第15話 四年後

 あれから四年程度の月日が流れて、私は14歳になった。前世というか、日本で暮らしていた時から考えると22歳だ。


 凄いなぁ〜、もうお酒も飲めるのかぁ〜……。お酒ってどんな味がするんだろう。昔お母さんに聞いた時には、『え〜? 苦いわよ?』って言ってたけど、だったらなんで、大人ってわざわざ苦いのを飲むんだろう。


 そんなことは置いておいて、明後日は私とルーク様の結婚式だ。私の阻止計画も虚しく、失敗に終わってしまったのだ。最近、本当にアリアナの顔が本当に暗い。私は部屋に入れてくれないし、アリサ曰く、ずっと寝込んでいるそうだ。

今日は突然、カムレアが訪ねてきた。


カムレアも、いつの日からか一人称がオレに代わったんだよね。

私も、お嬢様言葉というか、女性言葉をする様になった。なんせ、王妃様になるのだから。


***


少し、間を開けて、街を歩いた。

 そうか、私が嫁入りしちゃったら、『男の子』であるカムレアとは、もう、そんなには会えないんだな。それに、騎士団での練習はおろか、剣すら握らせて貰えないかもしれない。大人しく、お行儀良く、椅子に座りながら御作法を学ぶ? 楽しい人には楽しいかも知れないけど、私は嫌だなぁ……。


「……お嫁になんて、行きたくない……」

私は気付かぬ間に呟いていた。


「リーン……?」

カムレアはとても驚いている。

「あ、いや、えっと……」

カムレアになら、話そうかな。

「私、結婚したくないの」

私は真っ直ぐ前を見て言う。

「……そんなこと、なんでオレなんかに喋ったの?」


それは、私は、カムレアが  だから……。


「……え?」

私は何を言おうとしたの……?

私にとってのカムレアって、なに?


「そ、それは、カムレアが……友達だから!」


とりあえず、私はそう言った。

「……そっか」

カムレアは少し笑う。


なんだろう。私は私自身が何を言っているのか分からない。

 

 2日後


 少し、憂鬱な気持ちで家を出る。もう、この家で寝泊まりするのは最後かもしれない。

「今までありがとう」

 私はアリサやコックさんたちに深々と頭を下げる。

「アリアナをよろしくね」

「はい」

 どうやら張本人のアリアナはまだ、部屋に閉じこもっているようだ。

「……」

 私は館の一番上の一番右側にある、アリアナの部屋を見つめる。カーテンは閉じてあり、部屋の状態は見えなかったが、何をしているかはわかる。きっと泣いているのだろう。


 迎えの馬車が来た。白馬が引いている木の車には王家の家紋が大きく刻まれている。


「お元気で」

「いつか顔を出しにくるわ。ありがとう」

 私はそう言い、馬車に乗り込こんだ。



***




「14歳、おめでとう、リーン。今日から君はキャスリーン・アークリーだ。僕と結婚してくれるかい?」


 きっと彼にとって、私と結婚するメリットはない。

「……はい、もちろんでこざいます」

 私は笑ったつもりだったが、不細工な笑顔だったのは自分の顔を見なくてもわかった。なぜだろう。

 なにか、いやだ。


「では、誓いのキスを……」

 私とルーク様は顔を近づける。

 少しだけ、横を見る。大勢いる民衆たちの中の後ろの方に、カムレアの姿が見えた気がした。

「っ!……」

 なぜか、涙が溢れた。




 結婚式終了後 城内 自室




 いつも以上にとても広い部屋……。今日からここで暮らすんだ。

 ルーク様はとてもいい人。それは分かっている。私は自分に、言い聞かせるように考える。でも、なにか、苦しいのだ。悲しいのだ。切ないのだ。

「ああ、あ……」

 私は顔を手で抑える。また涙が溢れた。


 すると、扉がノックされた。

「っ、どうぞ……」

 私はタオルで目元を拭いて言う。

 すると、カムレアが部屋に入ってきた。

「! カムレア、なぜ貴方がどうしてここに……!?」

「どうもこうも、オレが貴女の専属の護衛長を任された、カムレア・ミルトレイでございます。よろしく」


 カムレアはそう言うと、顔を上げてにっと笑った。

 なるほど、騎士団の次期団長に相応しいように、私の護衛役にさせられてしまったのか。


「サプライズとは、これのことだったのですね」

いけないいけない、敬語で、お淑やかに。


「あ〜はい。どうしたんですか? 目が赤いですよ?」

「いや、別に……」


 ガルシア家では、きっと、アリアナは泣きじゃくっているだろう。彼女はルーク様のことが好きだったが、私に悪いと思い、その気持ちを隠し続けていた。結局、初恋は誰に打ち明けるでもなく終わってしまった。

