第21話 悲劇の幕開け

 翌日


 また、サルバドール国の者たちが奇襲にやってきた。迎え撃つは私と兵士数百人。


 兵士のようだが傭兵にも見える数千人の彼らは、主将を見つけて鼻で笑う。

「ははは! 女が前線に出てるぜ!」

「馬鹿じゃねぇの!?」

「後で、捕虜にするか!」

「それはいいなぁ!!」


「ちっ……」

 私は腰に付いている銃を水平に前に突きつけ、

「一斉射撃っ!」

 そう叫んだ。

 すると、私の両横から大勢が前に向けて、銃や大砲を打ち始めた。敵の一陣の盾持ちの奴らは大砲で砕き、その後ろを細かい銃で打つ。


***


 これを繰り返し、全ての弾を打ち終えた時、奴らは半壊状態になっていた。残りはもう、100人もいない。


 大砲を打っていたものはその場を離れて剣を抜く。そして、混乱している敵勢力に乗り込んでいく。それは一方的な虐殺だった。


 私も剣を抜き敵陣に突撃し馬を降りる。そのまま、後ろから岩で殴りかかってきた敵を、私は半回転して下から斬りあげる。


「ぐっ!」

 岩を手から落とし地面でうずくまって、痛さに悶絶している。その背中に後ろから剣を突き立てた。


「ぐあぁぁぁぁあ!」


 その剣を背中から抜く。すると、血溜まりが出来た。

 そのまま剣から血を取るために少し剣を動かす。血飛沫が飛び、剣から血がとれた。


 前を向くと、剣を持って突進してくる男がいた。

 これは愚策だな。避けてから首を斬ろう。

 私は衝突する少し前、左に避けた。すると

「っ!」

 衝突する瞬間、確かに避けたはずだった。が、男はありえない速さで手首を回し、素早く広い円を描くように周りを斬ったため、私は腹部を押さえた手を開いて見る。血がびっしりと付いていた。だいぶ深い傷を負ってしまったか。


 だが、この状態で『ヒール』を使うと、もし生き残った輩がいて、敵軍に戻り『ヒール』の事を話せばバレてしまう。必ず全員仕留めるという確信がある時以外は使ってはならない……。


「貴様、随分やるようだな」

「俺たちは先生に拾われて……先生のために戦うんだ!」

 男は震えながら言う。

「そうか、捨身ゆえの強さというものか」

 ……先生? その者に先程の剣技も教わったということか。なるほど、少し興味があるけれど……。


「そうか、覚悟は十分。だが……詰めが甘いっ!」

 男は後ろを振り向く。そこには、銃を持った私の軍の者が二人。

「っ! まっ……」

 男は何か言おうとしようだ。だが、軍人たちは、銃で足と手に3発ずついれて、行動不能にした。


「ぎゃぁぁぁあ!」


「この男は監禁をしたのち拷問し、軍の情報を吐かせることとする。城に連れて行け!」

 私はそう言い放つ。

「はっ!」

 軍人たちはそのまま苦痛に悶えている男を連れて行った。

 あの男は"先生"という人物のために戦っていたらしい。それに『俺ら』とも言っていた。きっと、他にも、"先生"のために戦っている奴らがいるのだろう。そいつらの情報も、あいつの知っている情報は全て、吐いてもらわなければな。


「……っ、奴らを壊滅させる! 全軍、前へ!!」

 私は腹部を押さえながら言う。


 そのまま、自軍は残りの者たちを殺害していった。





 私たちは城に帰還した。

 負傷兵と自分のヒールをしたせいでもう、魔力が切れてしまった。


「はぁ、はぁ、」

私は魔力も体力も枯渇した体で、意識が朦朧としながら城の中を歩く。


「……リーン、大丈夫か?」

私は声のした方向に目を向ける。カムレアがいた。

「……カムレア。うん、大じょ、うぶ……」

私はそう言ったものの、そのまま意識がなくなった。


「おい、リーン!!」


***


目が覚めた。シャンデリアと天井が見える。


「……」


「お、起きましたか」

カムレアは壁に寄りかかって、本か何かを読んでいたようだ。


「……ずっと見ていてくれたのね。ありがとう」

「はいはい。おつかれさん。気分はどうです?」

「うん、だいぶ良くなったみたい。どれぐらい寝ていたの?」

「1日と半分です」

「っ、1日半!? ってことは、サルバドール国は……」

「はい。昨日攻めてきましたね」


「どうしたの!?」

「オレが、責任を持って指揮官を務めました」

「っ……貴方、危険じゃない! あれほど……」


「まっ、いいじゃないですか。そうだ、体が動きそうなら、リーン様も労いで、実家に帰ってみればじゃないですか?」

 カムレアは言う。

「……そうします。ありがとう」


 私はカムレアに言われた通りに、久しぶりにガルシア邸の皆の様子を見に行くことにした。

 私は馬に乗り、ガルシア邸に戻った。


すると、私の家は扉がとても大きく開かれていて、窓ガラスが割れていた。

馬を降りて玄関の扉を開けようと鍵を使う。『ガチャ』と、鍵の音が鳴り、私は扉を開けようと引っ張る。だが、開かない。ということはつまり、今、鍵を閉めてしまったということ。だから今まで鍵は開いていたということになる。

