第16話 ゲームの世界

 ……? 王妃はなにかを手に握っているように見える。なんだろう。ペンチみたいな……。


「なにがかしら? そう、わたくしね、貴女のために王妃のなんたるかを教えに来たのよ」

 王妃はニヤリと笑う。

「……ありがたき幸せに存じます」

「うふふ。……貴方、護衛よね?」

 王妃がカムレアに向けていう。

「はっ」

「……そうね、わたくし、彼女に大事な話があるの。出ていってくれるかしら?」

 そう言いながら笑うが、明らかに何か企んでいるのだろう。

私は袖をぎゅと握る。……怖い。


「……恐れながら、それはできません」

 カムレアはまっすぐ前を見て言った。

 

「な、 何を言っているの!? い、今すぐ出ていきなさいっっ!!」

 王妃は大声で叫んだ。


えっ……?

なっ、何を言っているの、カムレア!? 王妃様に逆らうなんて!


「残念だけど、それは出来ません。オレはリーン様の護衛ですので。どんな危機だろうと、護衛対象を守らなければ」

 カムレアは前に出て言う。


「っ! わたくしの命令に逆らうと、どうなるかを教えてあげるわ!!」

 王妃はカンカンに怒って部屋を出て行った。


「そういっても結局は、王様に言いつけるだけでしょうに……。ありがとう。カムレア」

 私は王妃が出て行った後で言う。


「いいえ、それがオレの仕事ですから。ですが、今のは少しまずかったと反省しております。王妃様にはお気を付けを」


 そっか、もう、仕事がなくなったら、私とカムレアの間には何もないんだ。


「……ありがとう」

私は微笑んだ。


数分後、また、勢いよく扉が開き、人が入ってきた。


「お邪魔するわ!」

 その声は……

「! 美咲さん!」

「麻里咲! ……あっ、り、リーン……」

 美咲さんは他の人がいることに気づき、やってしまったとばかりに口を押さえる。


「貴女、兄の結婚相手なのよね? ってことは、私の義姉だわ!」

 いつも以上にテンションが高い。

「そうですね」

 私は笑顔で返す。

すると、彼女は真顔で

「……貴女、少し変わったわね。嫌なことでもあったの?」

と聞いた。

 くっ、目敏いな……。


「そ、そうですね、特にありませんが、強いて言うなら先程、王妃様がいらっしゃいまして……」

「まあ、うちの母ね。はぁ……。あのさ、愚痴言っていい?」

「ええ? あ、はい」


「アタシ、あのクソババアめっっっっちゃ嫌いなんだよね。結局、親設定だけど親じゃないし、ただの他人だし。うちの母親の名前は御堂美樹ですっつーの!」

「そ、そうなんですか……」


 美咲さんの苗字って御堂って言うんだ……。

 あれ? アタシ……? 美咲さんの一人称、わたくしじゃなかったっけ?


「もとから、ゲームの時もヒロインに優しくしてるって言ってたけど、絶対、影でいじめてるパターンだと思ってたのよね〜。で、そう思ったのも束の間、私は実の娘だから溺愛してるけど、ルークお兄様はめっちゃ嫌われてるのよね〜」


美咲さんは呆れているようだ。


「! み、美咲さん……その話、もう少し詳しく……」

「えぇ? お兄様の話知らないの?」

「はい……」


「えっとね、ルークお兄様はもうすでに、亡くなってしまった側室の子なの。で、王様の強い意志によって彼を王にしたいってなってるじゃない? だから、あのクソババアはとても嫌っているの。自分の子を王にしたかった〜! って言ってね」


「そうなんですね、ありがとうございます」


「そうよ……。しかも、噂によると、お兄様の母親の側室を殺したのもクソババアなんじゃないかって! しかも、確たる証拠があるらしいのに、それを揉み消したそうなの!」


「……それは本当だったら酷いですね……」

「そうなのよ! でも、わざわざ人を殺したのにそれでも目標を達成できないってザマァ過ぎるわよね」

 美咲さんは嬉しそうな顔で言う。


「……そう、ですか?」


 でも、死んだら人生はそこで終わりだ。だからルーク様のお母様は王妃が作戦に失敗したところで、結局、報われたわけではないのだと私は思った。


「ん? まあいいや、またね〜!」

「は、はい!」


 い、いっちゃった。相変わらず嵐だなぁ……。


「り、リーン様……?」

やっぱり、彼に様付けで呼ばれるのは違和感しかない。変えてもらいたいなぁ……。


「 今は敬語じゃないても構いませんが……」

「いや……それは出来ません。お気持ちだけいただいておきます。……けれど、い、今の、ミサ・アークリー様ですよね?」


「あー、はい、そうですね」

「先程、ミサ様がおっしゃっていたように、彼女は王妃様の実の子ではないのですか……!?」

 しっ、しまったぁぁぁあ!


