第20話 差し入れ
「まず、穀物を炊くんだけど……料理長さん、釜とか、あるかしら?」
「ありますよ」
「じゃあ、釜にまず、穀物を入れて水を……このくらい入れて」
「は、はい!」
グレースさんは頑張って料理している。
いやぁ〜いいね! 好きな人のために、健気に初料理を作るとか! 青春(?)だね〜!
私はニヤニヤしていた。……けれど、少しだけ、胸が痛かった。
そうだ! 私もおにぎりを……。
***
「で、できました!!」
「うん、頑張ったね!」
「穀物にこんな使い方があったとは……。王妃様、参考にしてもよろしいでしょうか?」
「ええ、大丈夫よ。そうね、もう昼下がりだし、急いで渡しに行きましょうか」
「あ、ありがとうございます!」
「じゃあまたくるわね〜」
私は手をヒラヒラさせて厨房を出た。
さて、おそらくカムレアたちがいるのは都に入るための城門付近か……。とりあえず行ってみないとな。
***
「カムレア様、いらっしゃいますかね?」
グレースさんは顔が赤い。ドキドキしているようだ。
「……あ、いるわよ。カムレア、あそこの方に」
私はカムレアを見つけて指を指す。彼は、城壁の上で監視をしているようだ。
「……本当ですね」
緊張しているのか、グレースさんはおにぎりの入ったお弁当箱をぎゅと握りしめている。
「ほら、行ってきなさいよ」
私は少しいたずらしてやろうと思い、肘で脇腹をくいくいとつつく。
「う、うぅ……。い、行ってきます……」
グレースさんは走って行った。ま、私も行くんだけどね。私はこっそりあとをつける。
「か、カムレア様っ!!」
「ん? ああ、グレースか、どうしたの?」
「あ、あの……」
「?」
「こっ、これを! どうぞ!!」
「これは……」
カムレアはお弁当箱を受け取り、蓋を開ける。
「なに……これ?」
「これは、おにぎりと言う物だそうです! キャスリーン様に教えてもらいました!!」
「え、リーンに!? ……あ、リーン様に?」
「はい!」
「そうなんだ。ありがとう。じゃあ後で食べるね」
「っ! あ、ありがとうございます!!」
グレースは直角にお辞儀する。
「あ、あのさ、それはありがたいんだけどさ……」
カムレアは少し聞きづらそうに言う。
「はい?」
「オレ以外の兵士たちの分はない感じ……?」
「あっ! …………すみません。忘れておりました。妾、一生の不覚にございます……」
グレースさんは落ち込んでいる。
やれやれ、やっぱこうなったか……。
「はいはい、他の兵士さんたちの分は、私が持ってきたわよ」
私は二人の前に出る。
「え、リーン様!? どうしたのですか?」
「だから、兵士さん達の分は私が持ってきたから、心配ないって言う事よ」
「……キャスリーン様ぁ〜」
グレースさんはありがとうございますと言った。
「いいのよ、多分こうなるだろうって私も思ったし、貴女が作ってるとき、暇だったから作ったの」
「え……? 私が4個作っている間にその量を……?」
200個ぐらいあるかもしれないぐらいの量のおにぎりを横目に、グレースさんは言う。
「? うん、そうだけど」
「……王妃様って、とても凄い方ですね……」
グレースさんは言う。
「そう? まあいいわ、じゃあ私は戻るわね。見張り、頑張って〜」
私はそのまま、おにぎりをカムレアに渡すと、城に戻ろうと歩き出す。
「あっ、王妃様! すみません、カムレア様。失礼します」
グレースさんはお辞儀をして私の方に走ってくる。
はぁ、私ったらなにイライラしてるの……。
よく分からないけれど、少しムカついてしまった。
「……はぁ」
***
『コンコン』
ルーク様の部屋に入る。彼ははいまだに眠られていた。
「……」
すると、兵士が入ってきた。
「リーン様! 伝令でございます」
「どうぞ」
「はい。おそれながら、サルバドール国が今日にも都市に到達するとの予測です!」
「っ!」
そんなに早いのか……。それなら呑気に、ルーク様の回復を待つことなどできない。
