第19話 奇襲の不安

 翌日 夜


「では、奇襲作戦に行ってきまする」

 ミルド様は暗闇の中で言う。

「はい。健闘を祈ります」

 私は言う。


 ミルド様と一緒に戦う軍隊は少数精鋭の選りすぐりたちで、奇襲には申し分ないだろう。あと、少し不安なのが、向こうも同じ考えだった時だ。つまり、|向こうも同じように奇襲を仕掛けてきた時が一番怖い。なぜなら向こうは手薄になった我々の首都を狙いにくるわけだからだ。


 ミルド様は会釈をし、そのまま軍勢を引き連れて、馬に乗ってサルバドール国まで走って行った。


 サルバドール国まで行くのには5日かかる。逆もまた然り。


 だから、敵が奇襲を仕掛けてくるならば、ルーク様に何かをした、あの男が来た日から5日後のつまり明日。明日が1番の山場と見ていいだろう。


 そして、ミルド様の部隊の応援も見込めない。伝令が向こうについてからミルド様たちが帰ってくるのに、最短でも2日以上はかかるだろうからだ。


 逆に、残り1日は、ミルド様達にこの国で待機してもらうことも考えたが、それは逆効果だ。


 奇襲は遅ければ遅いほど価値がなくなっていくものだからだ。つまり、この2日間は、私たちだけで何とかしなければいけないのだ。


 私は緊張した面持ちで顔を上げ、しっかりと前を見る。大丈夫。私ならできる。きっと何とかなる……。


 


***



 私は自分の部屋に戻る。

「どうでした?」

 カムレアが聞く。

「うん、やっぱり心配だけど、頑張ろう……!」


 まずは指揮官を決めなければ。と言っても、彼らは絶対にやりたがらない。


 予想できる。つまり、指揮官をできる者はいなくなってしまう。そこが問題点だ。


 その後、いつ襲撃を受けてもいいように、その指揮官の指示のもとで警戒体制を取る。それは、ミルド様たちが帰ってくるまでだ。


 おそらく彼らは敵の足元を救ったら、すぐに戻ってくるだろう。その時、入れ替わりで倒れた状態の彼らを叩きに行く部隊も必要だ。


「……カムレア、私の護衛は一旦いいわ。だから、ミルド様たちが帰ってくるまで、首都の防衛をして欲しいの」

「別にいいですけど、リーン様の護衛はどうするのですか?」

「いや、う〜ん……。ひ、一人でも大丈夫かなって……」

 私は小声で言う。


「はっ、今敵国の者が紛れ込んでいるかもしれないこの状況で!? 一国の王妃様が一人!?」

「う〜、分かったよ。じゃあ誰かテキトーに連れてくるから」

「だめです!」

「え〜……」


「たしかに貴女は普通の人よりは強いですけど、敵としてくるのは暗殺者だったり、魔法使いだったり、色々、常軌を逸している方々ばかりなのです!」

「でも、私も誰も使えない魔法、使えるよ?」

「っ! そういう問題では……」


「まあいいです。ならばオレの副官の女性を付けましょう。おそらく明日から来ると思いますので」

「へぇ〜? その人は騎士団の人なの?」

「違いますね、確か……。なんでしたっけ?」


 その女の人、覚えられていないのか……。


「まあいいです。とりあえず、オレは明日からの防衛の準備に入るので、失礼します」


「あ、うん。兵士さんたちは下に待機してくれてると思うから」

「はい」

 カムレアは部屋の扉を閉じた。

 寝ようかな……。



 翌日


『コンコン』と扉を叩く音で目を覚ました。

「はい?」

「失礼します」

 女性の声がして、扉が開く。

「はじめまして、王妃様。妾は、グレース。カムレア様の副官でございます。本日から王妃様の護衛をさせていただきます」


 長い黒髪を高くポニーテールにして、緑眼の背が高い綺麗系美女だった。


 美女だぁぁあ!