『結局、親設定だけど親じゃないし、ただの他人だし。うちの母親の名前は御堂美樹ですっつーの!』


 って、美咲さん言っちゃってたし誤魔化し切れない! つーかなんで他人いるのに話したんだあの人は!!


「本当のお母様はミトウミキ様という方なのですか?」

「あ、いや……。えっと……」

 どうしよう。もう隠してしまうのもめんどくさくなったし、言ってみようかな……。でも、引かれたらやだなぁ。


「あのね! ここは乙女ゲームの世界なの!!」

「……は?」

 思わず言ってしまったが、大丈夫な……わけないよね!! うわ、やっば! どうしよう!

「何言ってるの?」

「えっと……。あの……」

 選択ミスったか! いや、冷静に考えると当たり前だぞ!

「お、おとめげぇむ? ってなんですか?」



「えっと、現実リアルから逃避するために作られた、乙女のためのイケメンと戯れるゲームです……」

オタク特有の早口が出てしまった!


「……げぇむって、例えばアーチェリーの試合も1ゲームと言うけど、そういうことですよね? ならば、イケメンを見せ物にする文化ということですか……?」

カムレアに、すごい引かれた気がする……。

「ちっ、違う……!」




***



「……なるほど、理解しました。その世界ではそんなにも破廉恥なゲームが……」

(絶対に嘘だ……)



「う、うん……」

 説明するこっちも恥ずかしいわ!!

「で、ここはそのゲームの中だと言うこと……ですよね?」

「はい。そして、攻略対象のイケメンの一人が貴方です」

 すると、カムレアは一気に顔が赤くなる。


「おっ、オレが……」

「はい、貴方は、えっと……。人気投票も一位だし、一番人気のイベントは、夜景前でのキスイベントだそうです」

 私は真顔で説明する。


「キっっっっっ!? そ、それに人気も高いのですか!? こんなオレが!?」

「いや、こんなっていうか、だいぶスペックは高いと思うけれど……」

「なっ、何を言っているのですか!」


 カムレアはものすごく照れている。

 まあ考えてみれば、知らないうちに知らない誰かとキスやらなんやらをしていて、知らないファンが出来ているのはめっちゃびっくりするだろうな。なら、知らない誰かじゃないことを教えてあげないと……。


「……それでね、プレイヤーがプレイするキャラがいるんだけど、貴方はその子と恋仲になるの」

「なるほど。そのキャラクターにプレイヤーは自己投影をすると言うことですね」

「そうそう、で、そのプレイキャラがアリアナです」

「!?」

「あっ、アリアナ……? オレとアリアナさんが恋仲……?」

 彼のキャパはもう、精一杯な感じだ。


「オレがアリアナさんを好きになるということですよね、今、好きなわけではないのですから……」

「うん、そうだよね」

 少しよかったと思った。



ん? なぜ? なんでよかったと思ったの?


……あ、

 アリアナはルーク様が好きだから、絶対に叶わない恋だからもしも好きなら、カムレアが可哀想だと思ったんだ。

 そうだよ。そうだよ、私。


「それは本当のことですよね……?」

「当たり前でしょ、本当じゃなかったら私のただの妄想じゃない。あ、でも他言無用で。バレた時、こうやって時間かかるから」

「な、なるほど……」

 体感的にはもう、3時間ぐらいは説明しただろうか。

「ありがとうございます。あ、他言無用ってそれはルーク様もですか?」

「うん、ルーク様にも話してない。知ってるのはカムレアと美咲さんと私だけ……だと思う。多分」

「そうですか……。あ、すみません、少し呼び出しがきました」

「あ〜うん、行ってきていいよ」

「はい!」


 カムレアは廊下を歩く。


(ルーク様も知らない秘密……!)

カムレアは少しだけ、心の中でガッツポーズをした。


(いやでも、冷静になるとオレにファンがいるとか、ちょっと恥ずかしいな……。というか、あれは絶対にリーンの虚言だろうし、普通に考えてありえないよね……?)



 私はあくびをする。眠い。今は何時か、時計を見る。中世に存在しないはずだが、しっかり機械仕掛けの時計が部屋にはかかっている。

 そう、メタなことを言うと、現在の日本の会社が使っているゲームだからこその特徴だが、たまに、いや、『これは中世ヨーロッパにはないだろ』と思うものがある。

 例えば今の時計とか、後、驚いたのは窓ガラスだ。中世って、窓ガラスなんて絶対ないよね……?


 逆に、消毒をワインとか、そういうところはしっかり調べているようで、色々ガバガバである。


 ゲーム自体をやっている時は気づかなかったが、例えば場面が切り替わる時、2:30 城内 とか出てくるけど、この時代、そんなに正確に時間が分かるはずがないのだ。

 やっている時に気づかなかったことは結構あって、多く気付かされた。結構こういうのをみるのは楽しかった。

「ふぅ……。また探してみよう!」


王妃になって、やっと暇潰しができる!

そう、私は思った。

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