「……」


「じゃあ、何か困ったことがあったら、言ってくださいね〜」

 カムレアはそう言い、手をヒラヒラさせた。その手が切れていることに気づいた。


「手を見せてみなさい」

私は言う。

「え? 紙で切っただけですよ……?」

「いいから!」


私はカムレアの手を握り、『ヒール』と唱えた。

すると、緑色に光った後、『バン!』という音とともに、緑色の光が弾け飛んだ。


「なに!?」

「あ、いや、オレには魔法が一切効かないんですよ。言ってませんでしたっけ……」

カムレアは困った顔で言う。


「何よそれ! ってことは、私のヒールも効かないってことじゃない!」

「ああ、はい……」

「なんで、もっと早くに言わなかったの?!」

「す、すみません?」

「まあ、いいわ……。下がって」

「はっ、はぁ……」


彼は部屋から出て行った。

おかしい。魔法が効かない人なんて、聞いたことない……。

不思議だなぁ。今度試してみないと。私は他の魔法とかは使えないし、誰かの手を借りる必要があるね……。


「ふぁあ」

私はあくびをする。そのまま、ベットに仰向けに横になる。


 なぜか彼を見ると寂しくなり、苦しくなる。

 昔は早く会いに行きたかったのに、今はとても、会いたくない。なぜなのだろう。私は、どうすれば良いのだろう……。


  


 気づかぬ間に、私は眠りに落ちていた。




「おや? 眠ってしまわれていますね」

 小声でルーク様の声が聞こえて目を覚ました。

「せっかく来たのですか……。また今度にしましょうか」

 そう言うと、扉を閉じて帰っていた。


「?」

 こんな夜遅くになんの用事があったのだろう。




***




 私は朝、目を覚ました。見慣れないとても大きく綺麗なシャンデリアが最初に目に飛び込んできた。


 そうだ。まず朝には目上の人から挨拶に行くんだ。

 この4年間、私はアリサ達に教えてもらいながら、作法のお勉強に励んだのだ。大分マナーはちゃんとできているはず!


 私は上皇后様の元に行く。

「おはようございます」

「あらおはよう、早いのねぇ」

 とても豪華に着飾ったおばあさんがいる。ニコニコしている。上辺だけのような笑顔に、とても吐き気がする。

 その後に、王様と王妃様のところに行く。

「下民貴族の出なんですってねぇ……!」

 王妃は私の周りを歩き回り、私の耳元で、

「でしゃばるなよ」

 とだけ言い、王様の隣に座った。

「うむ、何か困ったことがあったら言うようにな!」

 王様はニコニコとしている。

 王妃もニコニコしている。


 気持ち悪い。


 たしか、ヒロインが攻略対象の第二皇子か第三皇子と結ばれた場合、王妃にヒロインはとても気に入られて、楽しい王宮ライフを満喫したとエンドロールに書かれていた。

 アリアナは気に入られるけれど、私は気に入られないのね。

……宝石、重い。首が凝りそう。


 そのままルーク様の部屋に行く。

「おはようございます」

「おや、おはよう、リーン」

「ええ、そうでした。ご朝食を共にしてもよろしいですか?」

 私は上部だけの笑顔で言う。

「うん、じゃあ一緒に食堂まで行こうか」

「はい!」


 その後、私たちはあまり言葉を交わすことなく食事をしてから別れた。

 部屋に戻る。すると、カムレアがいた。

「そういえば、不倫する可能性があるからっていって、嫁に男の護衛をつけるのはあまりいいことではないと聞いたんだけど、カムレアは大丈夫なの?……かしら?」

「オレはルーク様に直々に任命されたので。

 おそらくですが、ルーク様は昔、オレと貴女様が一緒に訓練していたことをご存知なので、大丈夫だと判断されたのでしょう」

「そ、そうなの」


 ルーク様は私が一人で王宮に来るから、気を遣ってくれたのかな。というか、カムレアがその口調なのはなんか、落ち着かないっていうか……。

 でも、立場上、このままにしないといけないのよね。


 すると、いきなり王妃がやってきた。

「っ! 申し訳ありません!」

 私は急いで、座っていた朝から立ち上がる。

すると、王妃はニヤリと笑った。

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