第22話 邂逅

私はやつら元に戻ってきた。奴らは人質が攫われたことに憤りを感じているようだ。

「くそ! 折角、上物の女を殺してまで、攫ってきたっていうのによぉ!」

「あの女も連れて帰りたかったなぁ……」

男たちは笑いながら話す。


こんな奴らに……。こんな、こんなこんなこんな!!

「……ふざけるな……」

声に出すつもりはなかったけれど、ふと、出てしまう。


「!? なんだ?」

私の声に反応して奴らはこちらを向く。

 私は声を出した反対側に行き、一番後ろの者の首を斬る。首の骨は硬いから斬りたくなかったのだけれど。しょうがないものはしょうがない。

私は思いっきり力を入れて男の首を斬った。

首が落ち、そのまま私は木の後ろに隠れる。

「!」

「何者だ!?」

「リンギルの首が落ちているぞ!」

 残りの4人はこちらにジリジリと近づいてくる。


 私は高く飛び、一人の男の肩に足を乗せ、そのまま首に剣を付け斬り込む。

「ぐわっ!」

男は悲鳴をあげ、倒れる。

 地面に着地した後、一人の顔を踏みその隣の男を斬りつける。


 残り一人の男は剣を構える。

「てめぇ、何者だ!」

 男は大剣を一振りする。私はその一太刀を受け止める。

 っ! 重い……。けれど……!

私は相手の懐に入り腹部を深く斬る。

そのまま、男は倒れた。



 誰もいない山奥で、男たち4人が倒れている。

ふと、体が崩れ、土に座り込んだ。力が抜けたのだ。アリアナを失った喪失感が溢れた。

「あぁぁ……ぁぁ!」

 目頭が熱くなり、声が掠れる。

「私は、私は……!」

顔に手を当てて森の中で泣き続けた。



***



 その後、すぐに、ルーク様が亡くなった。死因はやはり、あの、演説の時に来ていた男のかけた呪いのようだった。王権は一時的に弟のアーノルド・アークリーが受け継ぐことになる。


ルーク様の遺言が記されている遺書は、地下室にしまってあると、昔、彼に聞いた。だから私は、戦争を終わらせたら地下の鍵を開けて彼の遺書を見ようと、そう思い、鍵を服の内側にしまった。


 私はルーク様とアリアナの墓を隣にした。見晴らしのいい、綺麗な丘の上に二つ、墓石がある。

 ルーク様のものも、あえて豪華にしなかったのは、きっと、彼は王になどなりたくなかったのだと思ったから。ルーク様は、きっと、庶民に生まれて、普通に、幸せに、アリアナと……。


 たまに彼は、庶民の子供を見ると、とても羨ましそうな顔をするのだ。とても、辛そうな顔をしていたのだ。


「ごめんなさい、ルーク様。私、あなたを救うことはできませんでした。だから、せめて、あなたの人生が、『幸せなものであった』と願わせて下さい……」


私は手を合わせて目を瞑る。また、涙が溢れた。


***


 お祈りが終わり、ゆっくりと瞼を開ける。

すると、ルーク様の直属の部下であった、副官がこちらにやってくるのが見えた。

私は急いで涙を拭く。


「王妃様! 王様と庶民の墓を隣り合わせにするとは何事ですか!?」

 副官が言う。

「庶民? ああ、私の妹のことね」

「っ……。それは……」

副官はバツが悪そうに目を逸らす。

「私の妹は庶民だって? そう言いたいの?」

私は言う。

「いえ、なんでも……ございません……」 

副官はそのまま、何も喋らずにいた。



「……ありがとう」

私はそう、彼らに向けて呟いてから、花を置いて、城に帰った。



***



 奇襲作戦も大詰めに達し、ミルドたちは国に戻ってきた。


「ミルド様達、お疲れ様でした。では、このまま私たちが本腰を入れて攻め落とします……!」

 今は、彼らの死を悲しんでいる暇はない……。この国を守るの……!


 サルバドール国と私たちの国のちょうど中間地点。そこに二つの軍勢が見合っていた。

 向こうもこの時のために最大戦力をつぎ込んでくるだろう。これが、きっと、最後の戦いだ……。


 静かに目を開けて剣を抜く。

「アリアナとルーク様へのたむけを、今ここに贈りましょう……」

 向こうからは軍勢がやってきている。一人が槍を投げると一斉に、彼らは手に持っていた槍を私の方に投げ始めた。


 体に沢山の槍がささる。

 もう死んでもおかしくないぐらいの血が体から溢れ出して、真っ白の毛並みだった馬も、私の血で赤く染まってしまった。


 体が動かない。神経が麻痺しているような感覚だ。

 それでも彼らは容赦なく、私に槍を投げ続ける。


『……ヒール』


 すると、緑色の光とともに全ての槍が地面に落ちて私の傷も無くなった。


「っ! なんだあいつ!」

「化け物か!?」


 私はそのまま前に進み、何人かを斬り殺す。

 すると、全身が槍に貫かれた。これでもかと言うほど、槍は私に突き刺さる。


『……ヒール』


 また、先程と同様に私は回復した。

 そのまま人を殺し続ける。



 どれぐらい経っただろうか。500人程度いた兵士たちも、もう20人程になった。

 だが、ヒールが発動しない。魔力が切れてしまったのか。一旦、身を隠さなくては。

 急いで、近くにあった岩出てきた洞窟のような場所に隠れる。だが、血痕が残っているから多分、すぐに見つかってしまうだろう。

 近くに探し回っている兵士たちの足音がする。

「どこに行った!?」

「さがせ!」

「……ん? これ、血痕じゃねぇか?」

 ちっ……。思ったより早かったな……。まだヒールは回復していない。これではもう……。

 兵士が一人、近づいてくる。

 なぜ一人なんだ? 増援を呼ばないのは何かの策なのか……。


「"先生"!? どうされましたか?」

「いいのだ。気にするな」


 "先生"!? もしかして、奇襲作戦の時の男が言っていた……?

 そして、"先生"と呼ばれた者は洞窟の中に入ってきた。洞窟の外から漏れ出る光に当たり、その人物の顔があらわになる。


「あ、貴方は……!」

 そう、彼だったのだ。





 そこに立っていたのは、ラールド団長だった。

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