剣使い。勝てるはずがない……。

「逃げて!」

 私は叫ぶ。

「リーンを置いて、ここで?……無理だよ、リーン。彼はきっと、逃げようとしても背中を向けた時点で駄目なんだ」

「それは……」

 私は目を逸らす。


「相談は終わったか?」

 ラールドは素早くカムレアの後ろに回り込む。

「っ!」

 カムレアは急いで剣で受けるが、後方に吹き飛ばされた。


「カムレア!」


「ははは! だが感心したぞ、カムレア! 今の俺の一太刀を受けるとはな!」

「っ……」


「はは! ではお前、リーンを守らずいいのか?」

 そう言うと、ラールドは私に剣を振りかざすそぶりをする。

 遠くに飛ばされたカムレアには間に合わない。

「くそ!」

「はははははははは!」

 ラールドは本当に剣を私に振りかざす。

「リーン!」



『ガンっ!』

私は剣を受け止める。

「……いい加減にしてください! あなたは……ずっと、裏切っていたのですか!?」

 


「ほう。やはりお前は筋がいいな。こういうやつは、教えがいがあるってもんだ!」

 ラールドは笑う。




***




気がつくと、左胸を刺されて倒れている私と腹部を刺されて倒れているカムレアがいた。


瞬間的に、ラールドにやられたんだと理解した。が、周りを見渡しても誰もいない。


「ごめんね、カムレア……」

「なにも、君が悪いことはない。大丈夫、大丈夫」

 少し、カムレアは微笑む。

 嘘だ。大丈夫なわけないじゃん。

「助けに来てくれて、ありがとう……」

 涙が流れる。

「うん……」

 カムレアは目を閉じた。

 ああ、もう、カムレアは息絶えてしまったのだろう。


 私は最後の力を振り絞り、カムレアの手を握る。

「っ……」


 ああ、今わかった。きっと、私は、カムレアが好きだった。今更すぎるけれど、私は……。


「好きだったんだ……」

 不思議とラールドに復讐心は湧いてこなかった。ただ、情けない自分に涙がボロボロと流れる。


 ああ、私も、このまま死ぬのかな。お願いします、神様。また、チャンスを下さい。それなら、きっと……きっと……







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る