 おかしい……。なんで鍵すらもかかっていないのだろう。


もう一度、鍵を開けて、家の中に踏み込む。すると、玄関の前に血溜まりが出来ていた。

「っ!」

 顔が強張るのが分かった。その血溜まりを追いかける。すると、アリアナの部屋の扉の中まで続いているようだった。

「……」

 おそるおそる、アリアナの部屋の扉を開けた。

 左胸を刺されて、倒れているアリアナがいた。


「っ! アリアナ!? どうしたの!?」

「お……姉様……?」

 アリアナは目を開ける。

「喋ってはだめよ!」


「あはは……。いいですか、お姉様、急に、家の中に、おそらく敵国の兵士が、入ってきたのです。……そして、殺されそうに……なったのです……。私は……ギリギリ逃げたので、いきなり、殺されることは、防いだのですが……アリサやコックさんは……つれさられて……」


 アリアナは涙を流す。


「……」

「そのまま、アリサとコックさんはどこかに連れて行かれました……。私は、自分の、部屋に、逃げ込んだのです。けれど、バレてしまったようで……」


「ヒール!」

 私は手をかざして言ったが、何も起きない。

「っ! ヒール!」

 涙がボロボロと流れる。

「なんで!? なんで出ないのよ!」

 理由は分かっていた。戦場で使いすぎたのだ。


「っ……」

「お姉様、私は、もう、だめです……。また、奴らが来るかもしれないので、早く、逃げてください……」


 アリアナは少し笑ってみせる。彼女はだいぶ、重症だった。


「嫌だ! 私は逃げない!! ごめん……、ごめんね……、私が、私が……!」

「お姉様、謝らないで、お姉様は何も悪くない。今までありがとう。私、お姉様のこと、大好きです」


 アリアナは静かに目を閉じて、動かなくなった。

「……」

 私は立ち上がる。何も考えたくなかったからだ。

 そのまま、家の外に出て地面を見る。


 馬の蹄と人の靴の跡が微かに残っている……。方向は南側に直線。人数は数名。おそらく5人程度だろう……。

 私は近くに止めて置いた馬に乗る。

「はっ!」

 そのまま、全速力で駆け抜けて南側の山に入る。


山を探すこと数分、かすかに火の焦げている香りがした。馬を降りて、音を立てないように徒歩でゆっくり歩く。

 いた……! 兵士のような男たちが焚き火をしている。だが、まだ奴らがガルシア家を襲撃した者たちと決まったわけではない。私は木の後ろに隠れて動向を伺う。

 よく見ると、布に包まっている細長い物が2つある。あれは……人?


 その細長い物から髪が少しだけ見えている。

あの茶色の髪は……。

おそらくアリサだ。くそ、やっぱりこいつらが犯人なのか。今からでも……。

 私は剣を鞘から抜き、落ちている枝を拾う。

その枝を投げる。

「パキッ」

「なんだ!?」

 男たちは警戒態勢に入る。

そのまま、私は二人を両脇に抱えて走る。


布を取る。すると、口と手と足を塞がれている、アリサとコックさんがいた。

「大丈夫ですか!?」


 口と手と足の拘束を取る。

「は、はい……。ありがとうございます」

 アリサは頭を押さえる。

「キャスリーンお嬢様! アリアナお嬢様が……」

 コックさんは私の顔を見て察したようだ。きっと、私の目の周りは真っ赤なのだろう。


「……すみません」

「いいのよ。貴方達は悪くないわ」

 アリアナを殺した動機はなんだろう。

 おそらく、公爵家という権力を持った人間を殺すことによって、私たちの国の戦意を削ぐつもりだったのか……。だが、大体の公爵家はもちろん護衛をつけている。そのため、あまり金がないが、国の王妃を出したという権力を持ったわたしたちの家を狙ったのだろう。


 私は立ち上がる。

「どちらに……?」

 アリサは聞く。

 私はしっかりと前を向いた。

「……奴らを、皆殺しに」

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