「よろしく、グレースさん」

「はっ」

 昔やってた三國○双の練師を思い出す人だなぁ……。

「そんなに堅苦しくなくて、大丈夫よ」


 もう、前王妃もいないしいいよね?


「そ、それでは……」

「大丈夫よ」


(た、たしかにカムレア様も、『いいか、グレース。リーン様はとてつもなく破天荒だ。本当に王族かと耳を疑うようなことも度々言ってくる。うまく流すんだぞ……』って、おっしゃっていましたし……)


「了解しました。ですが、そのようなわけにはいきませんので、ご理解を」

「はーい、まあ、しょうがないわね。……あ、そうだ! 貴女のところでのカムレアを教えて!」

「か、カムレア様ですか?」

「うん! どんな感じ?」

「特には……。はい、カムレア様は剣術に秀でている、とても、優秀な騎士団長殿でございます。15歳にして騎士団長に任命されるのも納得できます。それほど、素晴らしい方です」


 グレースさんはとても嬉しそうに笑う。


「……そう、なんだ」

「で、では、失礼します。扉の前で待機していますので、何かあったらお申し付けください」  

「うん、ありがと」


 グレースさんは出て行った。

「……」

 カムレアは、いつもあんな綺麗な人といるんだ。

 っていうか、グレースさんって、カムレアのこと好きなんじゃないの!? 話す時、すごい嬉しそうにしてたし!! だって、あんないい奴が上司にいたら、好きにならない方がおかしいんじゃない!?


 ……う〜ん……。


「よし……。気になることは悩んでいてもしかたなし! 本人に聞く!!」


 私はおそるおそる扉を開ける。

「! どうしましたか!?」

 グレースさんは戦闘体制に入る。

「あ、や、違くて! あのさ、グレースさん……」

「はい?」

「……とりあえず、座って下さい」

 私は部屋の中に入ってと促す。

「ありがとうございます」

 グレースさんは椅子に座る。


「あのさ……グレースさんって」

 がんばれ、私……!

「カムレアのこと、好きなの……?」

 言えた!!

「へ……?」

 グレースさんは顔が真っ赤になる。

「……それは、……はい」

 コクリと頷いた。


「っ! やっぱり!!」

「……そ、そんなにバレやすいですか?!」

「あ、いや、普通ならわからないと思うけど……」


 何で私は分かったんだろ?

「そ、そうですか……」

「そうだ! グレースさん、カムレアに会いに行こっか」

 私はニヤニヤして笑う。

「え!? 今からですか!?」

「うん、都を警備しているじゃない? あいつのことだからなにも食べてないと思って。あれじゃあ部下が可哀想よ」

「で、も、差し入れとか……」

「作ろう!」

 私は笑顔で言う。

「で、でも、妾は料理なんて……」

「大丈夫だって、私教えるし!」


 なんせ私は女子校育ち! 料理と裁縫のお勉強は結構やったからなぁ……。

 私たちは王宮の厨房に行く。

「お、王妃様……?!」

「どうされましたか!?」


 料理長さんたちのこの反応……。やっぱり前王妃は料理なんてしなかったんだな。


「料理をするのよ。端っこでいいから貸してくれない?」

「端っこなんて、まだそうもございません! 真ん中をお使いください!」

「え? まあ、どっちでもいいんだけど。じゃあ、真ん中で」


 私とグレースさんは厨房に立つ。

「何を作るのですか……?」

「うーんとね、手軽に食べれる物……」


「うん、決めた。焼きおにぎりにしよう!」

「焼きおにぎり? なんですかそれは?」

 グレースさんは聞く。


「えっとね……。料理長さん、玄米とか穀物系ってある?」

「はい。ほぼ使ってはいませんが……。持ってきますね」

「ありがとう!」

 やっぱり思った通り! 一応お米系のものはあるけれど、使い方がわからないんだわ! 煮るみたいな文化はないのかしら?

「お米を使って炊いたものを三角の形にして、それを焼くんだよ」


 せ、説明、いざとなると難しい……。

「なるほど……」


「持ってきましたよ〜」

「おー! ありがとう。じゃあ、作りますか!」

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