ミルド様も向こうに行ってしまっているのに、誰が軍を率いて戦えばいいのだろう。なるべく地位の高い者でないと、信頼も減るし士気も下がる。
だれか……適任の者はいないのだろうか。
兵士たちが部屋から出ていく。
「リーン様、将軍は見つかりそうですか? 最悪、オレがやってもいいですけど……」
カムレアは言う。
「貴方は首都防衛の最後の要なの。こんなところで出せる人材ではないわ。それに……」
私の回復も効かないんじゃ、下手に怪我されても困るし……。
「誰が……」
あ、
そうだ、私が、いた。私なら地位は高いしルーク様の代わりになるだろう。
「どうしたんです?」
カムレアが言う。
「……私が、やる」
私は前を向く。
「いや、そっちの方が危険だ! お前が行くくらいなら、オレが行く!」
「っ、危険なことだって、分かっているわ。でも、私は剣術もやっていたし、ヒールも使える。適任だと思うから……」
「……」
(確かにルーク様が眠られている状態の今、軍指揮を任せられる適任者はリーン様だ。彼女には才能があったしな)
カムレアは思い出す。
「懐かしいですね。昔、貴女と剣術をしてたことを思い出しました」
彼は言った。
「……そうだね、あの時から、私たちはとても変わってしまったけれど」
「……はあ。
まあいいですよ。 そのかわり、オレも出ます」
「ううん! 大丈夫! 自分の身は自分で守るわ!」
「……本当に大丈夫ですか?」
「ええ!」
「では、いざとなった時用に、オレは後ろの方の本陣で待機してますよ……」
***
私は、いつもの服の上から、静かに銀色の鎧を着る。ひんやりとした感覚が尚更、緊張を際立てる。
最後に、ルーク様の剣を取ろうとしたが、
「……」
私は思い立って、自分の部屋に行き、クローゼットを開けた。そこにあったのは、いつの日かカムレアとアリアナに貰った剣だった。綺麗で細い刀身に、銀色の綺麗な装飾。その剣を手に取る。
そして、外に出る。我が国の民達がこちらを見ていた。ピリピリとした緊張が肌を刺す。
そのまま、都の城壁を出る。向こうから、サルバドール国の軍勢が見える。
……後、数メートル……。
……5,4,3,2,……1
「……全軍、突撃せよ!」
私は銃を構えて言う。
すると、後ろから馬に乗った者たちが一斉に、敵兵に突っ込んでいった。
私も、後から剣を取って敵陣に乗り込んだ。
「はあっ!」
剣で相手の足を斬りつけ、倒れ込んだところを頭に銃で一発埋め込む。
すると、上から剣を持って襲いかかってくる者がいた。
「っ!」
しまった! 急いで銃を向けて打つ。
「ドン!」
その男は後ろに倒れた。
初めて……人を殺した……。っ! ダメだ、私!! 戦場でこんなことを考えるな。今はただ……
一人が剣で斬りかかってくる。
「っ……」
私は体を前にかがめて彼のお腹を切り裂いた。
「ぎゃぁぁあ!」
悲鳴が聞こえる。
私は目を瞑る。何も考えない。今はただ、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺しつくす……。
殺戮を一日中、繰り返した。リーンの綺麗な白髪は、血で真っ赤に染まってしまった。
サルバドール国は損害を考慮し、一時撤退をした。
「っ……おぇ……」
気持ち悪かった。でも、私は最高指揮官。表上は凛々しく、強く。そうしなければ、誰も私にはついてこない。
私は戦場で傷ついた兵士たちを治療するために一時的に設置した、保護室に行き、
「負傷兵の手当を! 重症のものは、私のところにもってこい!」
と大声で言った。
そのまま、夜になる。
「っ……」
私は部屋に戻るや否や、倒れるようにベットに横になる。お風呂のせいでまだ濡れている髪にもお構いなしに。そのまま眠りについた。
ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめん、なさい……。
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